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第一話
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頭が痛い。飲み過ぎたか。いや、セフレが部屋でカチ合って、瓶で殴られたような。まぁ、自分でもロクでもない自覚はある。だがみんな、最初に「体だけなら」って了承を得て付き合いを始めたはずなんだがなぁ。根っからのヤリチンビッチの俺に、貞節を求められても困る。
今何時だ。枕元に手を伸ばしてもスマホがない。ダリぃな、ベッドの下に落としたか。まさか前みたいにバッキバキに破られたとかそういう——
違う。いつものパイプベッドじゃない。木だ。ベッドも床も、家具も全部。俺の部屋じゃない。ここどこ。
なんだか暗いと思ったら、雨戸が閉まってる。軋む雨戸を開けると、そこは原っぱと畑と山。てか、雨戸じゃない。この木戸が窓。そしてガラスも何もない。山小屋?
そこでガンガンと痛む頭から、ぼんやりと記憶が戻ってきた。俺のじゃない。この体の持ち主、ヴァルのだ。
——ヴァレンタイン・ヴィンセント、ヴィンセント子爵家次男。三年前、ウォルシュ侯爵家に嫁入りしたものの、子供が出来ずに悩んだ末、不貞。そして侯爵家から追放されて修道院、イマココ。
なにこれ。よくある転生ものかと思ったら、もしかして詰んじゃった後に来ちゃったヤツ。うわぁ。節操なく遊び回った俺への罰ゲームだろうか。
——とりあえず、腹減ったな。思案していても仕方ない。俺はのろのろと起き上がり、食堂へ向かった。
「おや、お貴族様は朝もごゆっくりなようで」
「おいやめたまえよ。もうお貴族様じゃないんだから。ねえ、ヴァレンタイン様?」
クスクスクス。食堂のあちこちから漏れる嘲笑。そうだ、ここはいわば刑務所みたいなもの。集まってるのは、だいたい貴族とか商家とかの、やらかした子息たち。みんな性格が悪いんだ。そして、新入りをイビり倒すくらいしか娯楽がない。
俺はため息をつき、黙って席に着く。見習い神官が運んでくるのは、味も具もないスープ。こいつら、料理下手くそか。なお、実家が太い連中には差し入れ放題で、そいつらのテーブルは非常に豪華だ。だが、政略結婚の末に不貞で婚家とも実家とも縁を切られた俺に、そんなものはない。わずかばかりに浮いた野菜クズと豆を掻き込み、さっさと席を立つ。昨日まで俯いてお行儀よくお食事を召し上がっていた俺の変わりように、奴らは一瞬目を剥いたが、すぐに「見たぁ?! 今の!」「やっぱり不貞するクズは違うね!」と盛り上がり始めた。なお、奴らの中にも不貞で叩き出された者は何人もいる。付き合っていられない。
生まれ変わったコイツの人生はロクなもんじゃないが、俺だって負けていない。男癖の悪い母、入り浸る男は週替わり。中には俺に良くしてくれるオッサンもいたが、大抵は無視されるか、邪険に追い払われるか。タチが悪いとボッコにされたり、掘られたり。そんな俺が、まともに育つはずがないだろう。中学もロクに通わず、高校にも行かずにブラブラして。幸い顔だけは良かったんで、あちこちフラフラとヒモして食い繋いだ。俺はバイだったから、男女問わず枕さえすれば結構なカネになった。そんでその日暮らしをしてる間に、セフレが鉢合わせて頭カチ殴られて。
人生ってクソだ。だが、コイツが悲観するほどじゃない。これまで周囲の期待に応えることだけに必死で、完璧なお坊っちゃまを演じてきたヴァルには、今のこの屈辱的な状況は耐えられないだろう。現に昨晩、彼は毒のある野草を食んで儚くなろうとした。しかし、元々底辺以下だった俺からしたら、だからなにって話だ。住むところも食うものもあり(あれを食い物と呼んでいいのかどうかはわからんが)、あとは朝夕のお祈りさえ欠かさなければ何をしても自由。ちなみに、お祈りの時間なんて誰も守ってない。つまり、衣食住があって娯楽がないだけの、長い長い休みをもらったようなもんだ。殴られない、レイプされない、カネ取られない。そんだけで、結構なもんじゃね?
