ダーティーホワイトエルブズ ~魔物退治してた現代転移の苦労人エルフ、“主人公”への復讐を決意する~

きさまる

文字の大きさ
91 / 128
第四章 通りすがりのダーティーエルフ編

第90話 “月下の邂逅”…偽りのダークヒーロー編

しおりを挟む
 アイラの右手から噴き出した炎は、エヴァンの足を消し炭に変えた。
 エヴァンの体重を支える足が崩れ去り、エヴァンは地面に倒れ込む。
 上体を起こしたエヴァンは、信じられないといった眼でアイラを見る。
 しかし、驚愕の表情を浮かべていたのはアイラも同じだった。

「え……? なんで!? 私の身体が勝手に……!!」

 ミトラはその言葉に得意気に返す。
 先ほどまでの情けない姿が嘘のようだ。

「だからスペアだって言っただろ。オメーの身体はもうとっくに死んでるんだよ」

「ど……どういう……」

「さあな。オメーを“精霊”に変えようとしても、当時は何でか出来なかった。でも命令さえしたら、どうやら俺の思い通りに動くみてえだったからな。面白れえからそのまま残しといたんだよ」

 シャーロットが恐ろしい予想をアイラに告げる。

「お腹の子供の生命力で、生きながらえていたんじゃない?」

「お腹の……子供…………?」

 ひどく現実味の無い言葉のように感じているかのようなアイラの表情。
 その顔を見て、楽しくて仕方が無いといった態度でシャーロットは続ける。

「あら、その顔はやっぱり気付いてなかったのね。身体がそんなだと分からないのかしら」

 なんという悪魔の微笑みか。あの美しい顔のシャーロットがこのような悪辣な表情を作れるとは。
 悪魔の微笑みを浮かべたまま、シャーロットはアイラへ追い打ちをかける。

「たぶん、妊娠したのね」

「アイラちゃん!!」

 二人に甚振いたぶられるアイラを見ていられず、思わず声をかけるエヴァン。
 しかし、名前以外に何を話したら良いか分からない。

「うるせえな。黙ってろよ、雑魚が」

 そう言って、さっきのお返しとばかりにエヴァンの頭を踏みつけるミトラ。
 エヴァンはそれでもアイラの名前を呼び続ける。

「アイラ……ちゃん。アイ……ラ…………ちゃん……!」

 彼等を取り囲む周囲の人間も、あまりの事態に誰一人動かない。動けない。
 そしてミトラの口からも悪魔のごとき提案が飛び出した。

「そうだ完全に“精霊”に変える前に、オメーの意識があるうちに、オメーの手でコイツを焼き殺させてやろう。我ながらナイスアイディアだぜ」

「い……嫌……」

「あははは! 確かに良いわね、それ! その時のアイラあんたの表情が見ものだわ!!」

「アイラちゃん……!」

 そんなエヴァンとアイラの様子を小気味良さげに眺めながら、ミトラはアイラに命令を下した。
 ああ、他人の生殺与奪を握るのは、なんという快楽なのか。

「アイラ、この男を焼き殺せ。なるべく時間をかけて苦しませながらな」

 ミトラがそう言った途端に、再びアイラの右手が持ち上がる。
 アイラは悲鳴のような声をあげて、エヴァンに叫ぶ。

「だ……駄目、身体が勝手に……! 嫌……エヴァンさん逃げて! 逃げてえええ!!」

「ははははは! 何を無駄な事を言ってんだ。この男がこの足でどうやって逃げるってんだよ!?」

「ああ、良いわ貴女のその顔。ゾクゾクしちゃう……!」

 そしてついにアイラの右手から放たれる炎。
 それは、エヴァンの身体に向かうとあっという間に彼を火ダルマに変えた。
 ミトラの足に頭を押さえられながらも、もがくエヴァン。

「嫌ああああああああ! エヴァンさん! エヴァンさあああん!!」

 エヴァン・ウィリアムスは、炎に焼かれながらも確かに見た。
 アイラ・モルトの身体が、人の形を保ったまま足元から炎に置き換わっていくのを。
 その“置き換わり”は痛みを伴うのだろうか。アイラの叫び声は苦痛に満ちたものに変わっていく。
 泣き叫ぶアイラの身体が完全に炎に置き換わった時、彼女の……アイラの声が消えた。

