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絶対に分かり合えない
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長い独り語りを終え、満足そうに微笑む麗奈を信じられないような気持ちで見つめる。
長年に渡る、しつこい付きまといと嫌がらせ。
ついには犯罪行為にまで及んだ、理沙への執着。
その始まりのきっかけが、たった一言『好きじゃない』と告げたからだったと誰が予想できるだろうか。
「……そ、それだけ? たったそれだけのことで、十年以上私に嫌がらせをしていたの?」
「それだけって言っちゃうんだぁ。理沙ちゃんは私に嫌がらせをされているってずっと思ってたの? 自分が被害者のつもりなんだね。笑っちゃう」
心底軽蔑するように目をすがめる麗奈。
被害者のつもりも何も、麗奈が言うのは身勝手な思い込みと我儘にすぎないのだから、加害者意識を持てと言われても無理な話だ。
当時そんなやりとりがあったかと言われればそんな気がするが、子ども同士ではよくある程度の揉め事だから大して記憶にも残っていない。
子どもにとっては友達が自分の味方をしなかったというのはショックな出来事かもしれない。だが大人になった今でも復讐しようと粘着するほどのことではないだろう。
本当に『それだけのこと』としか言いようがない。
「だって……小学生の時のことだよ? 私が麗奈を優先しなかったのが気に食わなかったのかもしれないけど、大人になった今でも恨むほどのことだった? 今でもその時のことで怒り続けているの? 信じられない……」
「やだなあ、小学校の出来事は単なるきっかけだよ。人を執念深い女みたいに言わないでよぉ」
「でも実際、今までずっと私に粘着してるじゃない。離れようとしてもしつこく探して追いかけてきて、私に彼氏ができると必ず奪いに来てさ……幸生で三度目だよ? これで執念深くないならなんだっていうの? どんだけ恨んでるのよ」
「えー別に恨んでるとかじゃないよぉ。ただ理沙ちゃんが麗奈より魅力がなかっただけでしょぉ? みーんな麗奈のこと好きになっちゃんだもん、仕方ないじゃん。彼氏に捨てられたからって私に逆恨みしないでよー」
クスクスと蔑むように笑われ、カッと頭に血が上る。状況的に激高すべきではないと分かっていても、これまでされたことの怒りがこみあげて我慢ができなかった。
「何が逆恨みよ! 彼氏を奪うのは私を馬鹿にしたいだけで、付き合うつもりもなかったんでしょ! もうそのつくりキャラ鬱陶しい! ここには私しかいないんだから、いい加減本音で喋ったらどう⁉」
わざとらしい喋り方が気持ち悪いんだと大声で罵ると、麗奈の表情が変わった。それまでは口角を上げ常に微笑んでいるような顔をしていたのに、一瞬真顔になる。そしてにやーっと歯をむき出しにして笑い出した。
「ふっ、うふふ。そうだね。だってさあ、面白いのは理沙ちゃんから奪うまでなんだもん。別れた後も彼氏にすがってくれたらまだ楽しめたのに、理沙ちゃんって全然興味なくすじゃん。だから私もつまんなくなっちゃうの」
「……な、にそれ。つまんないとか、ゲーム感覚で彼氏を奪ってたの? 信じられない……」
予想していたことだが、実際麗奈の口から本音を聞くとその異常な考えに寒気がしてくる。理沙の彼氏が良く見えるとかでもなく、ただ『奪う』という行為が楽しかっただけなのだ。改めて麗奈の異常さが際立つ。
「奪うまでが楽しいんだから、理沙ちゃんの元カレになった男なんて出し殻みたいなものだし。なんのうま味もないのに付き合い続ける意味ないでしょ」
「私が、悲しんだり怒ったりするのが、ただ面白かった……ってこと? 意味わかんない。異常だよ、そんなの」
「彼氏が私に夢中になっている姿を見て、理沙ちゃんが動揺しまくるのがホント面白くてさあ。いつももっと長く楽しませてほしいのに、理沙ちゃんってばすーぐ彼氏に見切りつけちゃうんだもん。だからさ、奪ったら楽しみが終わっちゃうの。理沙ちゃんが要らなくなった彼なんか、私だって要らないもん」
「要らない……」
人間関係を壊され何度も彼氏を奪われて、どうしてこんなことをするのかずっと疑問だった。理沙のことが嫌いだとしても、自分の手間と時間をかけてまで嫌がらせをするなんて、その情熱はどこから来るのかと不思議に思っていたが、この言葉を聞いてようやく合点がいった。
麗奈にとって彼氏を奪う行為は、ゲーム感覚だったのだ。
もちろん、その根底には理沙を傷つけたいという悪意があるのだろうが、あのしつこさは純粋に楽しんでいたからに他ならない。
これは絶対に分かり合えない相手だ。
ずっと麗奈のことが嫌いだったが、それでも腹を割って話せば理解できる部分があるんじゃないかと思っていた。
だがこれはもう理解の範疇を超えている。
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