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「発言していいですか? 百田さんが営業の子を罵倒して突き飛ばしたって言うのも、そもそも相手がそう言っているだけで事実じゃないと思うんですけど……」
同じ部署の後輩の女の子がおずおずと手を上げて発言をする。
「うむ。双方の意見は正反対だからね。君が事実でないと思う理由は何かあるかね?」
「現場は見ていないですけど、廊下で言い争っていた声なんて聞こえなかったですし、ガラスが割れる音がして私たちが行った時には百田さんも後ろに転んでいたんです。どう見てもお互いぶつかった状況だと思いました。百田さんは手首痛めてましたし、転んだのは間違いないはずなのに、でも田中主任たちはいきなり百田さんを加害者扱いし始めて……はっきり言って異様な光景でした」
「ふむ。確かに彼らは百田君が加害者である前提で話をしている。状況的には百田君の主張が正しいように思えるのに、君たちはどうして百田君を加害者だと断定するのかね?」
話を振られた男性陣はお互い顔を見合わせて言いよどんでいたが、彼らが小声で「麗奈ちゃんが……」や「麗奈ちゃんから……」とぼそぼそ言い合っているのがみんなの耳にも届き、質問した専務が大きなため息をついた。
「またその『れいなちゃん』かね。どうやらその女性が問題の根源にあるようだね。田中主任といい、君らといい……その女性が絡むと冷静に物事が考えられなくなるようだ。仕方がない、君らも自分たちの主張は文書にまとめて提出しなさい。双方の意見を検証して処分を決めるので、それまで自宅待機するように」
これ以上の話し合いは不毛だと判断した専務がこの場を終わらせた。
主任を含む男性たちは、今日の終業時間を待たずこのまま自宅待機を指示され、しおしおとうなだれながら会議室を出て行った。
「百田君。彼らの処分は未定であるが、主任は君の直属の上司から外すことだけは約束するから安心してくれたまえ」
「あ、りがとうございます……専務」
専務を筆頭に、上層部の面々は理沙へねぎらいの言葉をかけてくれてそれぞれ業務に戻っていった。
「やったね、全面勝利じゃん」
「勝ち負けじゃないけど……信じてもらえて嬉しい」
上層部は菫たちが出した上告書の内容を真実として調査を進めてくれるようだと分かり、理沙は菫に抱きしめられながら泣いてしまった。
菫たちと一緒にオフィスに戻ると、他の社員たちはホッとした表情を浮かべていた。上告書を出した件はすでに把握しているようで、理沙が席につくといつも通りの態度で接してくれたのがとてもありがたかった。
主任たちが即日自宅待機になった件は、社内の人々に静かな衝撃を与えた。
男たちが理沙の悪い噂を振りまいていたのを大多数の人が知っている。事情をよく知らない人はどちらが真実か測りかねていたが、仕事に関係ないことで悪口を言いまわる男たちに疑問を感じていたため、彼らが社内から消えてどちらに非があったのか理解してホッとしたようだった。
主任はリモートワークで職場不在になるため、部長が直接理沙たちのチームの仕事をみてくれることになり、理沙は仕事が驚くほどやりやすくなった。
よく考えてみると、麗奈との事故がある前からすでに主任の態度は厳しく、小さなミスでもきつく叱責されることが増えていた。自分が悪いのだからと特に気にしていなかったが、ここ数カ月はずっと仕事が上手くいかないと悩んでもいたのだ。
そして部長が主任の仕事内容を把握するために専用フォルダを開くと、そこでもすでに理沙が提出した仕事が何の承認もされずに放置されているのが発見された。
主任のところで理沙の仕事がなかったことにされてしまっていたのだ。
取引先へ提出する資料などもあり、仕事に穴をあけた形になっている。それらについて部長は、「百田が資料作成を忘れていた」と主任から伝えられた。仕事の期日を守らない問題アリの社員だと名指しで言っていたらしい。
次々と見つかる嫌がらせに、部長が苦々しい顔になる。
「何をやっているんだ彼は。部下の仕事を潰してしまったら、成果が上げられず自分の評価も落とすことになるのに。これはもう降格処分だけではすまないぞ」
