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王太子妃
執着心と独占欲
しおりを挟む四年間一緒に暮らして初めて目にした両陛下のイチャイチャは箍か外れたみたいに留まるところを知らなかった。とうとう王妃様は陛下のお膝に上に乗せられてしまったのだから。リードが一人で帰国していたならばお二人はもっと早くに国王夫妻ではなく普通の父と母としての顔をわたしに見せてくれていたのかもしれない。一人では身構えて殻に閉じ籠っていたわたしもリードが一緒ならお二人にも心を開けただろうから。でも、このイチャイチャが普通の、と言えるかどうかは別だけど。
「貴女を王太子妃に選んだ理由を伝えずにいた事でそんなに苦しめてしまうなんて思わなかったの。本当にごめんなさい」
「すまなかったね、アンネリーゼ」
まるで説得力なんてない状況ながらお二人は心底悔やんでおられるらしく私に深々と頭を下げられた。
「君を見つけた時、遂にファルシア王室長年の悲願がと歓喜したのは事実なんだが……我々はね、城に迎えた君と過ごすうちに燕の事などどうでも良くなってしまったんだ。ただただ、良いお嫁さんが来てくれたとそんなふうに浮かれてしまってね。プロイデンの燕だったからこそ僕たちは君を見つけられた。それだけで十分だったんだ」
「本当に、貴女が燕だった事には何度感謝したか知れやしないわ。そうでなければ私達は貴女の存在に気付かずにいたでしょうから。私が貴女を選んだのはね、貴女なら素晴らしい王太子妃になれると思ったからに他ならないの。だから私の直感だったって話は嘘じゃないわ。いくら燕さんだからって無能な性悪女を大事な一人息子の嫁にするのなんてお断りだもの。それで伯爵家に打診するつもりだって言ったら……そうしたらジークフリードったらね、降って湧いたような縁談だった筈なのに婚約者として貴女を置いては行けないからどうしても直ぐに結婚するって聞かなかったのよ」
「……え?慣例だから……って言われたのですが……違ったのですか?」
「私や先代の王妃様達は外国の王女でしたからね。でも伯爵令嬢の貴女なら婚約者として待って貰えば良いって言ったのに頑として譲らないんだもの。アンネリーゼ、ジークフリードに四年分のおねだりをした方が良くてよ?この人のせいで苦労させられたんだもの」
チッという王太子発の舌打ちが私の耳の直ぐそばで聞こえた。
「だって、婚約なんてどうにでもできるじゃないか。四年も離れなきゃいけないのにリセを誰かにかっ拐われたらと思ったら生きた心地がしなかったんだ。それならいっそ慣例を利用して書類上だけでも僕の奥さんにしてしまえって。そうしたら誰も手出しはできないだろう?」
「本当に、我が息子ながらこの執着心と独占欲にはゾッとしたわ」
「実際リセに横恋慕した不届き者もいるじゃないですか!奴は人妻だからこそ指を咥えて見ていたんです。婚約者なんて曖昧な立場だった今頃どうなっていたか……」
「やだ……天地がひっくり返ってもどうにもなりませんけど?リードのそんな安心安全の為に私は四年も辛酸を舐めたってこと?酷くない?」
ないわー。悪いけどアルブレヒト様は絶対にないって。
それでも私に回された両腕の拘束が強まった事から察するに納得させるのは難しそうだ。かくなるうえは方針転換をしてリリアを唆し一日も早くリリア・ジェローデルになって貰わないとね。
さっきまで泣いていた王妃様が私ににっこりと微笑みかけてきた。こんなにも優雅なのにもう誰にも口を挟ませないという強いオーラで満ち溢れている王妃様は神々しい程の美しさだ。
「王位継承権は何のためにあるの?何のために継承順位なんか付けるの?そんなに王太子の子どもに拘るならそんなものいらないじゃない?つまりね、いざとなったら世継は居るって事よ。私達が求めたのは有能な王太子妃であって卵を産む燕なんかじゃないわ。だからアンネリーゼ、立派な王太子妃になった貴女はいつか国を思い臣民を思う王妃になれば良い。その上で国母になれたのならおめでたいけれど、今のままだって十分よ。贅沢なんて言わせないわ」
「…………王妃……様……」
私は認められていた。私の四年間の努力を王妃様は見ていて下さったのだ。見開いた私の目からは涙が溢れ、今度はリードが慌ててタオルを取りに走りそれを渡された私は安心して余計に泣いた。
「実はそれに関してお願いがございます」
まだまだタオルが離せない私の横でリードの纏う空気が一気に変わり、私は驚いてリードを見上げた。すっと伸ばされた背筋と研ぎ澄まされた凛々しい視線には、圧倒されるような威厳と気品が満ち溢れている。やはりこの人はいつか王冠を戴く為に生まれてきたのだと掴まざるを得ない程に。
リードは跪き国王陛下を見上げキラキラの王子様スマイルを炸裂させた……までは良かったのだ。にも関わらずその直後に告げた言葉がとてもじゃないけれど想像もつかないもので、私はポカンとお口を開けたまま瞬きを繰り返した。
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