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王太子妃
私の娘
しおりを挟む「初めから経過が思わしくなく流れてしまうか生まれても長くは生きられないだろうと言われて、混乱を避ける為に公表されなかった」
「でも、あの子は臨月まで頑張ってくれたの。だけど……だけど出産に耐えられなくて……産声をあげることができなかった。金色の巻毛で赤ちゃんなのに色白で、本当に本当に愛らしかった私の娘は……死産だったのよ」
泣き崩れた王妃様は陛下の胸に顔を埋め、陛下はその肩を抱きながら辛さに顔を歪めていた。初めての子どもが目を開けることなく天に召されたのだ。それはきっと陛下にとっても大きな大きな悲しみだったに違いない。
両陛下は私達と同じように王妃様の18歳の誕生日にお式を挙げた。けれども中々子宝に恵まれずリードが生まれたのは七年後。子どもを亡くした上に日に日に大きくなりながらのし掛ってくる重圧に、王妃様はどんなに苦しんだことだろう。
一頻り泣いた王妃様はそっと陛下から離れ…………凄く恐い顔で陛下を睨み付けた。
え?なに?どういうこと??と意味が解らずおめめをぱちくりしていると、王妃様はゆっくり私に顔を向け普段の美しい声とは別人みたいな野太い低い声を絞り出した。
「身体が回復して公務に復帰した私に重臣のジジイ共が言ったのよ。『残念ではございましたが姫様でしたのが不幸中の幸いでしたな』って。その上『次こそはきちんと産声を上げることのできる男児を期待しておりますよ』ですって。赦せない、もう一生赦さないわ!」
「………………最っ低」
思わず声に出すと王妃様は私に駆け寄り抱き付いて『でしょ、でしょ?そうでしょう?そう思うわよね?』って迫ってくる。その時の王妃様の悔しさに寄り添ってくれる者はほとんど居なかったのかも知れない。
「それなのにフェディったら黙っていたのよ!」
「最低……」
うわーっ、あんたもかい!ってゾッとしたように陛下に冷たい視線を送ると陛下はあたふたし出した。
「ごめん、ごめんよノーラ。アイツらに殴り掛かってしまいそうで、堪えるのに必死だったんだ。僕だって赦しちゃいない。今でもずっと根に持っているとも」
「だからって黙ってるなんてあり得ないです!陛下酷すぎ!!」
益々苛立つ私の様子に焦ったのか陛下の額には汗が滲んだ。でしょうね。花マル優良王太子妃のアンネリーゼちゃんが苛立つところなんか見たことがなかったんだから。
「で、で、でもだよ。もうアイツらをのさばらせてたまるものかと若い者に道を譲れと説き伏せて一人残らず表舞台から引きずり降ろしてやったんだ。全部ノーラの為にしたんだよ?」
「そうなの?」
王妃様の腕がするんと解けた。
「当然だ。僕の愛しいノーラを泣かせる者を赦したりするもんか!」
「フェディ……」
王妃様は陛下に飛び付き二人はその場で五回転した。初めて見たよ、これ本当にするカップル。実在するものなのね。
しばし二人の世界に浸った後、両陛下は私達が唖然としながら眺めているのに気が付いて急にもじもじし始めた。今更どうして恥じらうのかと首を捻りたいがそこはぐっと我慢した。
「私達、つい貴女にあの子を重ね合わせてしまったの。あの子にしてやれなかった事を全部貴女にしてやりたい。王女になれなかったあの子の分まで貴女を育て非の打ち所のない素晴らしい王太子妃にしてみせる、なんて意気込んでしまって……貴女も見かけによらず負けん気が強くてどんなに厳しくても喰いついてくるものだから、それで私達、貴女ならできる、もっと成長させたいって夢中になっていたの。随分無理をさせてしまったわよね」
王妃様は深々と頭を下げた後、陛下をちらりと見てうんざりした顔をした。
「それにこの人ったら娘可愛さに注意の一つもできないんですもの。たから私が厳しくするしかなくて……」
「だって娘の可愛さったら想像を遥かに超えていたんだよ」
確かに陛下はいつもお優しくて厳しい事を言われたりはしなかった。けれどもお小言を言う王妃様の隣で気難しい顔で黙っていたので、わたしはずっと不出来な自分を不甲斐なく思っているのだろうと考えていたんだけど……
あれは尻に敷かれた妻に言うわけにはいかないけれど、そこまで言わなくても良いのになぁって思っていたのが表情に出ちゃってたってことだったの?
もぉっ!って膨らませた王妃様の頬を陛下がつつく。そして二人は楽しそうに見つめ合いクスクスと笑いあった。
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