「よっしゃアイラ。そんじゃ正式に“精霊”化したオメーに第一号の命令だ。この場に居る全ての人間を焼き殺せ。ああ、ついでにスマホとか通信機器も潰しとけよ」

 炎に置き換わったアイラに向かって、ミトラはそう命令した。
 その瞬間、炎でかたどられた人型から、無数の炎が四方八方に飛び出していった。


*****


「ははははは、こりゃスゲエ! あの三人分の力よりも更につええじゃねえか! 主人公のパワーアップイベントってやつだな、これは!!」

 周囲は、シャーロットとミトラ以外は全て炎に焼かれた人間と機械。
 ミトラはその様子を満足気に、腰に手を当てて眺めていた。
 そんな時に足元から聞こえた、苦痛に満ちたうめき声。
 ミトラはそいつの頭をグリグリと踏み付けた後、余裕に満ちた声で足元に語りかけた。

「さっき言ったみてーに、オメーは特別時間をかけて焼け死ぬ。この能力はな、何であれ俺が望むものを俺が止めろと命じるまで燃やし続けるんだ。それか完全に燃え尽きるまでな」

 そのミトラにシャーロットが話す。

「ねえミトラ。そろそろ無駄話は終わらせて、行きましょう? 追い掛け回されるのも面倒だわ」

「ああ、悪いシャーロット。……じゃあな、クソザコ! 最後までオメーの苦しむ姿を見れねえのは残念だが、俺達はもう行くぜ、あばよ!!」

 その言葉を最後に、ミトラとシャーロットは悠然と外へと向かう。もちろん、途中で“主人公属性”にポイントを戻すのをミトラは忘れなかった。


 その途中でミトラは見つけた。
 地下駐車場の片隅に転がっている豹人間キャットピープルのスーズの姿を。
 彼女に撃ち殺されただろう数体の死体に囲まれた、銃に撃たれた跡が無数にある彼女の死体を。

「チッ、役に立たない女だ」

 そう言って彼女の死体に唾を吐き捨てると、ミトラは先を急いだ。


 だから、ミトラはこの後のエヴァンの事は知らない。知る由もない。


*****


 エヴァンは彼等が去ったあと、必死に懐からスマホを取り出した。
 彼がリーダーと呼んで慕う男へ少しでも情報を送るために。
 だが、スマホは燃え上がっており、液晶画面も溶け落ちて操作が出来なかった。
 あの男ミトラは言っていた。何であれ自分が望むものを自分が止めろと命じるまで燃やし続ける、と。

──なにか……何か無いのか、リーダーに情報を残す方法が!

 その時、スマホと一緒にミトラの“精霊”の名前を書いた紙が出てきていたのに気が付く。
 紙など、真っ先に炎に焼かれて消えそうなのに、焦げひとつ無い。
 エヴァンはそれを見てハッと気が付き、己の服を見た。服もまた、焦げひとつ無い。
 もう一度、あの男の言葉を思い出した。

──この能力はな、何であれ俺が止めろと命じるまで燃やし続けるんだ。

……そうか! つまり、!!
 そうと分かれば! ……確か、胸の内ポケットに何か筆記具を入れていたはず……!
 

 エヴァン・ウィリアムスは、最後の力を振り絞ってその紙にあらん限りの情報を書き記し始めた。
 主に、“精霊”を浄化する方法を。
 ……そして最後に、彼のアイラへの想いの丈もまた。


*****


 ミトラは、追憶から戻った。
 タンカーの上で、吹きすさぶ海風にあおられながら立ち尽くす。
 そして誰に聞かせるともなくひとちた。

「はははは! 最後のあの時の、アイラとあの男の顔はケッサクだったぜ!!」

 そう言ってから、ミトラはゆっくりと後ろへ振り向く。
 そして続けてあざけりながら言い放った。

「なぁそう思うだろ、兄貴。オメーはどう思う!?」

 振り返ったミトラの視線の先には、ミトラと同じく海風に煽られその安物のトレンチコートをはためかせて立っている男。
 月光に照らされ、左手には退魔の力の気配をき散らす「ニホントウ」を持つ男。



 魔力を持たぬ無能なミトラの兄が、いつの間にかそこに、物も言わずに立っていた──。


*****


 せっかくの二人の再会ですが、次回から主人公の独白に戻って、もう少し対決は先に引っ張ります。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...