しかし問題は、その娯楽がないってことだ。そして衣食住にも問題がある。これを自前でなんとかならないか。俺はヴァルの記憶を頼りに、まずは図書室を目指した。
修道院の図書室はこぢんまりとしたものだった。そもそもここに送られるのは懲罰のためだ。神に祈りを捧げることが本分であって、娯楽など必要ないというわけ。しかしそれは建前に過ぎず、奥の本棚には過去誰かに差し入れされた本がぎっしりと詰まっている。多少古いことに目を瞑れば、娯楽から政治経済、学術書まで、割と充実したラインナップだ。
ヴァルは読書家だった。読書しかすることがなかったとも言える。彼の記憶によれば、学術書はほぼ読み終えた感じ。政治経済は、ここに来る前に熟読していたらしい。政略結婚とはいえ、夫の役に立とうと健気に頑張っていたようだ。しかしその努力はパァになってしまったので、今は背表紙すら見たくないという感情が湧き起こる。お前、随分と苦労したな。
ヴァルの記憶は多少曖昧なので、改めて学術書から読み返す。普段こういう真面目腐った本は読もうとも思わないが、わからないところはヴァルの記憶が補完してくれて、スイスイ読める。俺もこんくらい頭が良かったら、今頃もっとマシな人生を歩んでいたんだろうか。たらればを言っても仕方ないが。
学術書の中身は、小学校の教科書と大して変わらなかった。なんせ窓ガラスのない世界だもんな。高度なものでも、せいぜい中学止まり。その代わり、こっちには魔法とか錬金術なんかがあった。ちょっ、それヤバくね。ゲームみてぇじゃん。そしたらステータスとかも見れちゃうわけ? と思ったら、見る方法も載ってた。神殿か冒険者ギルドに行って水晶に手を当てれば、精霊が脳内に語りかけてくるんだそうだ。良かった、王様に話しかける方式じゃなくて。
そういうことなら話は早い。ここは修道院、隣は神殿だ。俺はとっとと礼拝堂に行き、水晶に手を当てた。
名前 ヴァレンタイン
種族 ヒューマン
称号 修道士見習い
レベル 15
属性 闇
スキル
ヒール Lv5
領地経営
高速演算
生活魔法
E 修道服
おお、見れた見れた。てか、闇属性?
そうだ、思い出した。ヴァルはもともと闇属性持ちで、実家で冷遇されて育った。学園でも同じく。そして政略結婚で駒にされ、嫁ぎ先でも同様。まあ、なにかと不吉と言われている属性だ。仕方ない面もある。しかし、闇属性にも回復スキルがあったりするんだ。そしてヴァルは、なんとか周りの役に立とうとヒールを伸ばしてきたわけだが、無駄に終わったと。なんだかなぁ。俺も大概だけど、お前も不憫だな。
しかし、回復手段があれば冒険者でもやっていけるんじゃないか。コイツは貴族の世界と修道院、狭い世界しか知らないから絶望してるだけで、世の中意外とチョロいもんだ。いざとなれば、ウリでもやれば簡単に稼げるしな。俺もヴァルもまだ若い。顔も無駄にいい。これをカネにしないでどうする。
よし、決めた。早速市場調査だ。今日はもう遅いから、明日にするしかないが。ランチの出ない修道院の一日は常に空腹との戦いだが、ずっと本を読んでいたので気にならなかった。夕飯はパンと野菜。有象無象がクスクスしているが気にならない。明日から忙しくなるぞ。さっさと寝よう。
翌朝の食堂はザワザワしていた。
「あっ、来た!」
「ちょっとお前、シカトしてんじゃないよ!」
「お高く止まりやがって!」
ヒョロヒョロの俺を三人のヒョロヒョロが取り囲み、キャンキャン喚いている。なにごとだ。
「お前っ、ザカライア様に逆らうなんて身の程知らずが!」
バシャー。戸惑っているうちに、一人から水をぶっかけられた。中学生かよ。
この修道院には三十人ほどの「修道士見習い」が放り込まれているが、そのヒエラルキーは明確に決まっている。実家が太く、ジャブジャブと差し入れが入るヤツ。これがカーストのトップ。彼らは出家したことになっているが、しばらくしてほとぼりが冷めたら、還俗して元の地位に戻る。次に彼らの取り巻き。トップをちやほやして、おこぼれにあずかる。うまくいけば、還俗の後に取り立ててもらうこともできる。それから長期残留組。実家との折り合いが悪く還俗は叶わないが、修道院見習い経験が長いため、カースト上位からも重宝される。そして最底辺は、後ろ盾のない新参だ。大抵イビられて病み、性格が歪んだ状態で長期残留組に組み入れられる。
なお「修道士見習い」の行く末は、還俗するか神官になるかの二択だ。つまり、罪人が看守になるわけ。また、併設の孤児院から見習い神官を経て神官に進化するルートもあるが、どっちも殺伐としててロクなヤツがいない。まあ、ここは地の果て、掃き溜めってところだ。
で、水をかけるという典型的ないじめ。昨日までのヴァルなら、ショックを受けつつ歯を食いしばって耐えていたところだ。しかしこちとら、筋金入りのアウトローだぜ。こんくらいで凹んでたらホストなんてやれねぇって。
「で?」
「はっ?」
水をかけた取り巻きが驚いている。彼だけじゃない、食堂にいる全員が。
「朝からシャワー? 綺麗好きだな」
俺は生活魔法でさっさと衣服を乾かし、席についた。そして昨日と同じ、具のないスープをすすった。そうだ、冷め切ったスープも生活魔法で温めたら良かったじゃん。ほら、ちょっとはマシになった。
水をかけた連中は、「あ」だの「う」だの言いながら固まっている。しかし、へなちょこ連中がイキったところでなんともない。そう、俺を含めて、ここにいる全員がへなちょこなのだ。なぜならここは、女役が集められているから。
俺が転生したこの世界は、同性婚が盛んだ。女の出生率が低いのもあるし、男でも秘術を使えば孕むことができるから。よって、若くて見目の良い男は、すべからく女役に回される。ここは、瑕疵のついたお偉いさんの女役を軟禁する施設。よって、ヒョロい男しかいないというわけ。女役はだいたい幼少期から蝶よ花よと育てられ、メスになるために調教されて生きる。ヴァルもそうだ。抱かれる作法とか男好きする仕草とかを徹底的に仕込まれ、自分が女を抱くとか男を組み敷くとか考えたこともない。
——まあ、俺は強いて言えばネコだが、タチもいけるし、なんなら女も抱けるがな。
再起動したネコどもが再びキャンキャンと鳴きわめく中、俺はさっさとスープを飲み干し、今日の目的地へ向かった。
今何時だ。枕元に手を伸ばしてもスマホがない。ダリぃな、ベッドの下に落としたか。まさか前みたいにバッキバキに破られたとかそういう——
違う。いつものパイプベッドじゃない。木だ。ベッドも床も、家具も全部。俺の部屋じゃない。ここどこ。
なんだか暗いと思ったら、雨戸が閉まってる。軋む雨戸を開けると、そこは原っぱと畑と山。てか、雨戸じゃない。この木戸が窓。そしてガラスも何もない。山小屋?
そこでガンガンと痛む頭から、ぼんやりと記憶が戻ってきた。俺のじゃない。この体の持ち主、ヴァルのだ。
——ヴァレンタイン・ヴィンセント、ヴィンセント子爵家次男。三年前、ウォルシュ侯爵家に嫁入りしたものの、子供が出来ずに悩んだ末、不貞。そして侯爵家から追放されて修道院、イマココ。
なにこれ。よくある転生ものかと思ったら、もしかして詰んじゃった後に来ちゃったヤツ。うわぁ。節操なく遊び回った俺への罰ゲームだろうか。
——とりあえず、腹減ったな。思案していても仕方ない。俺はのろのろと起き上がり、食堂へ向かった。
「おや、お貴族様は朝もごゆっくりなようで」
「おいやめたまえよ。もうお貴族様じゃないんだから。ねえ、ヴァレンタイン様?」
クスクスクス。食堂のあちこちから漏れる嘲笑。そうだ、ここはいわば刑務所みたいなもの。集まってるのは、だいたい貴族とか商家とかの、やらかした子息たち。みんな性格が悪いんだ。そして、新入りをイビり倒すくらいしか娯楽がない。
