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気持ち悪い虫を見るような
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かあっと頭に血が上る。
立ち上がって怒鳴りつけてやろうとした瞬間、圭司が口を開いた。
「アンタが噂の、理沙のストーカー? すごいね、こんなとこまで後をつけてきたのかよ。気持ち悪いな」
「なっ……! や、理沙ちゃん、私のことそんな風に言っていたの? ひどい……友達だと思ってたのに……!」
頬を引きつらせたが、麗奈は一瞬にして目を潤ませショックを受けた表情に切り替えた。圭司が想定した通りの反応を示さなかったら、すぐに違う方向に話を持って行くあたり人を操る術を得ているのだと思えてぞっとする。
「アンタの言う友達って、罠に嵌めて陥れる相手のこと? それともマウント取るための踏み台? ひどいね、俺にはそういう友達って理解できないわ」
圭司に嘲笑われ、麗奈の顔がかあっと紅潮する。
憎々し気に目を吊り上げ、こんなに崩れた表情になるのを初めて見たと場違いなことを考えてしまった。
ついまじまじと顔を眺めていたら、その視線に気づいた麗奈がハッとして慌てて手で顔を覆う。
「私っ、そんなことしてないっ! 理沙ちゃんが嘘をついているんです! 理沙ちゃんの彼が私を好きになっちゃったからっ、ずっと妬まれてひどいことされたのはむしろ私なのに……っ」
本当に涙を流しながら己の潔白を訴える麗奈の姿は、知らない人から見れば完全に被害者で不憫な女の子に見える。だが、うるんだ瞳のまま圭司の顔をちらりと窺うのを見逃さなかった。
理沙も横目で圭司の様子を窺う。
彼は表情ひとつ変えずじっと麗奈を観察していた。
今まで見たことがないほど冷たい目で、虫の動きをみるような嫌悪感を漂わせている。自分に向けられたものでない理沙でもぞっとするような怖い表情をしていた。
まったく泣き落としが通用していないと悟ったのか、麗奈は泣きながら席を立つ。
「理沙ちゃんひどいよっ! 嘘をついて私を貶めるのはもうやめて!」
わあっと涙声で捨て台詞を吐き、麗奈は店を飛びだしていった。
周囲の視線が痛いが、一瞬にして嵐が過ぎ去るみたいにして出て行ったから他の人たちもなにがなんだか分からない様子で、すぐに興味を失ったように目を逸らしていった。
「……帰ろう。立てる? 理沙」
「あ、うん」
麗奈は去ったが、こんな騒ぎになった以上ここで話を続けるのは無理だ。
さっさと会計して店を出ると、圭司が手を引いて歩くのを急かしてくる。
「まだどっかで待ち伏せしているかもしれない。タクシーに乗って移動しようか」
「そっか、ごめんね。ていうか、私が会社を出た時からつけられていたのかな」
「いや……どうだろう。つけてきた割には入ってくるタイミングが遅い。誰か人を使ってつけさせたとかあるかもしれない」
麗奈の交友関係は知らないが、昔から彼女を持ち上げる男性陣が常に周囲にいた。理沙のあとをつけるくらいはやってくれそうな男はいくらでもいるに違いない。
まさかそこまでするだろうかと半信半疑だが、これほどしつこく絡んでくる麗奈の執念を考えるとありえる話だ。
「どうするか。ひとまずウチにくるか?」
「うん。迷惑じゃなければ、いい?」
どこか店に入っても、理沙たちの話に聞き耳を立てている者がいるかもしれないと思うと落ち着いて話もできない。偽装彼氏の計画がうっかり麗奈の耳に入っては困るため、タクシーに乗って圭司の家に向かう。
立ち上がって怒鳴りつけてやろうとした瞬間、圭司が口を開いた。
「アンタが噂の、理沙のストーカー? すごいね、こんなとこまで後をつけてきたのかよ。気持ち悪いな」
「なっ……! や、理沙ちゃん、私のことそんな風に言っていたの? ひどい……友達だと思ってたのに……!」
頬を引きつらせたが、麗奈は一瞬にして目を潤ませショックを受けた表情に切り替えた。圭司が想定した通りの反応を示さなかったら、すぐに違う方向に話を持って行くあたり人を操る術を得ているのだと思えてぞっとする。
「アンタの言う友達って、罠に嵌めて陥れる相手のこと? それともマウント取るための踏み台? ひどいね、俺にはそういう友達って理解できないわ」
圭司に嘲笑われ、麗奈の顔がかあっと紅潮する。
憎々し気に目を吊り上げ、こんなに崩れた表情になるのを初めて見たと場違いなことを考えてしまった。
ついまじまじと顔を眺めていたら、その視線に気づいた麗奈がハッとして慌てて手で顔を覆う。
「私っ、そんなことしてないっ! 理沙ちゃんが嘘をついているんです! 理沙ちゃんの彼が私を好きになっちゃったからっ、ずっと妬まれてひどいことされたのはむしろ私なのに……っ」
本当に涙を流しながら己の潔白を訴える麗奈の姿は、知らない人から見れば完全に被害者で不憫な女の子に見える。だが、うるんだ瞳のまま圭司の顔をちらりと窺うのを見逃さなかった。
理沙も横目で圭司の様子を窺う。
彼は表情ひとつ変えずじっと麗奈を観察していた。
今まで見たことがないほど冷たい目で、虫の動きをみるような嫌悪感を漂わせている。自分に向けられたものでない理沙でもぞっとするような怖い表情をしていた。
まったく泣き落としが通用していないと悟ったのか、麗奈は泣きながら席を立つ。
「理沙ちゃんひどいよっ! 嘘をついて私を貶めるのはもうやめて!」
わあっと涙声で捨て台詞を吐き、麗奈は店を飛びだしていった。
周囲の視線が痛いが、一瞬にして嵐が過ぎ去るみたいにして出て行ったから他の人たちもなにがなんだか分からない様子で、すぐに興味を失ったように目を逸らしていった。
「……帰ろう。立てる? 理沙」
「あ、うん」
麗奈は去ったが、こんな騒ぎになった以上ここで話を続けるのは無理だ。
さっさと会計して店を出ると、圭司が手を引いて歩くのを急かしてくる。
「まだどっかで待ち伏せしているかもしれない。タクシーに乗って移動しようか」
「そっか、ごめんね。ていうか、私が会社を出た時からつけられていたのかな」
「いや……どうだろう。つけてきた割には入ってくるタイミングが遅い。誰か人を使ってつけさせたとかあるかもしれない」
麗奈の交友関係は知らないが、昔から彼女を持ち上げる男性陣が常に周囲にいた。理沙のあとをつけるくらいはやってくれそうな男はいくらでもいるに違いない。
まさかそこまでするだろうかと半信半疑だが、これほどしつこく絡んでくる麗奈の執念を考えるとありえる話だ。
「どうするか。ひとまずウチにくるか?」
「うん。迷惑じゃなければ、いい?」
どこか店に入っても、理沙たちの話に聞き耳を立てている者がいるかもしれないと思うと落ち着いて話もできない。偽装彼氏の計画がうっかり麗奈の耳に入っては困るため、タクシーに乗って圭司の家に向かう。
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