部長の独り言に理沙はなんと返事をしたものか分からず、ただ無意味になってしまった自分の仕事のデータを黙って見ていた。
同じ部署の後輩の女の子がおずおずと手を上げて発言をする。
「うむ。双方の意見は正反対だからね。君が事実でないと思う理由は何かあるかね?」
「現場は見ていないですけど、廊下で言い争っていた声なんて聞こえなかったですし、ガラスが割れる音がして私たちが行った時には百田さんも後ろに転んでいたんです。どう見てもお互いぶつかった状況だと思いました。百田さんは手首痛めてましたし、転んだのは間違いないはずなのに、でも田中主任たちはいきなり百田さんを加害者扱いし始めて……はっきり言って異様な光景でした」
「ふむ。確かに彼らは百田君が加害者である前提で話をしている。状況的には百田君の主張が正しいように思えるのに、君たちはどうして百田君を加害者だと断定するのかね?」
話を振られた男性陣はお互い顔を見合わせて言いよどんでいたが、彼らが小声で「麗奈ちゃんが……」や「麗奈ちゃんから……」とぼそぼそ言い合っているのがみんなの耳にも届き、質問した専務が大きなため息をついた。
「またその『れいなちゃん』かね。どうやらその女性が問題の根源にあるようだね。田中主任といい、君らといい……その女性が絡むと冷静に物事が考えられなくなるようだ。仕方がない、君らも自分たちの主張は文書にまとめて提出しなさい。双方の意見を検証して処分を決めるので、それまで自宅待機するように」
これ以上の話し合いは不毛だと判断した専務がこの場を終わらせた。
主任を含む男性たちは、今日の終業時間を待たずこのまま自宅待機を指示され、しおしおとうなだれながら会議室を出て行った。
「百田君。彼らの処分は未定であるが、主任は君の直属の上司から外すことだけは約束するから安心してくれたまえ」
「あ、りがとうございます……専務」
専務を筆頭に、上層部の面々は理沙へねぎらいの言葉をかけてくれてそれぞれ業務に戻っていった。
「やったね、全面勝利じゃん」
「勝ち負けじゃないけど……信じてもらえて嬉しい」
上層部は菫たちが出した上告書の内容を真実として調査を進めてくれるようだと分かり、理沙は菫に抱きしめられながら泣いてしまった。
菫たちと一緒にオフィスに戻ると、他の社員たちはホッとした表情を浮かべていた。上告書を出した件はすでに把握しているようで、理沙が席につくといつも通りの態度で接してくれたのがとてもありがたかった。
主任たちが即日自宅待機になった件は、社内の人々に静かな衝撃を与えた。
男たちが理沙の悪い噂を振りまいていたのを大多数の人が知っている。事情をよく知らない人はどちらが真実か測りかねていたが、仕事に関係ないことで悪口を言いまわる男たちに疑問を感じていたため、彼らが社内から消えてどちらに非があったのか理解してホッとしたようだった。
主任はリモートワークで職場不在になるため、部長が直接理沙たちのチームの仕事をみてくれることになり、理沙は仕事が驚くほどやりやすくなった。
よく考えてみると、麗奈との事故がある前からすでに主任の態度は厳しく、小さなミスでもきつく叱責されることが増えていた。自分が悪いのだからと特に気にしていなかったが、ここ数カ月はずっと仕事が上手くいかないと悩んでもいたのだ。
そして部長が主任の仕事内容を把握するために専用フォルダを開くと、そこでもすでに理沙が提出した仕事が何の承認もされずに放置されているのが発見された。
主任のところで理沙の仕事がなかったことにされてしまっていたのだ。
取引先へ提出する資料などもあり、仕事に穴をあけた形になっている。それらについて部長は、「百田が資料作成を忘れていた」と主任から伝えられた。仕事の期日を守らない問題アリの社員だと名指しで言っていたらしい。
次々と見つかる嫌がらせに、部長が苦々しい顔になる。
「何をやっているんだ彼は。部下の仕事を潰してしまったら、成果が上げられず自分の評価も落とすことになるのに。これはもう降格処分だけではすまないぞ」
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