俺はため息をつき、黙って席に着く。見習い神官が運んでくるのは、味も具もないスープ。こいつら、料理下手くそか。なお、実家が太い連中には差し入れ放題で、そいつらのテーブルは非常に豪華だ。だが、政略結婚の末に不貞で婚家とも実家とも縁を切られた俺に、そんなものはない。わずかばかりに浮いた野菜クズと豆を掻き込み、さっさと席を立つ。昨日まで俯いてお行儀よくお食事を召し上がっていた俺の変わりように、奴らは一瞬目を剥いたが、すぐに「見たぁ?! 今の!」「やっぱり不貞するクズは違うね!」と盛り上がり始めた。なお、奴らの中にも不貞で叩き出された者は何人もいる。付き合っていられない。
生まれ変わったコイツの人生はロクなもんじゃないが、俺だって負けていない。男癖の悪い母、入り浸る男は週替わり。中には俺に良くしてくれるオッサンもいたが、大抵は無視されるか、邪険に追い払われるか。タチが悪いとボッコにされたり、掘られたり。そんな俺が、まともに育つはずがないだろう。中学もロクに通わず、高校にも行かずにブラブラして。幸い顔だけは良かったんで、あちこちフラフラとヒモして食い繋いだ。俺はバイだったから、男女問わず枕さえすれば結構なカネになった。そんでその日暮らしをしてる間に、セフレが鉢合わせて頭カチ殴られて。
人生ってクソだ。だが、コイツが悲観するほどじゃない。これまで周囲の期待に応えることだけに必死で、完璧なお坊っちゃまを演じてきたヴァルには、今のこの屈辱的な状況は耐えられないだろう。現に昨晩、彼は毒のある野草を食んで儚くなろうとした。しかし、元々底辺以下だった俺からしたら、だからなにって話だ。住むところも食うものもあり(あれを食い物と呼んでいいのかどうかはわからんが)、あとは朝夕のお祈りさえ欠かさなければ何をしても自由。ちなみに、お祈りの時間なんて誰も守ってない。つまり、衣食住があって娯楽がないだけの、長い長い休みをもらったようなもんだ。殴られない、レイプされない、カネ取られない。そんだけで、結構なもんじゃね?
しかし問題は、その娯楽がないってことだ。そして衣食住にも問題がある。これを自前でなんとかならないか。俺はヴァルの記憶を頼りに、まずは図書室を目指した。
修道院の図書室はこぢんまりとしたものだった。そもそもここに送られるのは懲罰のためだ。神に祈りを捧げることが本分であって、娯楽など必要ないというわけ。しかしそれは建前に過ぎず、奥の本棚には過去誰かに差し入れされた本がぎっしりと詰まっている。多少古いことに目を瞑れば、娯楽から政治経済、学術書まで、割と充実したラインナップだ。
ヴァルは読書家だった。読書しかすることがなかったとも言える。彼の記憶によれば、学術書はほぼ読み終えた感じ。政治経済は、ここに来る前に熟読していたらしい。政略結婚とはいえ、夫の役に立とうと健気に頑張っていたようだ。しかしその努力はパァになってしまったので、今は背表紙すら見たくないという感情が湧き起こる。お前、随分と苦労したな。
ヴァルの記憶は多少曖昧なので、改めて学術書から読み返す。普段こういう真面目腐った本は読もうとも思わないが、わからないところはヴァルの記憶が補完してくれて、スイスイ読める。俺もこんくらい頭が良かったら、今頃もっとマシな人生を歩んでいたんだろうか。たらればを言っても仕方ないが。
学術書の中身は、小学校の教科書と大して変わらなかった。なんせ窓ガラスのない世界だもんな。高度なものでも、せいぜい中学止まり。その代わり、こっちには魔法とか錬金術なんかがあった。ちょっ、それヤバくね。ゲームみてぇじゃん。そしたらステータスとかも見れちゃうわけ? と思ったら、見る方法も載ってた。神殿か冒険者ギルドに行って水晶に手を当てれば、精霊が脳内に語りかけてくるんだそうだ。良かった、王様に話しかける方式じゃなくて。
そういうことなら話は早い。ここは修道院、隣は神殿だ。俺はとっとと礼拝堂に行き、水晶に手を当てた。
名前 ヴァレンタイン
種族 ヒューマン
称号 修道士見習い
レベル 15
属性 闇
スキル
ヒール Lv5
領地経営
高速演算
生活魔法
E 修道服
おお、見れた見れた。てか、闇属性?
