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Side:麗奈3
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どれもこれも、すぐに要らなくなるのは分かっていたが、欲しいものは誰かがどうにかして手に入れてくれるから、無意味に我慢する必要がなかった。
だがどうしても手に入らないものが一つだけあった。
それは女の子の友達である。麗奈にはそれが一人もいなかった。
小学生になると、体育や行事で女子と組まなくてはいけない場合も増えてきた。男の子の友達はそういう時に役に立たない。仲良しの女の子がいればいろんなことを一緒にできて楽しいのに、女子たちは麗奈を避けて友達になろうとしなかった。
クラスでいつも一緒にいる女子たちがお揃い文房具を持っていたり、双子コーデなんて言って服を揃えたりしている。
楽しそう。麗奈も同じようにお揃いのものを持ってコーデしたい。
だからわざわざ自分から声をかけてみたのに、誰も応じてはくれなかった。
男子が麗奈を贔屓するから女子たちが快く思わないのだろう。女の子の友達は欲しかったが、嫉妬深くてネチネチした女子は嫌いだった。
可愛くて優しくて、麗奈の言うことをなんでも聞いてくれて味方になってくれるような女の子の友達が欲しい。
でもこれだけはいくら願っても誰も叶えてはくれない。
手に入らないと余計に欲しくなる。
麗奈のほうから歩み寄ってクラスの子に話しかけてみても、女子はもうグループができていて皆で話を合わせているから麗奈を無視してくる。ちやほやされるのが当然で生きてきた麗奈にとって、無視されるなんて屈辱的だった。
そんななか、唯一まともに話をしてくれる女の子が一人だけいた。
色素の薄い茶色の髪が印象的な、百田理沙ちゃん。
あんまり女の子同士でつるむタイプではなく、誰とでも仲が良い。麗奈が話しかけても無視しないいい子だった。
理沙は他の子たちから麗奈の悪口をきいていたようだが、一緒の係になっても特に無視や意地悪してこないから、麗奈はすぐに理沙を好きになった。
同年代の子よりも落ち着いていて、麗奈の話を静かに聞いてくれる。可愛い自分と並ぶのにふさわしい見た目をしている。そしてなにより、麗奈のことを『可愛い』と褒めてくれた。それを言われた日から、理沙のことは『好き』から『大好き』に変わったのだった。
「理沙ちゃん優しいから好き。麗奈、理沙ちゃんともっと仲良くなりたいな」
「ん? そうなのありがと」
「麗奈、あんまりお友達がいないから、理沙ちゃん私と友達になってくれる?」
「友達? うんいいよー」
あっさりと友達になると了承を得られて、欲しかったものが手に入った喜びで気持ちが高揚する。
理沙は色素の薄い髪と目が珍しく、クラスでも目立つ女子で、勉強もできたから男女問わず人気がある。可愛い麗奈の友達にぴったりな相手だと感じた。
(私の、おともだち)
これからは移動教室もトイレも理沙と一緒に行ける。二人でお揃いのものを買ったり、双子コーデをしたり、放課後一緒に遊ぶのだ。今までやりたくてもできなかったことを全部やれると想像するだけで心が躍った。
これまで女子とはそりが合わず、いつも麗奈のことを慕う男子とばかり一緒にいたが、こうして理沙と友達になってみると、本当はもっと女の子たちと仲良くしたかったんだと気がついた。
いつもべったり一緒にいて二人だけの世界を作っている子たちがいるが、自分も理沙とそういうお友達になりたい。
麗奈と理沙はニコイチだよねと言われるような関係がいい。一緒に手をつないで下校して、放課後は毎日どちらかの家で遊ぶのだ。
初めての女の子の友達に麗奈は浮かれていた。
やりたいことは山ほどあって、毎日が楽しみでしょうがなかったのにその期待はすぐ裏切られることになる。
