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第一部
第12話 ゴールデンウィーク ~車内にて~ 1
軽やかなレールの音、身体に伝わる心地好い振動。窓外を次々に流れる景色が、次第に緑多き懐かしい風景へと変わっていく。
ゴールデンウィーク初日。雲一つ無い快晴の空の下、町田家の四兄弟と龍利は、ささやかなバカンスの地に赴く為電車に乗り込んでいた。朝早く出たお蔭で行楽や帰省客のラッシュにも遭わず、悠々と確保した座席で寛ぐ。
久々の旅行に一番はしゃいでいるのは永だった。
「――にしてもさぁ、ホント久し振りだよなー、伯父さんとこ行くの。何年振りだっけ?」
「もう五年くらい経つんじゃないかな。最後に行ったのは、僕が高校入ったばかりの時だったから」
誰にとは無しに投げられた永の問いに恵が答えると、丞も当時を振り返りながら頷く。
「そうそう。あの時までは、家族全員で行ってたんだよな。休暇が取れないって言う父さんに永が泣き付いて、無理矢理会社休ませたりなんてこともあったし」
からかうように笑む次兄に、永はムスッと拗ねて頬を膨らませた。
「んなことまで思い出すなよっ」
――四兄弟の伯父、洋介は陸郎の6つ上の兄だ。30代半ばで脱サラし、長年の夢だったペンション経営に乗り出した。初めの頃は何かと苦労が多かったようだが四、五年で利用客層も安定し、今では結構流行っている。旅行雑誌にも、お勧めの宿泊スポットとして紹介されるほどだった。
山間部にあり平地よりも気温が低い為、夏は避暑、冬は雪見の客が大勢訪れる。だが中途半端に肌寒いこの時期は、行楽シーズンにも関わらず多少客足が鈍るらしかった。「空きがあるから遊びに来ないか」と毎年のように声が掛かり、町田一家と龍利はゴールデンウィークの数日間は必ずペンションで過ごすようになったのだ。龍利の両親が一緒だったことも二、三度ある。幼い子供達は、初夏の連休を毎年心待ちにしていたものだった。
しかし、成長しそれぞれが多忙になっていく中で、『毎年』は否応無く『数年置き』になり、五年前を最後にもうずっと行っていなかった。それでも変わらず連絡をくれる伯父の元を、今年は自分達だけで訪ねようと言い出した恵に他の者が賛同し、今回の旅行が決まったのである。あまり気乗りのしない顔をしたヤツも、約一名交じっていたが――。
「――『あいつ』は、帰って来てんのか…?」
仏頂面でそう言ったのは覓。恵は少し考え込むように首を傾げる。
「そう言えば聞いてなかった。…でも、就職してからはお正月くらいしか帰省してこないんだって前に伯父さんが言ってたから、たぶんいないんじゃないかな」
「そうか」
途端に明るくなる覓の顔。あからさまなその反応に、丞は思わず苦笑した。
(いないのがそんなに嬉しいのか。あいつのこと、本当に嫌ってんだな)
そのまま窓の外に向けようとした視線を、はたと思い留まって引き戻す。その先にあるのは覓の右手。隣に座る恵の腰に廻ろうとしているその怪しげな動きを、他人に関しては目敏い丞が見逃す筈も無かった。
――ガンッ
「いっ!」
正面に位置する問題児の向こう脛に、丞の爪先がクリーンヒット。
「痛ってぇな! 何すんだよ、丞っ」
上体を屈めて脛を摩る覓に、やはり身を屈めて顔を寄せた丞が小声で怒鳴った。
「こんなトコで恵に手ぇ出してんじゃねぇよ。…ったく、見境なしだな、お前は」
「あー? 丞も応援してるって言ってたじゃねぇかよ」
「時と場所を考えろっつってんだ!」
丞に一喝されてから、覓が彼に対して行動を起こすことは二度と無かった。その代わり、恵への求愛攻撃は以前にも増して過激になったのだ。自分がどんなに本気で、真剣に長兄を想っているかを次兄にアピールするように、覓の言動は日々に連れ激しくなっていった。
そのことに丞は頭を抱える。原因はともかく、自分が焚き付けてしまった事実には変わりない。結果的に恵を一層困らせることになってしまい、不用意に零したセリフに責任を感じていたのだった。
「とにかく、向こうに着くまで大人しくしてろ。お前がそんなんじゃ、恵や俺達まで変人扱いされるじゃねぇか。もう少し世間の一般常識ってモンを知れっ」
覓は勿論だが、『実の兄』に恋慕する時点で既に一般常識からかけ離れているのだということを、スルーしている丞も丞なのではなかろうか。
「んじゃ、着いたら大人しくしなくてもいいわけだ」
「また、そんな屁理屈――うぐっ」
揚げ足を取る覓に言い返そうとしたが、不意に襟首を掴まれ言葉が途切れる。無理に引き起こされて咳き込みながら目を遣ると、襟を掴んだ手の主――永が、ニタリと笑ってこちらの顔を覗き込んでいた。
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