ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

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第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第76話 ─ ユアペイン・マイペイン・サムバディズペイン ─…ある男の独白

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前話に続いて、凄惨な場面が前半出てきます。
苦手な方はスルー推奨。


*****


「なんだテメエは? 俺だけこんな殺風景で窮屈な部屋に連れ込みやがって。俺を誰だと思っていやがる!?」

 俺は何も答えない。
 少なくとも、お前が俺の兄貴では無いのは確かだが。


 俺は最初、何か口汚くののしって、ヤツにマウントを取ってやりたい気持ちだった。
 だが色々と考えたり調べたりするうちに、何も意思疎通せずに淡々と危害を加えるのが、一番恐怖を与えやすいだろうと結論。

「おいこら何とか言えよ!」

 目立つエルフの耳を隠す為に目出し帽を被り、ピエロの仮面をさらに被る。ステイツの人は、ピエロに本能的に不安や恐怖を感じる人が多いらしいから。
 ヤツはハイソな階級の人間とは思えぬ口調で、俺を口汚く罵り続ける。

「てめえ、俺が誰だか知らねえのか!? 俺はてめえが気軽に触れて良い人間じゃねえんだぞ!」

 知ってるよ。
 あの殺戮パーティーに参加できる奴は、それなりの政財界の名士と言われる人々なのは。お前はその連中の息子の一人なのは。親のコネで出入りするようになって、親以上のサディストになったのは。

「クソ野郎が、覚えてろよ。ぜってぇ親父の力でてめえを潰してやる」

 そんなに吠えなくても大丈夫、その前にお前は俺に潰されるから。
 それにお前の父親だって……。

 俺は黙ったままやつを縛り付けた椅子の前にテーブルを移動させ、その上にコイツらが使っていた拷問道具と同じ物を並べていく。
 それを見てすぐに悟ったのか、ヤツの顔色がサッと変わる。

「て、て、て、てめえ。お、お、お、俺に指一本でも触れてみろ、てめえが一生後悔する程のがああああ!!」

 ヤツのがなり声が鬱陶しくなった俺は、ナイフを一本ヤツの大腿に突き立てた。まだ若いくせに、贅沢でたっぷりと肉が付いた苦痛にわめく肥満体。
 情けない悲鳴をあげながら痛みを堪えるヤツ。他人に痛みを与えるのは得意でも、自分は人一倍痛みに弱いか。
 
 その間に俺は道具を並べ終わり、真ん中の空いたスペースにポータブルのディスクプレイヤーを置いた。中身は、アマレットが無残に“解体”され、アイラの身体が“壊された”例の動画が記録されたもの。
 俺はプレイヤーを再生させると、チェックをつけた部分へスキップ。そこで一時停止を押した。
 画面をヤツに見せながら、画面の一点を指差す。そこには仮面を被ったまま、馬鹿面ばかづら下げて笑っているコイツの姿。
 そう、だから俺は警察が踏み込んだあの時、コイツを選り分けてここへ監禁したんだ。
 
 ヤツはそれを見ると得心いったのか、必死に痛みを堪えて俺を馬鹿にしたようにあざ笑った。

「ぐ……へっ、な、なるほど殺されたそいつらの敵討ちって訳か。うぐ……だが残念ながら、俺に手を出したお前が……」

 そう言いかけた時、部屋の片隅に置いていた大きめのタブレットPCに着信があった。なかなか良いタイミングだ。
 着信画面を見る。SNSを利用したテレビ通話、エヴァンからだった。

 俺はタブレットPCを手に持ち、ヤツのそばで受信。予想通りの画面が映ったのでポータブルプレイヤーの隣に置き、ヤツに画面を向ける。
 画面を見た瞬間にヤツの目が絶望に染まった。

「オヤジ!?」

 なかなか良い仕事だ、エヴァン。
 目の前のドラ息子と同様に椅子に縛り付けられた、絶望した表情の太った壮年の男。
 その後ろに、俺と同じく目出し帽の上からピエロの仮面を被ったエヴァンが映る。
 これでヤツの後ろ盾が無くなった。父親の方も、自分の無念を託せる後継者が居なくなった。

 俺はピエロの仮面の下で醜くあざ笑った。
 ざまを見ろ。お前は、お前が殺してきた少女やアマレット、アイラのように切り刻まれて死ぬんだ。
 だがその時、俺の脳裏にロングモーン達の思考が滑り込んできた。

“『深淵』に魅入られているぞ、貴殿”

“彼等の行動を分析すれども、飲み込まれてはいけませぬ”

“ご主人様。ご主人様の普段の体捌たいさばきだと、袈裟けさ斬りが一番バッサリとコイツを斬り捨てられます”

 彼等の思考に俺はハッとなった。
 そうだ、コイツ等と同類になってはいけない。ミイラ取りが魅入られてはいけないという言葉もあるではないか。

“ミイラ取りが魅入られる、ではなくミイラになる、だな”

 相変わらずロングモーンはツッコミが厳しいな。
 あと紅乙女だけ不穏なことを言っていたが、聞かなかった事にしよう。とりあえず、さすがは人斬り盛以蔵の妹だとしておく。

“お褒めに預かり光栄です、ご主人様”

 いや褒めてないから。
 ねえ、ダークサイドに堕ちそうな俺のために、防波堤になって欲しいんだよ、紅乙女。演技でも良いから、汚れ無き乙女の振る舞いを頼むよ。

“はい! 私は今から、二人胴の意味も唐竹割の意味も知らない、汚れ無き乙女です! 血を見るだけで卒倒する、ウザったい女です!!”

