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これで三度目NTR
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これで三度目だ。
「ごめんね、理沙の好きな人だって知っていたから、私はずっと気持ちにセーブしてきたんだよ? でも彼が何度も告白してきてくれて……私も彼の一生懸命さに惹かれちゃって……」
「麗奈は何も悪くないんだ。俺が彼女を好きになってしまって、どうしても諦められなくて無理に言い寄っただけなんだ。だから彼女を責めないでくれ。悪いのは全部俺だから」
「……」
この茶番も、定型文かな? というくらい同じようなセリフを過去に二回聞いている。そしていつものパターンだと、何を言っても理沙の言葉は麗奈に対する暴言と捉えられ、なんてひどい奴だと責められる流れだな……と理沙は目の前の二人を眺めながらぼんやり考える。
「ねえ、どうして何も言ってくれないの? もう私とは口を利くのも嫌? でも私、理沙ちゃんのこと大好きだし、こんなことでダメになりたくないの」
「なあ、責めるなら俺にしろよ。麗奈だってずっと悩んでいたんだよ。理沙のこと悲しませてしまうのは辛いって言って、どうしたらいいか分からないって泣いてたんだ。理沙も……いや、百田も彼女の気持ちもわかってやれよ」
「……」
わざとらしく名前から苗字に言い直されて、なんのアピールなのかと苛立ちが増していく。
泣いて肩を震わす麗奈をたまらず抱きしめる幸生。
ごめんな、俺がふがいないばっかりに……ううん、いいの。幸生君がいるから私頑張れる……俺だって……一緒なら……。
ごにょごにょと聞こえてくる会話に、もう帰りたいという思いしか浮かんでこない。
目の前でいちゃついている男のほうは、昨日まで、いやさっきまで理沙の彼氏だった。そしてその相手の女は、小学校からの腐れ縁(麗奈は親友だと言い張る)の友人だった。つまり理沙は友人に彼氏を寝取られたという、単純明快で最低最悪な話なのである。
友人に彼氏を盗られるなんて世の中では珍しい話ではないかもしれない。だがそれが三回目となると、まったくもってよくある話ではない。何かのネタかと思われても仕方がない。実際、理沙もあまりにもありえない状況にいっそ笑いがこみあげてくる。
そして知らないうちに薄笑いを浮かべてしまっていたのか、麗奈を抱きしめていた幸生の顔が険しくなる。
「何がおかしいんだよ。麗奈がこんなに泣いているのに」
お前は何の権利があって私にキレているのかと小一時間問い詰めたいが、バカバカしすぎてそんな時間をかけてやる気にもなれない。
「いや、笑うしかないでしょ。だって麗奈に彼氏盗られるの、これで三度目だよ? だから私言ったよね? 麗奈に気を付けてねって。そんで、他に気が移ったら浮気する前に別れてから行ってねともいったよね? それなのにこのザマじゃん。笑いたくもなるよ」
「り、理沙ちゃんっ! 幸生くんは悪くないの! 好きになっちゃった私が悪いの!」
「麗奈! いいんだ! 全部俺が背負うべき罪なんだからっ!」
「ああ、まあ麗奈が一番悪いのはそう。幸生もまあ最低だけど、どうでもいいわ。じゃ、私もう行くから。麗奈はもうさすがに三回目は許せる限界を超えているから、もう連絡先ブロックしとく。私とは縁が切れたと思ってね。そんで二人でお幸せにね。二度と話しかけないで」
カフェのボックス席から立ちあがると、周囲からの視線が一斉にこちらに向いた。広めの店内だが、修羅場なのは周囲に伝わっていたのだろう。好奇の目をはねのけるように背筋をピンと伸ばして堂々と店から出てやった。
「あーもう、なんで私が当て馬になってやらにゃならんのよ。あいつら絶対このあと、私をネタにしてもう一回悲恋ごっこやってるわ。さいっあく」
好奇心に負けて窓の外から店内に目線を向けると、案の定ボックス席に座った二人が悲劇の主人公よろしく抱き合ってドラマティックに泣いている姿が見えてしまった。
くっだらない三文芝居だと内心毒づきながら、ガツガツとヒールを打ち鳴らしながら繁華街を足早に抜けていく。
麗奈に彼氏を盗られるのが三回目ともなるともう涙も出ない。
というか、子どものころから麗奈と関わるといつもこうなのだ。
イライラして腹の虫がおさまりそうにない。
