24 / 83
「やだ偶然~♡」
しおりを挟む金曜日、会社近くのカフェで待ち合わせの予定だったが、会社のエントランスを出ると圭司が入り口のところに立っていた。
理沙を見つけるとニコッと笑って右手をひらひらさせている。
「理沙に早く会いたくて待ち伏せしちゃったー♡」
「んっ……、嬉しい。私も早く会いたかった。圭司大好き」
そういえばバカップルごっこをすると言った圭司の言葉を思い出し、恥ずかしいのをこらえてバカップルぽいセリフで返すと、圭司のほうが吹き出してしまった。
「それは不意打ちだわ。もー可愛いなあ理沙は」
「ありがと。圭司も可愛いよ」
「それはちょっと違うかな」
イタリアンバルは最近改装してテラス席が設けられた。気候の良い時期は外の席のほうが人気で、ワイワイとお酒と食事を楽しんでいるお客でいつも満席になっている光景をよく目にする。
立ち飲みで良ければ中のカウンターでバーテンダーと会話をしながら飲めるので、一人で来る客も多い。
「いい店だなー。わざとこの雑多な雰囲気にしているんだろうな。カウンターは客の回転率が上がるし、一人飲みの客も呼び込めるからいいな」
「確かに。一杯飲むだけでもいいし、カウンターでちょっと料理つまむのもいいね」
大皿料理もあるが、つまみにちょうど良い一品料理が色々あって美味しそうだ。
飲み物の種類も豊富で、何度も通いたくなる店である。
四人掛けのテーブル席に案内され、席に着くと圭司がワクワクした表情であちこち見回している。内装の面白さと料理の豊富さで話が盛り上がった。
まずアラカルトを注文して、ビールとともに料理をつまむ。
どれも美味しくて二杯目のグラスが空きそうになった頃、ものすごく聞き覚えのある声が理沙の名を呼んだ。
振り返るまでもなく、誰だかの予想がついて背筋に緊張が走る。
「わあ! 理沙ちゃん偶然! こんなところで会えるなんて嬉しいなあ」
「……麗奈」
ミルクティー色の巻き髪をふわふわと揺らしながら麗奈がこちらに駆け寄ってくる姿が目に入る。その後ろには顔色の悪い幸生がいた。
「えっとね、私たちもご飯しに来たんだぁ。……あっ! もしかして彼氏さんと一緒だった? こんにちはぁ、私理沙ちゃんの友達で……」
理沙に声をかけてきたにも関わらず、麗奈はまっすぐに圭司の隣に向かい、距離を詰めてくる。圭司はすっと表情を切り替え、営業スマイルを浮かべるが目元は全く笑っていない。
「ここ美味しいって聞いたから来てみたけどすごく混んでて、カウンターしか空いてないみたいなの。理沙ちゃんがいてよかったぁ~相席させてぇ」
許可される前にもう麗奈は圭司の隣の席に手をかけて座ろうとしている。
(アンタがそこに座ると幸生が私の隣に来ることになるんですけど?)
奇麗にネイルが施された手を伸ばし、圭司の肩に触れそうになるのを見て、みぞおちあたりがひやりとして無意識に拳を握りしめる。理沙が口を開きかけた瞬間、圭司がすっと立ち上がった。
「ああ、いいですよ。俺たちちょうど出るところだったんで、どうぞこの席使ってください。じゃあ理沙、行こうぜ」
さりげなく麗奈の手をよけつつ彼女の横をすり抜けると、理沙のカバンをひょいと持って会計に向かってしまった。
理沙は慌ててそのあとを追う。
後ろから何か言われたような気がしたが、聞こえないふりをして店を出た。
58
あなたにおすすめの小説
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる