略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

文字の大きさ
44 / 83

気持ち悪い虫を見るような

しおりを挟む
 かあっと頭に血が上る。
 立ち上がって怒鳴りつけてやろうとした瞬間、圭司が口を開いた。

「アンタが噂の、理沙のストーカー? すごいね、こんなとこまで後をつけてきたのかよ。気持ち悪いな」
「なっ……! や、理沙ちゃん、私のことそんな風に言っていたの? ひどい……友達だと思ってたのに……!」

 頬を引きつらせたが、麗奈は一瞬にして目を潤ませショックを受けた表情に切り替えた。圭司が想定した通りの反応を示さなかったら、すぐに違う方向に話を持って行くあたり人を操る術を得ているのだと思えてぞっとする。

「アンタの言う友達って、罠に嵌めて陥れる相手のこと? それともマウント取るための踏み台? ひどいね、俺にはそういう友達って理解できないわ」

 圭司に嘲笑われ、麗奈の顔がかあっと紅潮する。
 憎々し気に目を吊り上げ、こんなに崩れた表情になるのを初めて見たと場違いなことを考えてしまった。
 ついまじまじと顔を眺めていたら、その視線に気づいた麗奈がハッとして慌てて手で顔を覆う。


「私っ、そんなことしてないっ! 理沙ちゃんが嘘をついているんです! 理沙ちゃんの彼が私を好きになっちゃったからっ、ずっと妬まれてひどいことされたのはむしろ私なのに……っ」

 本当に涙を流しながら己の潔白を訴える麗奈の姿は、知らない人から見れば完全に被害者で不憫な女の子に見える。だが、うるんだ瞳のまま圭司の顔をちらりと窺うのを見逃さなかった。
 理沙も横目で圭司の様子を窺う。

 彼は表情ひとつ変えずじっと麗奈を観察していた。

 今まで見たことがないほど冷たい目で、虫の動きをみるような嫌悪感を漂わせている。自分に向けられたものでない理沙でもぞっとするような怖い表情をしていた。
 まったく泣き落としが通用していないと悟ったのか、麗奈は泣きながら席を立つ。

「理沙ちゃんひどいよっ! 嘘をついて私を貶めるのはもうやめて!」

 わあっと涙声で捨て台詞を吐き、麗奈は店を飛びだしていった。
 周囲の視線が痛いが、一瞬にして嵐が過ぎ去るみたいにして出て行ったから他の人たちもなにがなんだか分からない様子で、すぐに興味を失ったように目を逸らしていった。


「……帰ろう。立てる? 理沙」
「あ、うん」
 
 麗奈は去ったが、こんな騒ぎになった以上ここで話を続けるのは無理だ。
 さっさと会計して店を出ると、圭司が手を引いて歩くのを急かしてくる。

「まだどっかで待ち伏せしているかもしれない。タクシーに乗って移動しようか」
「そっか、ごめんね。ていうか、私が会社を出た時からつけられていたのかな」
「いや……どうだろう。つけてきた割には入ってくるタイミングが遅い。誰か人を使ってつけさせたとかあるかもしれない」

 麗奈の交友関係は知らないが、昔から彼女を持ち上げる男性陣が常に周囲にいた。理沙のあとをつけるくらいはやってくれそうな男はいくらでもいるに違いない。
 まさかそこまでするだろうかと半信半疑だが、これほどしつこく絡んでくる麗奈の執念を考えるとありえる話だ。

「どうするか。ひとまずウチにくるか?」
「うん。迷惑じゃなければ、いい?」

 どこか店に入っても、理沙たちの話に聞き耳を立てている者がいるかもしれないと思うと落ち着いて話もできない。偽装彼氏の計画がうっかり麗奈の耳に入っては困るため、タクシーに乗って圭司の家に向かう。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団の異色男子 ジャスティン・レスターの意外なお話 矢代木の実(23歳) 借金地獄の元カレから身をひそめるため 友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ 今はネットカフェを放浪中 「もしかして、君って、家出少女??」 ある日、ビルの駐車場をうろついてたら 金髪のイケメンの外人さんに 声をかけられました 「寝るとこないないなら、俺ん家に来る? あ、俺は、ここの27階で働いてる ジャスティンって言うんだ」 「………あ、でも」 「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は… 女の子には興味はないから」

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...