このまま家に帰る気になれず、スマホの連絡先をスクロールして一番仲の良い友人に電話をかける。つながらないかなと思いつつ何度かコールすると、電話がつながった。
『もしもし理沙? 電話なんて珍しいね。なにかあった?』
優しい声にホッとして、つい涙が出そうになる。
「萌絵、いきなりごめんね。あのさ……今日飲みに行けないかな? 彼氏に振られてさ……」
『えっ、まさかまた、あの女が寝取ったとか?』
「そのまさかよ。もうしんどすぎて無理」
『……今すぐ行くから。待っていて』
準備して向かうと言ってくれた友の言葉に、ズタボロだった心が救われる。学生時代から彼女は理沙がつらい時には何を置いても必ず駆けつけてくれた。
カレシ運はないけれど友達には恵まれたな……と思いながら駅で待っていると、息を切らせた萌絵が改札を抜けて理沙の下に来てくれた。
「よし、とりあえず飲みに行こう! そこで話聞かせて!」
半個室のある手頃な居酒屋に飛び込むと、ふたりでまず中ジョッキを一気に煽る。
ビールのおかげでようやく気持ちが落ち着いた理沙は、今日彼氏に呼び出されたところからここに来るまでの話を事細かに話した。
「さいってー! あからさまな寝取り女に引っかかるその元カレもマジ最低!」
「絶対大丈夫とか言ってたその口で、彼女は悪くないとかのたまうからホントに腹立ったわ。二人の愛の劇場を見せられて、もう呆れて涙もでないわよ」
自分よりも怒ってくれる萌絵を見ているだけで傷ついた心が慰められる。
でもさー、その女もここまで来ると理沙に対する執念みたいなものを感じるよね。ふつーじゃないよ。気持ち悪い」
萌絵が腕をさすりながら顔を歪める。
その意見には理沙も完全に同意だ。麗奈とは小学校から顔見知り(幼馴染とは言いたくない)だが、ずっと彼女に粘着されている。彼氏を寝取るのも、偶然好きになってしまったとかではない。明らかに理沙の彼だと分かって仕掛けているのだ。
「ホントに……どうしてあの子は私につきまとうのかしらね……いい加減、解放されたい」
はあ、と深いため息が出る。
以前から彼女のことを聞いていた萌絵も大きく頷いて、痛ましいものを見るような目線を向けてくる。
三度目になる彼氏略奪。
麗奈からの嫌がらせと粘着は、小学校の時から続いている。年季の入った嫌がらせに、もうため息しか出ない。
「ごめんね、理沙の好きな人だって知っていたから、私はずっと気持ちにセーブしてきたんだよ? でも彼が何度も告白してきてくれて……私も彼の一生懸命さに惹かれちゃって……」
「麗奈は何も悪くないんだ。俺が彼女を好きになってしまって、どうしても諦められなくて無理に言い寄っただけなんだ。だから彼女を責めないでくれ。悪いのは全部俺だから」
「……」
この茶番も、定型文かな? というくらい同じようなセリフを過去に二回聞いている。そしていつものパターンだと、何を言っても理沙の言葉は麗奈に対する暴言と捉えられ、なんてひどい奴だと責められる流れだな……と理沙は目の前の二人を眺めながらぼんやり考える。
「ねえ、どうして何も言ってくれないの? もう私とは口を利くのも嫌? でも私、理沙ちゃんのこと大好きだし、こんなことでダメになりたくないの」
「なあ、責めるなら俺にしろよ。麗奈だってずっと悩んでいたんだよ。理沙のこと悲しませてしまうのは辛いって言って、どうしたらいいか分からないって泣いてたんだ。理沙も……いや、百田も彼女の気持ちもわかってやれよ」
「……」
わざとらしく名前から苗字に言い直されて、なんのアピールなのかと苛立ちが増していく。
泣いて肩を震わす麗奈をたまらず抱きしめる幸生。
ごめんな、俺がふがいないばっかりに……ううん、いいの。幸生君がいるから私頑張れる……俺だって……一緒なら……。
ごにょごにょと聞こえてくる会話に、もう帰りたいという思いしか浮かんでこない。
目の前でいちゃついている男のほうは、昨日まで、いやさっきまで理沙の彼氏だった。そしてその相手の女は、小学校からの腐れ縁(麗奈は親友だと言い張る)の友人だった。つまり理沙は友人に彼氏を寝取られたという、単純明快で最低最悪な話なのである。
友人に彼氏を盗られるなんて世の中では珍しい話ではないかもしれない。だがそれが三回目となると、まったくもってよくある話ではない。何かのネタかと思われても仕方がない。実際、理沙もあまりにもありえない状況にいっそ笑いがこみあげてくる。