そうだ、思い出した。ヴァルはもともと闇属性持ちで、実家で冷遇されて育った。学園でも同じく。そして政略結婚で駒にされ、嫁ぎ先でも同様。まあ、なにかと不吉と言われている属性だ。仕方ない面もある。しかし、闇属性にも回復スキルがあったりするんだ。そしてヴァルは、なんとか周りの役に立とうとヒールを伸ばしてきたわけだが、無駄に終わったと。なんだかなぁ。俺も大概だけど、お前も不憫だな。
しかし、回復手段があれば冒険者でもやっていけるんじゃないか。コイツは貴族の世界と修道院、狭い世界しか知らないから絶望してるだけで、世の中意外とチョロいもんだ。いざとなれば、ウリでもやれば簡単に稼げるしな。俺もヴァルもまだ若い。顔も無駄にいい。これをカネにしないでどうする。
よし、決めた。早速市場調査だ。今日はもう遅いから、明日にするしかないが。ランチの出ない修道院の一日は常に空腹との戦いだが、ずっと本を読んでいたので気にならなかった。夕飯はパンと野菜。有象無象がクスクスしているが気にならない。明日から忙しくなるぞ。さっさと寝よう。
翌朝の食堂はザワザワしていた。
「あっ、来た!」
「ちょっとお前、シカトしてんじゃないよ!」
「お高く止まりやがって!」
ヒョロヒョロの俺を三人のヒョロヒョロが取り囲み、キャンキャン喚いている。なにごとだ。
「お前っ、ザカライア様に逆らうなんて身の程知らずが!」
バシャー。戸惑っているうちに、一人から水をぶっかけられた。中学生かよ。
この修道院には三十人ほどの「修道士見習い」が放り込まれているが、そのヒエラルキーは明確に決まっている。実家が太く、ジャブジャブと差し入れが入るヤツ。これがカーストのトップ。彼らは出家したことになっているが、しばらくしてほとぼりが冷めたら、還俗して元の地位に戻る。次に彼らの取り巻き。トップをちやほやして、おこぼれにあずかる。うまくいけば、還俗の後に取り立ててもらうこともできる。それから長期残留組。実家との折り合いが悪く還俗は叶わないが、修道院見習い経験が長いため、カースト上位からも重宝される。そして最底辺は、後ろ盾のない新参だ。大抵イビられて病み、性格が歪んだ状態で長期残留組に組み入れられる。
なお「修道士見習い」の行く末は、還俗するか神官になるかの二択だ。つまり、罪人が看守になるわけ。また、併設の孤児院から見習い神官を経て神官に進化するルートもあるが、どっちも殺伐としててロクなヤツがいない。まあ、ここは地の果て、掃き溜めってところだ。
で、水をかけるという典型的ないじめ。昨日までのヴァルなら、ショックを受けつつ歯を食いしばって耐えていたところだ。しかしこちとら、筋金入りのアウトローだぜ。こんくらいで凹んでたらホストなんてやれねぇって。
「で?」
「はっ?」
水をかけた取り巻きが驚いている。彼だけじゃない、食堂にいる全員が。
「朝からシャワー? 綺麗好きだな」
俺は生活魔法でさっさと衣服を乾かし、席についた。そして昨日と同じ、具のないスープをすすった。そうだ、冷め切ったスープも生活魔法で温めたら良かったじゃん。ほら、ちょっとはマシになった。
水をかけた連中は、「あ」だの「う」だの言いながら固まっている。しかし、へなちょこ連中がイキったところでなんともない。そう、俺を含めて、ここにいる全員がへなちょこなのだ。なぜならここは、女役が集められているから。
俺が転生したこの世界は、同性婚が盛んだ。女の出生率が低いのもあるし、男でも秘術を使えば孕むことができるから。よって、若くて見目の良い男は、すべからく女役に回される。ここは、瑕疵のついたお偉いさんの女役を軟禁する施設。よって、ヒョロい男しかいないというわけ。女役はだいたい幼少期から蝶よ花よと育てられ、メスになるために調教されて生きる。ヴァルもそうだ。抱かれる作法とか男好きする仕草とかを徹底的に仕込まれ、自分が女を抱くとか男を組み敷くとか考えたこともない。
——まあ、俺は強いて言えばネコだが、タチもいけるし、なんなら女も抱けるがな。
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