略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

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「やだ偶然~♡」

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 金曜日、会社近くのカフェで待ち合わせの予定だったが、会社のエントランスを出ると圭司が入り口のところに立っていた。
 理沙を見つけるとニコッと笑って右手をひらひらさせている。

「理沙に早く会いたくて待ち伏せしちゃったー♡」
「んっ……、嬉しい。私も早く会いたかった。圭司大好き」

 そういえばバカップルごっこをすると言った圭司の言葉を思い出し、恥ずかしいのをこらえてバカップルぽいセリフで返すと、圭司のほうが吹き出してしまった。

「それは不意打ちだわ。もー可愛いなあ理沙は」
「ありがと。圭司も可愛いよ」
「それはちょっと違うかな」

 イタリアンバルは最近改装してテラス席が設けられた。気候の良い時期は外の席のほうが人気で、ワイワイとお酒と食事を楽しんでいるお客でいつも満席になっている光景をよく目にする。
 立ち飲みで良ければ中のカウンターでバーテンダーと会話をしながら飲めるので、一人で来る客も多い。

「いい店だなー。わざとこの雑多な雰囲気にしているんだろうな。カウンターは客の回転率が上がるし、一人飲みの客も呼び込めるからいいな」
「確かに。一杯飲むだけでもいいし、カウンターでちょっと料理つまむのもいいね」

 大皿料理もあるが、つまみにちょうど良い一品料理が色々あって美味しそうだ。
 飲み物の種類も豊富で、何度も通いたくなる店である。
 四人掛けのテーブル席に案内され、席に着くと圭司がワクワクした表情であちこち見回している。内装の面白さと料理の豊富さで話が盛り上がった。
 まずアラカルトを注文して、ビールとともに料理をつまむ。

 どれも美味しくて二杯目のグラスが空きそうになった頃、ものすごく聞き覚えのある声が理沙の名を呼んだ。
 振り返るまでもなく、誰だかの予想がついて背筋に緊張が走る。

「わあ! 理沙ちゃん偶然! こんなところで会えるなんて嬉しいなあ」
「……麗奈」

 ミルクティー色の巻き髪をふわふわと揺らしながら麗奈がこちらに駆け寄ってくる姿が目に入る。その後ろには顔色の悪い幸生がいた。

「えっとね、私たちもご飯しに来たんだぁ。……あっ! もしかして彼氏さんと一緒だった? こんにちはぁ、私理沙ちゃんの友達で……」

 理沙に声をかけてきたにも関わらず、麗奈はまっすぐに圭司の隣に向かい、距離を詰めてくる。圭司はすっと表情を切り替え、営業スマイルを浮かべるが目元は全く笑っていない。

「ここ美味しいって聞いたから来てみたけどすごく混んでて、カウンターしか空いてないみたいなの。理沙ちゃんがいてよかったぁ~相席させてぇ」

 許可される前にもう麗奈は圭司の隣の席に手をかけて座ろうとしている。

(アンタがそこに座ると幸生が私の隣に来ることになるんですけど?)

 奇麗にネイルが施された手を伸ばし、圭司の肩に触れそうになるのを見て、みぞおちあたりがひやりとして無意識に拳を握りしめる。理沙が口を開きかけた瞬間、圭司がすっと立ち上がった。

「ああ、いいですよ。俺たちちょうど出るところだったんで、どうぞこの席使ってください。じゃあ理沙、行こうぜ」

 さりげなく麗奈の手をよけつつ彼女の横をすり抜けると、理沙のカバンをひょいと持って会計に向かってしまった。
 理沙は慌ててそのあとを追う。


 後ろから何か言われたような気がしたが、聞こえないふりをして店を出た。
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