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Side:麗奈2
しおりを挟む人を思い通りに動かすのはゲームのようで楽しかったし、望んだ結果になると達成感があって心が満たされる。
自分の言葉や行動で人が右往左往する姿は滑稽で、アリの巣を上から眺めているようで面白かった。
この世界は自分を中心にできていて、他人は麗奈のために用意されたエキストラ。
それが幼稚園の頃の麗奈にとっての真実だった。
思い通りならないことなんて何もない。
だってこの世界は麗奈のためにあるのだから。
事実、両親や周囲の大人たちは麗奈がほしいと言ったものは何でも買ってくれ、やりたいことや希望をいつでも叶えてくれた。
成長して小学校に入ってもそれは変わらない。
クラスメイトのほとんどが、麗奈の思い通りに動いてくれた。
当然のように望みを叶えてもらえていたのに、ほとんどの子がそうしてくれるなか、思い通りにならない子たちが現れ始めた。
そういう子は大抵、気の強い女子である。
拒否する子たちは麗奈がどんなにお願いしても「ダメなものはダメ」と訊く耳を持ってくれなくて、あの『嫌悪』の目を向けてくる。
皆同じように意地悪で不細工な顔をしていて、絶対のこの世界に必要ない人間のくせにどうして麗奈の望みを拒否するのか。
ある時、クラスの璃子ちゃんが有名なテーマパークに行ったと自慢して、奇麗なキーホルダーを見せびらかしてきたことがあった。
青い宝石がはめ込まれていてキラキラしたそれは大人が持つアクセサリーのようで、一目見てすぐ麗奈もそれが欲しくなった。
「ねえ、それ奇麗ね。私もそういうの欲しいな」
遠回しにそれをちょうだいと伝えてみたが、璃子ちゃんは得意げな顔をして自慢するだけでくれようとはしなかった。
鼻の穴を広げて自慢する醜い顔をしているのに、あの奇麗なキーホルダーは麗奈が持つほうが似合う。あの子が持っているのは不自然でおかしい。
――――だからクラスの男の子に頼んでそれを持ってきてもらった。
もちろん『盗んできて』なんて頼んだわけではない。そんな下品な言葉は麗奈に似合わないから口にしない。ただ、あれがほしいなあとその男の子の前で言っただけだ。
彼はその後どうやって手に入れたのか、そのキーホルダーをプレゼントしてくれたのだ。
このキーホルダーを彼がどうやって手に入れたのかなんて麗奈が考える問題ではない。にっこり微笑んで、『ありがとう、嬉しい』と言えばいいだけ。
その後、璃子ちゃんはキーホルダーが無くなったと大騒ぎしていたから、やはり彼女から盗ってきた物だったのかと想像がついたが、それもまた麗奈には関係のないこと。
璃子ちゃんは、高価なものを学校に持ってきたらダメなんだよと周囲から叱られ、すぐ静かになっていた。
こうして麗奈は欲しかったキーホルダーを手に入れた。
陽の光に透かすとキラキラと輝いてとても奇麗。しばらくそれを眺めて楽しんだが、数日も経たずにすぐ飽きてしまった。
あんなに欲しかったのに、いざ手に入ると急に興味が薄れてどうしてこんなものが欲しかったのか分からないくらいどうでもよくなってしまった。
結局、そのキーホルダーはおもちゃ箱の奥に押し込んだままそのうち存在を忘れてしまった。
人のものだったから魅力的に見えたのかもしれない。
他人が持っていると欲しくなるのに、自分の物になるととたんにどうでもよくなってしまう。
どうやら麗奈は非常に飽きっぽい性格らしい。そして欲しいものを我慢できないのも、麗奈の性質なのだ。
可愛い髪留め、匂い付きの消しゴム、キャラクターの定規など誰かが持っていると羨ましくて、なんとかして持ち主から奪うというのを繰り返した。
けれどどれもすぐにどうでもよくなって、そのうちどこかへしまい込んで忘れてしまう。いや、帰り道で突然要らなくなって捨ててしまったこともある。
すみれ色の鍵盤ハーモニカを持っている子が羨ましくて、男の子に頼んで持ってきてもらったが、それを持って帰る途中で『どうしてこんな重たいものを持って帰らなきゃいけないんだろう?』とイライラして、帰り道にある排水溝に捨ててきてしまった。
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