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第一部
第14話 ゴールデンウィーク ~再会~ 1
「おお、皆よく来たな。元気だったか?」
昔と変わらぬ顔と声が出迎える。考えていた通りのセリフに、四兄弟は笑顔で挨拶を返した。
「お久し振りです、伯父さん。三日間お世話になります」
駅前からバスに乗り込み、揺られること二十分。周囲を常緑の林に囲まれた山間の斜面に、目指すペンションはあった。レンガタイル貼りの母屋を、懐かしさに駆られ暫く眺めてからその玄関を潜る。フロントカウンターの中にいた伯父は、こちらの姿を見止めるなり飛び出してきてくれた。
「朝から移動、大変だったろ? この時期、電車は一本でもずらすとアウトだからな」
短めに整えた顎鬚を蓄えにこやかに微笑む温和な顔は、五年前と比べて少しも老けた印象が無い。背はさほど高いわけでは無いが、如何にも山が似合いそうながっしりとした体格。少々出っ張り気味の腹が目障りなものの、ほとんど皺も見受けられないその肌は、今年で55歳という年齢を感じさせないほど若々しかった。寧ろ、6つも下の弟の方が余程年上に見えるのではないかと思える。自然の中で、その生命力に日夜触れているが故の若さなのかも知れない。
「それにしても、暫く見ない間に大きくなったな、お前達。もうすっかり大人じゃないか。――恵は、就職して何年になるんだったかな?」
「やっと三年目です。会社が新入社員を採らないものだから、未だに新人扱いされてますけどね」
言って小さく肩を竦める恵に、「そうかそうか」と頷く。続いて覓の頭をポンポンと叩いた。
「前に来た時は、まだちっこい小学生だったのにな。いつの間にか背も抜かれてるし。…おっ、永も伸びたか! 見違えたぞ。丞より高くなったんじゃ……ん?」
洋介の視線の先にいるのは、心なし口を尖らせている丞。どうしたのかと怪訝顔の伯父に、不満げな言葉を投げる。
「俺の方が5ミリ高い……」
それを聞いた洋介は、わっはっはと豪快に笑った。
「あぁ、すまんすまん、悪かった。いや、お前だって随分と成長したよ、丞。昔は小さくて、本当に女の子みた……あ」
更に墓穴を掘ってくれる伯父。覓と永は、くくくと堪え笑いを漏らしている。眉を寄せすっかり剥れてしまった丞に洋介が謝るより早く、背後に立っていた龍利が丞の肩に手を掛けた。
「そう怒るな。小父さんも悪気があるわけじゃないんだから」
笑みながら甥を宥めるその顔を見上げ、洋介は目を見開く。
「……龍利君か? こりゃまた男前になったもんだ。若い頃の私にそっくりだな」
全く血の繋がりの無い龍利が、何故洋介に似なくてはならないのか。いや、それ以前に、若い頃云々というのは本当のことなのか――とは誰も口に出さなかった。
龍利はペコリと軽く頭を下げる。
「いつも俺まで呼んで下さってありがとう御座います。これ、大した物じゃないんですけど、挨拶代わりにって母から託かりました」
持参した土産を差し出すと、洋介は苦笑してそれを受け取った。
「気を遣わなくてもいいのに。私は空いている部屋を提供しているだけであって、食事代は他のお客さんと同じように貰っているんだから気にしなくていいんだよ。…でも、これはありがたく頂いておこう。ご両親にお礼を言っといてくれるかい?」
龍利の返事を聞いてから、彼は五人をカウンターへと案内する。途中、ふと思い出したように丞が尋ねた。
「そういえば、伯母さんは?」
「ああ。今、自生ハーブの朝摘みに行ってるんだ。久し振りなんだから、夕食は腕に縒をかけると意気込んでたよ。……そうそう、お前達が来るのを楽しみにしていた奴が、もう一人――」
「親父ーっ。リネン屋のトラック、裏で待って……あーーーっっ!!」
洋介が全て言い終わらぬ内に、奥の方から被さるような声が響いてくる。大袈裟なほどの絶叫とそれに続く慌ただしい足音を聞いて、五人全員が同じ人物を脳内に思い浮かべた。覓の表情が見る間に曇る。
「なんで、あいつが……」
騒々しくホールに現れたその人は、やはり予想通りの彼。飛び込んできた勢いのまま脇目も振らずカウンター前に駆け寄ると、そこに立つ一人に向かってニッコリと微笑む。
「五年振りだな。会いたかったぜ、恵」
言葉と共に伸ばされた腕が恵の身体を抱き締める。目を瞬かせた恵があっと思う間も無く、その白い頬に温かい唇が押し当てられていた。
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