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誰が、どうやって
しおりを挟む圭司は業者の人と話し込んでいて、理沙よりは冷静だがやはりその顔は強張って青ざめている。
しばらく何か話し合ったあと、業者の人は帰り支度を始めたため、圭司が今日の作業費用を手渡している。それを見て慌てて財布を取りだしたが、金額を聞くと現金では手持ちで払えなくてひとまず立て替えてもらうしかなかった。
業者が帰った後も理沙はショックから立ち直れず呆然としていた。
「理沙。ショックだろうけど、家の中での会話は多分聞かれていないよ。いつも通勤カバンは玄関のクロークに置いているだろ。リビングから離れているし会話を拾えるはずがない」
「あ……うん、そっか」
通勤カバンは帰宅するといつも玄関横にあるクロークにコートと共に置くようにしている。扉を閉めてしまうから、更に扉を隔てた場所にあるリビングや寝室の会話を聞かれている心配はない。
そう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせる。
「まさか本当に盗聴器が仕掛けられているとはな。本当にいつ入れられたんだろうな」
「分からない……もしかすると更衣室で鍵をかけ忘れた時があったのかもしれないけど、それなら女性社員に麗奈の協力者がいるってことになっちゃう。会社であの子と仲良くしている女性なんていないと思うんだけど」
「仕掛けられたのは最近のはずだと言っていたな。このカバンはいつから使ってる?」
「カバン自体は何年も使っているよ。あ、でも三カ月前くらいに中身全部出して虫干しした時には中敷きも外して拭いたから、それ以降ってことだよね」
ここ三カ月の出来事を必死に考える。
(でもここ最近圭司とは家で話して外で食事することはなかったから、大した話はしていないはず)
待ち合わせして駅から一緒に帰ったことは一度あったかもしれない。どんな会話をしていたか思い出せないけれど、外にいる時は警戒して重要な話はしていない。
だがそもそも、どこで誰に盗聴器を入れられたか分からない以上、何を聞かれていたか不安で恐怖がぬぐえない。
「中敷きの下に仕込むには、やっぱカバンを開けないと入れられないよな。会社の女子ロッカーのスペアキーはある?」
「スペアは総務が管理しているはず。私のは仕事中胸ポケットに入れてるから、やっぱりスペアを持ち出されたのかな? 誰がこんなこと……麗奈とはあれ以来会ってないし…………あっ」
「何か気づいたのか?」
「麗奈とぶつかった日、そういえばあの子、女子更衣室に入っている……」
あの日、確か麗奈は女子更衣室で男性社員に服を借りて着替えをした。
アイスコーヒーが服にかかってしまって、そのままじゃ帰れないだろうと男性たちが着替えを促していた。
その時に『女子更衣室を借りて……』と誰かが言っていたのを思い出す。
「じゃあその時に盗聴器を仕掛けられた可能性が一番高いな」
「でも、ロッカーには鍵がかかっているし、スペアキーは総務に保管されてるけど、それを麗奈が手に入れるのは無理じゃないかな」
「社員に協力者がいれば鍵を借りてこさせることもできるんじゃないか? そうでなくてもロッカーの鍵なんて簡易的な作りだから開けようと思えば方法はありそうだし。もしかしてあの日理沙にぶつかってきたのは、更衣室に入る口実を作るためだったのかもしれないぞ」
「あ……」
わざとぶつかったのは、理沙を貶めるためという目的以外に更衣室に入る理由を作るためだったのかもしれない。
いや、むしろ理沙とのことは副次的なもので本来の目的がそもそも更衣室に入ることだったと考えるほうがしっくりくる。
ちょうどタイミングよく理沙が現れたから、ついでに嫌がらせを仕掛けただけで、目的は盗聴器を仕掛けることだったとするなら……事前にロッカーの合鍵か開ける方法を手に入れていたとしてもおかしくない。
「すぐにでも会社に相談しよう。鍵の貸し出し記録のチェックもそうだけど、社内に監視カメラとかない? 鍵を持ち出した奴の照合ができるといいんだけど」
「うん、でも麗奈が犯人っていうのはまだ想像の域を出ないから、調べてもらうのは難しいかも」
「まあ確実に第一容疑者だけどな。でも他の可能性も想定したほうがいいか。元カレの仕業って可能性もあるしな。そうだ、防犯ブザー買っておこう。あと、追われたら走れるように通勤はスニーカーがいいんじゃないか? 会社でも油断しないで武器になるもの持ったほうがいい。警棒とかメリケンサックとか」
「待って待って、会社で武器はさすがに無理だよ。でも防犯ブザーは携帯しようかな」
あながち冗談でもなさそうな様子の圭司を押しとどめ、ひとまず明日会社の人に相談してみると言ってこの話を終わらせた。
被害届を出すとしても、まずは会社に相談してからにしないといけない。また揉め事を持ち込むことになると思うと、頭が痛くなりそうだった。
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