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祝杯をあげよう!
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コンプライアンス部の調査も迅速に進み、そもそも他社の者を正しい手続きを踏まずにオフィス内に引き入れたことや、その後男性たちが勝手に女子更衣室を麗奈に貸したことなどが規律違反にあたり、暴言暴力も目撃多数で彼らが一方的な加害者であると認定された。
主任を含めた加害者の男性たちは、次の移動時期で関連子会社への移動が内々で決定。
彼らは引き継ぎ作業を終えたら移動先に出向扱いとなり、会社にはほとんど顔を出さずに移動の告示を待つことになった。
理沙は彼らからの報復を心配していたけれど、それは会社側も考慮してくれていたため、社内で顔を合わせる機会がないよう調整してくれたようだった。
予想より早い決定で厳しい処分が下されたのは、嫌がらせをしていた彼らはコンプライアンス部の聞き取り調査に対しても理沙が悪いと主張し続けたせいである。
暴力暴言に対し反省の色なしと判断され、情状酌量が全くない処分となってしまった。
こうして、一時期は自分が辞める以外解決できないと思い詰めていた頃が嘘みたいに、嫌がらせの件は理沙にとってこれ以上ないくらい良いかたちで解決してしまったのである。
次の移動で主任は別部署から人が来ることも決定して、社内の雰囲気も以前のように明るくなり、全てが良い方向に解決して菫たちと共に喜びを分かち合った。
それまでも逐一圭司と萌絵に事の成り行きを伝えていたけれど、今回正式に加害者たちの処分と移動が決定したと報告したところ、二人とも我が事のように喜んでくれた。
萌絵の提案で、『祝杯をあげよう!』となって週末に圭司の家で宅飲みしようと決まった。
実はあれから理沙は、ずるずると圭司の家に居候している。
引っ越し先が決まるまではここにいろと言われ、仕事の忙しさもありつい甘えてしまっている。圭司の仕事は不規則で、夜に一旦帰ってきてまた深夜に出ていく日や、朝方に顔を合わせるだけの日もあり、理沙も自分のペースで暮らせるから住み心地がいいというのもある。
友達とは言え男性の家に転がり込むなんてどうかと思ったが、むしろ住み始めてからのほうが距離を取ってくれている。
手を出すどころか、以前はしょっちゅうしていたキスすらしなくなって、本当にただの同居人としてふるまってくれているのは圭司のけじめというか気遣いなのだろう。
有難いと感謝しているけれど……もしかして、一緒に暮らし始めてから何か圭司の気分を害するようなことをしてしまって、嫌われたんじゃないかと不安を持ち始めていた。
あまり家で顔を合わせないのも、避けられているのではと疑心暗鬼になってしまっている。
このマンションの家賃半額とまではいかなくても、多少でもお金は払わせてほしいと申し出たが、気にするなと断られてしまう。それは『引っ越し費用を貯めて出ていく目途を立てろ』と思われているような気がして、早く家を見つけなければとここ最近は焦りが出てきていた。
萌絵に相談してみようと思ったこともある。
けれどきっと彼女は『気にしすぎ!』と言われてしまう気がして、相談できずにいた。
そんな悩みと気まずさを抱えたままの宅飲み会。
盛り上がる二人を他所に、理沙は少々複雑な心境を抱えていた。
萌絵と待ち合わせして、預かっている鍵でマンションに入る。圭司は先に家で用意して待っているというので、理沙は仕事終わりに頼まれた食材などを買っていくだけだ。
買い物袋を提げて合鍵を使う理沙を見て、萌絵がにやにやと笑っている。
「やだーまるで新婚さんみたいじゃーん。仲良くやってるみたいでよかったわあ」
「そんなんじゃ……居候させてもらってるだけだよ。いつまでも圭司に迷惑かけるのも申し訳ないから、早く家をみつけなきゃって思ってるんだけどね」
「圭司は迷惑とか思ってないでしょ。むしろいつまでもいてくれって言うわよアイツなら」
からかう言葉に対して曖昧に笑う理沙を見て、萌絵が不思議そうに首をかしげたが、それ以上問い詰めたりせず話題を変える。
「でもさ理沙って結構潔癖なとこあるから、よっぽど気が合わないと同居とか無理じゃない? 彼氏が家に泊まると気を遣って疲れちゃうタイプだったじゃん。彼氏が来る前と帰ったら毎度大掃除して、そのあと疲れ切って体調崩したりしてそうだもん」
「うわあ……なんでわかるの萌絵ちゃん」
見事に言い当てられてちょっと怖くなる。
