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安心できる場所
しおりを挟む冗談を言いながら、圭司は冷凍のデリを手際よく温めて夕食を出してくれた。
リゾットと温野菜サラダが出てきたので驚く。
冷凍食品なら理沙も家の冷蔵庫にストックしているが、圭司が出してくれたのはそういう専門店で買ったもののようで自分との生活の違いにちょっと引け目を感じる。
「すごい、なんか冷食ひとつとってもセレブの暮らしって感じ。うちの冷凍庫にあるのはチャーハンとか餃子だよ」
「いやこれもマーケティング調査の一環なんだわ。結構有名店監修とかで冷凍とかのデリをやってんだよね。冷凍にするとどうしても水っぽくなって味が落ちるけど、このシリーズは美味いんだよ。うちは冷凍デリまだやってないけど、家食需要増えてっからなーいずれ親父がやるって言い出しそう」
「圭司の店ってテイクアウトできるの?」
「いや、俺が担当している店では飲み屋がメインだしやってない。でも他の店舗でテイクアウトやってほしいとか要望があるし検討はしてるんだよね。でも利益が出るか微妙なところでさ……食中毒の問題もあるし、難しいんだよなー」
仕事の話を楽しそうに話す圭司の顔が、とてもいいなと思った。
思えば彼は高校時代もそうだった。
彼は任された役目に対して、いつも全力で取り組んで、そしてそれを楽しんでやる。
いつだったか、学校隣にある神社の落ち葉掃除をするボランティアが足りなくてバレー部が駆り出された時、面倒がる部員をよそにどれだけ落ち葉を集められるか友人たちと競争を始めて面倒な手伝いを楽しいイベントに変えてしまった。競い合って掃除したため、予定していた箇所のほかも奇麗にして、そのうえ掃除は早く終わり先生に大層褒められた。
その後、頑張ったご褒美がほしいと圭司が先生と神社に交渉し始めて、落ち葉で焼き芋をやる許可を得てきたのだ。
圭司が責任者となって、買い出しから火の準備、片付けまでの仕事の担当を決めててきぱき采配してくれた。ボランティアに参加した人たちは普段関わらないクラスの子や別学年の子などさまざまだったが、全員ではしゃぎながら焼き芋パーティーをやったのは今でもいい思い出だ。
後から参加しなかった子たちにさんざん羨ましがられたくらい、楽しいイベントだった。
普通だったら面倒でやる気の出ない仕事でも、圭司は全力で向かってなおかつ楽しんでやる。
当時はそんな圭司のことを、陽キャってすごいなあと簡単に考えていた。でも社会人になって、それなりに責任ある仕事を任される立場になった今、彼がどれだけすごかったのかを理解できる。
「圭司が男にも女にもモテる理由が分かるなあ。なんか、キラキラしてるんだよね」
「なんだそりゃ。イケメンって褒められてる?」
「んーそうだけどそうじゃなくてさ。話していると気持ちが引っ張られるっていうかさ。上手く言えないけど、憧れる……」
「理沙、お前もう半分寝てるだろ。もう歯磨いて寝ようぜ」
いつの間にか理沙はこくりこくりと舟をこぎ始めていたらしく、苦笑いの圭司に洗面所まで連れていかれる。お風呂に入りお腹も満たされたせいで猛烈に眠気が襲ってきて、歯を磨きながらも寝落ちしそうになる。
「ホラ、もう寝ちまえ」
「うん……圭司は?」
「俺はソファでも寝れるからいーよ」
「え、駄目だよ……それなら私がソファで寝る」
「それこそダメだろ。じゃあ理沙が嫌じゃないなら俺も一緒に寝ていい? なーんて」
「うん……一緒に寝よ」
寝ぼけた頭でぽやぽや答えると、圭司が息を呑む音が聞こえた気がした。
ベッドに横になるともうまぶたを開けていられなくて、すぐに寝てしまいそうで枕に頭を預けた。
「……ありがと、圭司。おやすみ……」
「今日めちゃくちゃたくさんありがとうって言われたな。おやすみ、理沙」
おでこにキスを落とされる。
くすぐったくてクスクスと笑うと、圭司の胸に抱きこまれた。
全身で守られていると感じる。人肌がこんなにも愛おしいと感じたのは初めてかもしれない。温かい腕に包まれて、理沙は久しぶりに心から安心して眠りについた。
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