「理沙ちゃん、一緒にトイレ行こ」
「トイレ? 私は今、いきたくないからいいや」
「え……でも」
まさか断られると思っていなかった麗奈は、驚いて言葉に詰まる。その隙に理沙は他の子に呼ばれさっさとその場からいなくなってしまう。取り残された麗奈は呆然してその場で固まっていると、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
振り返ると、クラスの女子三人が麗奈を見て笑っていた。
理沙にすげなくされた麗奈を馬鹿にして笑っているように感じた。カアッと顔が赤くなったのを見られないようにトイレへ逃げる。
友達になると約束したのに、理沙は全然その役目を果たしてくれない。
トイレの件だけじゃない。これまで二人で遊ぼうと誘っても、麗奈が他の女子と上手くいっていないのに勝手に他の子も誘うし、一緒の班になろうと頼んでも、もう他の子と約束してしまったと断ってくる。
全然麗奈を優先してくれない。これじゃ友達になった意味がない。だから遊ぶ時は二人きりがいいと理沙に頼むと、なんで? と言うだけで了承してはくれなかった。
それでも理沙と二人でいる時は楽しいし満たされた気持ちになるから、不満はあれども我慢を続けていた。
大好きなお友達だから嫌なことも我慢した。
麗奈がこれほどまで他人に譲歩したのは理沙が初めてだった。
必要な存在だから嫌なことも我慢して大事にしたのに、その努力が全部無駄だったと思い知らされる事件が起きる。
理沙はグループを作ったりしなかったけど、友達が多かった。
勉強ができて、運動も得意な子は男女問わず人気があったけれど、それに加え理沙は面倒見が良く、麗奈のように彼女を独占したがる子もいた。
ソイツが麗奈は気に食わなかった。
ワガママで偉そうで、声が大きくてうるさいその子は麗奈の一番嫌いなタイプなのに、理沙はなぜかその子と仲良くしているので腹が立ってしょうがない。
あちらも麗奈を嫌っていて、理沙のそばにいるとあからさまに嫌な顔をする。こんな嫌な子が理沙に付きまとっているのがどうしても許せなかった。
だがどうしても手に入らないものが一つだけあった。
それは女の子の友達である。麗奈にはそれが一人もいなかった。
小学生になると、体育や行事で女子と組まなくてはいけない場合も増えてきた。男の子の友達はそういう時に役に立たない。仲良しの女の子がいればいろんなことを一緒にできて楽しいのに、女子たちは麗奈を避けて友達になろうとしなかった。
クラスでいつも一緒にいる女子たちがお揃い文房具を持っていたり、双子コーデなんて言って服を揃えたりしている。
楽しそう。麗奈も同じようにお揃いのものを持ってコーデしたい。
だからわざわざ自分から声をかけてみたのに、誰も応じてはくれなかった。
男子が麗奈を贔屓するから女子たちが快く思わないのだろう。女の子の友達は欲しかったが、嫉妬深くてネチネチした女子は嫌いだった。
可愛くて優しくて、麗奈の言うことをなんでも聞いてくれて味方になってくれるような女の子の友達が欲しい。
でもこれだけはいくら願っても誰も叶えてはくれない。
手に入らないと余計に欲しくなる。
麗奈のほうから歩み寄ってクラスの子に話しかけてみても、女子はもうグループができていて皆で話を合わせているから麗奈を無視してくる。ちやほやされるのが当然で生きてきた麗奈にとって、無視されるなんて屈辱的だった。
そんななか、唯一まともに話をしてくれる女の子が一人だけいた。
色素の薄い茶色の髪が印象的な、百田理沙ちゃん。
あんまり女の子同士でつるむタイプではなく、誰とでも仲が良い。麗奈が話しかけても無視しないいい子だった。
理沙は他の子たちから麗奈の悪口をきいていたようだが、一緒の係になっても特に無視や意地悪してこないから、麗奈はすぐに理沙を好きになった。