潔癖とまではいかないが、生活スペースを乱されるのが嫌で彼氏が家に泊まるのは苦手だった。気を遣いすぎるというのも当たっていて、おもてなしをしすぎて疲れてしまうことが常だった。
ーーーーーーーー
誤字報告ありがとうございます。
主任を含めた加害者の男性たちは、次の移動時期で関連子会社への移動が内々で決定。
彼らは引き継ぎ作業を終えたら移動先に出向扱いとなり、会社にはほとんど顔を出さずに移動の告示を待つことになった。
理沙は彼らからの報復を心配していたけれど、それは会社側も考慮してくれていたため、社内で顔を合わせる機会がないよう調整してくれたようだった。
予想より早い決定で厳しい処分が下されたのは、嫌がらせをしていた彼らはコンプライアンス部の聞き取り調査に対しても理沙が悪いと主張し続けたせいである。
暴力暴言に対し反省の色なしと判断され、情状酌量が全くない処分となってしまった。
こうして、一時期は自分が辞める以外解決できないと思い詰めていた頃が嘘みたいに、嫌がらせの件は理沙にとってこれ以上ないくらい良いかたちで解決してしまったのである。
次の移動で主任は別部署から人が来ることも決定して、社内の雰囲気も以前のように明るくなり、全てが良い方向に解決して菫たちと共に喜びを分かち合った。
それまでも逐一圭司と萌絵に事の成り行きを伝えていたけれど、今回正式に加害者たちの処分と移動が決定したと報告したところ、二人とも我が事のように喜んでくれた。
萌絵の提案で、『祝杯をあげよう!』となって週末に圭司の家で宅飲みしようと決まった。
実はあれから理沙は、ずるずると圭司の家に居候している。
引っ越し先が決まるまではここにいろと言われ、仕事の忙しさもありつい甘えてしまっている。圭司の仕事は不規則で、夜に一旦帰ってきてまた深夜に出ていく日や、朝方に顔を合わせるだけの日もあり、理沙も自分のペースで暮らせるから住み心地がいいというのもある。
友達とは言え男性の家に転がり込むなんてどうかと思ったが、むしろ住み始めてからのほうが距離を取ってくれている。
手を出すどころか、以前はしょっちゅうしていたキスすらしなくなって、本当にただの同居人としてふるまってくれているのは圭司のけじめというか気遣いなのだろう。
有難いと感謝しているけれど……もしかして、一緒に暮らし始めてから何か圭司の気分を害するようなことをしてしまって、嫌われたんじゃないかと不安を持ち始めていた。
あまり家で顔を合わせないのも、避けられているのではと疑心暗鬼になってしまっている。
このマンションの家賃半額とまではいかなくても、多少でもお金は払わせてほしいと申し出たが、気にするなと断られてしまう。それは『引っ越し費用を貯めて出ていく目途を立てろ』と思われているような気がして、早く家を見つけなければとここ最近は焦りが出てきていた。
萌絵に相談してみようと思ったこともある。
けれどきっと彼女は『気にしすぎ!』と言われてしまう気がして、相談できずにいた。
そんな悩みと気まずさを抱えたままの宅飲み会。
盛り上がる二人を他所に、理沙は少々複雑な心境を抱えていた。
萌絵と待ち合わせして、預かっている鍵でマンションに入る。圭司は先に家で用意して待っているというので、理沙は仕事終わりに頼まれた食材などを買っていくだけだ。
買い物袋を提げて合鍵を使う理沙を見て、萌絵がにやにやと笑っている。
「やだーまるで新婚さんみたいじゃーん。仲良くやってるみたいでよかったわあ」
「そんなんじゃ……居候させてもらってるだけだよ。いつまでも圭司に迷惑かけるのも申し訳ないから、早く家をみつけなきゃって思ってるんだけどね」
「圭司は迷惑とか思ってないでしょ。むしろいつまでもいてくれって言うわよアイツなら」
からかう言葉に対して曖昧に笑う理沙を見て、萌絵が不思議そうに首をかしげたが、それ以上問い詰めたりせず話題を変える。
「でもさ理沙って結構潔癖なとこあるから、よっぽど気が合わないと同居とか無理じゃない? 彼氏が家に泊まると気を遣って疲れちゃうタイプだったじゃん。彼氏が来る前と帰ったら毎度大掃除して、そのあと疲れ切って体調崩したりしてそうだもん」
「うわあ……なんでわかるの萌絵ちゃん」
見事に言い当てられてちょっと怖くなる。
潔癖とまではいかないが、生活スペースを乱されるのが嫌で彼氏が家に泊まるのは苦手だった。気を遣いすぎるというのも当たっていて、おもてなしをしすぎて疲れてしまうことが常だった。
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誤字報告ありがとうございます。
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