そして知らないうちに薄笑いを浮かべてしまっていたのか、麗奈を抱きしめていた幸生の顔が険しくなる。
「何がおかしいんだよ。麗奈がこんなに泣いているのに」
お前は何の権利があって私にキレているのかと小一時間問い詰めたいが、バカバカしすぎてそんな時間をかけてやる気にもなれない。
「いや、笑うしかないでしょ。だって麗奈に彼氏盗られるの、これで三度目だよ? だから私言ったよね? 麗奈に気を付けてねって。そんで、他に気が移ったら浮気する前に別れてから行ってねともいったよね? それなのにこのザマじゃん。笑いたくもなるよ」
「り、理沙ちゃんっ! 幸生くんは悪くないの! 好きになっちゃった私が悪いの!」
「麗奈! いいんだ! 全部俺が背負うべき罪なんだからっ!」
「ああ、まあ麗奈が一番悪いのはそう。幸生もまあ最低だけど、どうでもいいわ。じゃ、私もう行くから。麗奈はもうさすがに三回目は許せる限界を超えているから、もう連絡先ブロックしとく。私とは縁が切れたと思ってね。そんで二人でお幸せにね。二度と話しかけないで」
カフェのボックス席から立ちあがると、周囲からの視線が一斉にこちらに向いた。広めの店内だが、修羅場なのは周囲に伝わっていたのだろう。好奇の目をはねのけるように背筋をピンと伸ばして堂々と店から出てやった。
「あーもう、なんで私が当て馬になってやらにゃならんのよ。あいつら絶対このあと、私をネタにしてもう一回悲恋ごっこやってるわ。さいっあく」
好奇心に負けて窓の外から店内に目線を向けると、案の定ボックス席に座った二人が悲劇の主人公よろしく抱き合ってドラマティックに泣いている姿が見えてしまった。
くっだらない三文芝居だと内心毒づきながら、ガツガツとヒールを打ち鳴らしながら繁華街を足早に抜けていく。
麗奈に彼氏を盗られるのが三回目ともなるともう涙も出ない。
というか、子どものころから麗奈と関わるといつもこうなのだ。
イライラして腹の虫がおさまりそうにない。
このまま家に帰る気になれず、スマホの連絡先をスクロールして一番仲の良い友人に電話をかける。つながらないかなと思いつつ何度かコールすると、電話がつながった。
『もしもし理沙? 電話なんて珍しいね。なにかあった?』
優しい声にホッとして、つい涙が出そうになる。
「萌絵、いきなりごめんね。あのさ……今日飲みに行けないかな? 彼氏に振られてさ……」
『えっ、まさかまた、あの女が寝取ったとか?』
「そのまさかよ。もうしんどすぎて無理」
『……今すぐ行くから。待っていて』
準備して向かうと言ってくれた友の言葉に、ズタボロだった心が救われる。学生時代から彼女は理沙がつらい時には何を置いても必ず駆けつけてくれた。
カレシ運はないけれど友達には恵まれたな……と思いながら駅で待っていると、息を切らせた萌絵が改札を抜けて理沙の下に来てくれた。
「よし、とりあえず飲みに行こう! そこで話聞かせて!」
半個室のある手頃な居酒屋に飛び込むと、ふたりでまず中ジョッキを一気に煽る。
ビールのおかげでようやく気持ちが落ち着いた理沙は、今日彼氏に呼び出されたところからここに来るまでの話を事細かに話した。
「さいってー! あからさまな寝取り女に引っかかるその元カレもマジ最低!」
「絶対大丈夫とか言ってたその口で、彼女は悪くないとかのたまうからホントに腹立ったわ。二人の愛の劇場を見せられて、もう呆れて涙もでないわよ」
自分よりも怒ってくれる萌絵を見ているだけで傷ついた心が慰められる。
でもさー、その女もここまで来ると理沙に対する執念みたいなものを感じるよね。ふつーじゃないよ。気持ち悪い」
萌絵が腕をさすりながら顔を歪める。
その意見には理沙も完全に同意だ。麗奈とは小学校から顔見知り(幼馴染とは言いたくない)だが、ずっと彼女に粘着されている。彼氏を寝取るのも、偶然好きになってしまったとかではない。明らかに理沙の彼だと分かって仕掛けているのだ。
「ホントに……どうしてあの子は私につきまとうのかしらね……いい加減、解放されたい」
はあ、と深いため息が出る。
以前から彼女のことを聞いていた萌絵も大きく頷いて、痛ましいものを見るような目線を向けてくる。
三度目になる彼氏略奪。
麗奈からの嫌がらせと粘着は、小学校の時から続いている。年季の入った嫌がらせに、もうため息しか出ない。
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