同年代の子よりも落ち着いていて、麗奈の話を静かに聞いてくれる。可愛い自分と並ぶのにふさわしい見た目をしている。そしてなにより、麗奈のことを『可愛い』と褒めてくれた。それを言われた日から、理沙のことは『好き』から『大好き』に変わったのだった。
「理沙ちゃん優しいから好き。麗奈、理沙ちゃんともっと仲良くなりたいな」
「ん? そうなのありがと」
「麗奈、あんまりお友達がいないから、理沙ちゃん私と友達になってくれる?」
「友達? うんいいよー」
あっさりと友達になると了承を得られて、欲しかったものが手に入った喜びで気持ちが高揚する。
理沙は色素の薄い髪と目が珍しく、クラスでも目立つ女子で、勉強もできたから男女問わず人気がある。可愛い麗奈の友達にぴったりな相手だと感じた。
(私の、おともだち)
これからは移動教室もトイレも理沙と一緒に行ける。二人でお揃いのものを買ったり、双子コーデをしたり、放課後一緒に遊ぶのだ。今までやりたくてもできなかったことを全部やれると想像するだけで心が躍った。
これまで女子とはそりが合わず、いつも麗奈のことを慕う男子とばかり一緒にいたが、こうして理沙と友達になってみると、本当はもっと女の子たちと仲良くしたかったんだと気がついた。
いつもべったり一緒にいて二人だけの世界を作っている子たちがいるが、自分も理沙とそういうお友達になりたい。
麗奈と理沙はニコイチだよねと言われるような関係がいい。一緒に手をつないで下校して、放課後は毎日どちらかの家で遊ぶのだ。
初めての女の子の友達に麗奈は浮かれていた。
やりたいことは山ほどあって、毎日が楽しみでしょうがなかったのにその期待はすぐ裏切られることになる。
「理沙ちゃん、一緒にトイレ行こ」
「トイレ? 私は今、いきたくないからいいや」
「え……でも」
まさか断られると思っていなかった麗奈は、驚いて言葉に詰まる。その隙に理沙は他の子に呼ばれさっさとその場からいなくなってしまう。取り残された麗奈は呆然してその場で固まっていると、クスクスと笑う声が聞こえてくる。
振り返ると、クラスの女子三人が麗奈を見て笑っていた。
理沙にすげなくされた麗奈を馬鹿にして笑っているように感じた。カアッと顔が赤くなったのを見られないようにトイレへ逃げる。
友達になると約束したのに、理沙は全然その役目を果たしてくれない。
トイレの件だけじゃない。これまで二人で遊ぼうと誘っても、麗奈が他の女子と上手くいっていないのに勝手に他の子も誘うし、一緒の班になろうと頼んでも、もう他の子と約束してしまったと断ってくる。
全然麗奈を優先してくれない。これじゃ友達になった意味がない。だから遊ぶ時は二人きりがいいと理沙に頼むと、なんで? と言うだけで了承してはくれなかった。
それでも理沙と二人でいる時は楽しいし満たされた気持ちになるから、不満はあれども我慢を続けていた。
大好きなお友達だから嫌なことも我慢した。
麗奈がこれほどまで他人に譲歩したのは理沙が初めてだった。
必要な存在だから嫌なことも我慢して大事にしたのに、その努力が全部無駄だったと思い知らされる事件が起きる。
理沙はグループを作ったりしなかったけど、友達が多かった。
勉強ができて、運動も得意な子は男女問わず人気があったけれど、それに加え理沙は面倒見が良く、麗奈のように彼女を独占したがる子もいた。
ソイツが麗奈は気に食わなかった。
ワガママで偉そうで、声が大きくてうるさいその子は麗奈の一番嫌いなタイプなのに、理沙はなぜかその子と仲良くしているので腹が立ってしょうがない。
あちらも麗奈を嫌っていて、理沙のそばにいるとあからさまに嫌な顔をする。こんな嫌な子が理沙に付きまとっているのがどうしても許せなかった。
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