……違う。何かが違う。
 でもそれを教える場面でもないし、そんな時間もない。また今度、時間を見つけて教えていこう。



 俺は、タブレットの画面を見つめて顔色を失っているヤツに、改めて向き直る。
 そしてまずはハサミを手に取った。

──コイツ等がアイラにした時も、最初はハサミだったな。

 画面を見やると、エヴァンも俺と同じ選択をしたようだった。
 俺はコイツや連中がよくやるように、ハサミをヤツの目の前で見せびらかしながら、チョキチョキと鳴らす。
 今度こそ言葉を無くしたヤツが、涙目で命乞いを始めた。

「た、た、助けてくれ。もうこんな事は二度としない。誓ってしない。だから殺さないでくれ……」

 そんなに怯えなくても大丈夫。お手本はこのポータブルプレイヤーの動画に、たっぷりと詰まっているから。
 俺自身の想いは一旦断ち切って、事務的に進めていこう。


 この醜く太ったサディストの、身も世も無い悲鳴がその後に響き渡り続けたが、それを聞き咎める者は誰もいなかった。


*****


「それで、女性の権利向上団体や人権団体でどこか協力してくれる所はあったのか?」

 と、ベイゼルが尋ねる。
 沈んだ声でそれに返答する声があがる。

「無いわ。どこも『政治的な正しさが!』と、ライバルを攻撃することばかりに気を取られてる」

 渋い顔でそう言ったのはミズ・クレイグ。
 彼女が影響を受け、俺も好ましく思っていた思想を掲げる団体が、犠牲になった少女達の事を丸きり無視しているのはどういう事だろう。
 ここはバルバレスコ経由で入手した隠れ家セーフハウス
 いまだ数少ない俺達の仲間が集まって、会議室で丸く円になって顔を突き合わせている。

 あれから二年ほど経つ。
 俺達は、ミズ・クレイグの組織の雇われエージェントという形になった。
 先日やっていたように、難民や社会的弱者に対する犯罪を調査するのがメインの仕事だ。それも人知を超える魔物が関わっている時の。

 ミトラの……シャーロットの率いる“騎士団”のウリは、そういった魔物を扱える事。
 勢い、現場に“騎士団”が関わる事も多くなる。俺達の利害とかなり一致した仕事であり、俺達には是非も無かった。

 上の組織は未だはっきりしていない。
 だがミズ・クレイグへの信頼から、それは知らなくても良い事なのだと思っている。
 だが……俺達は正式な政府のエージェントという訳ではない。スクリーンに投影された情報を囲んで会議などと洒落しゃれ込みたいが、実際はホワイトボードを囲んだ話し合いだ。
 先立つモノが無いと如何いかんともし難いのは、世界が変ろうとも不変の真理なのは辛いな。

 ミズ・クレイグが溜息とともに話す。

「あの子達が難民……不法移民なのも、彼等の腰を重くしている原因ね」

 俺は思わず聞き返さずにはいられなかった。

「人は生まれながらに平等じゃ無かったのか? 少なくとも彼等の中では」

「本気でそう考えている人は少数だということね。自分が恩恵を受けるか受けないかには熱心でも他人の不利益には無関心。今も昔も……ね」

 もっとも、それだけでは無いだろう。
 連中の大半は政府にガッチリと食い込んで、自分達の都合をゴリ押ししているような奴等ばかりだ。
 ミズ・クレイグの様子から察するに、ココはそんな癒着の構図に危機感を覚えた大統領が、秘密裏に立ち上げた組織のようだ。
 秘密組織といえば聞こえは良いが、ご覧の通りの貧乏世帯。
 ゆえに力も弱く、実際に解散の憂き目にも何度も晒されている。

 理想と現実。
 頭では理解してはいるが、やはり突きつけられると精神が削られる思いがする。

「ごく一部にはね、本気で信じて差別や弱者の救済に取り組む人もいるわ。でもやっぱりごく一部なの」

「そういう人たちが、いつかは人々の心を変える……そんな世の中になって欲しいものだ」

「自分の心は自分で変えられるけど、他人の心は変えられない……。変えることが出来るのは、良くも悪くも宗教的なものなのかもしれないわね」

 そこにエヴァンが横槍を入れてきた。

「リーダーは変わったぜ?」

「“騎士団”は一応、聖職者の組織でしょ?」

 エヴァンが答えにきゅうする。早過ぎるだろ。
 マルゴが感情のこもらない声で話をまとめた。

「無駄話してる暇があるなら、一人でも彼女達を救うべきよ」

 それを受けて、最後にベイゼルが話を纏める。

「犠牲者は女性だけではないがな。だがマルゴの言う通りだ。現“騎士団”の力を少しでも削ぐためにも、彼等の摘発は続けよう」
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