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初めての反抗
しおりを挟む「地獄より、ひどい……? え、私地獄以下の生活をしていたの?」
「地獄出身のヤツが言ってんだからそうなんだろ」
「そうね、人間の監獄だってもっとマシだと思うわよ」
「僕、奴隷商人の家に住んでたことあるけど、奴隷だって三食休憩アリのもっとまともな生活してたよ」
ケット・シーに奴隷のほうが人権ある生活しているとまで言われ、アメリアはもう立ち直れそうにないくらい落ち込んで地面に崩れ落ちる。奴隷というのは罪を犯して人権を剥奪された者のことのはずだが、それ以下の生活だったのかと落ち込みが半端ない。
「地獄以下……奴隷以下……」
「あらやだ落ち込まないでアメリア。今は地獄奴隷生活から解放されているんだからいいじゃない。今は三食食べられるし、睡眠もしっかりとれているでしょ? よかったわあ」
「そうそう。それに今じゃ魔物に傅かれて優雅なスローライフ送ってンだから勝ち組じゃん」
「僕らがいるおかげで、いい暮らしができるようになったしね! アメリアが一人暮らしのままだったら、多分もう食あたりとかで死んでたよー。だからもうちょっと感謝してくれてもいいんじゃない?」
魔物たちが軽口のつもりなのか、俺たちのおかげでアメリアは良い生活ができているんだぞと口々に言い出したので、思わずムッとしてしまう。
(魔物に傅かれて、優雅なスローライフ? いい暮らし?)
魔物たちがくつろぐ大きなソファも、確かに彼らがいつの間にか設置してくれたものだ。ソファだけではない。アメリアが一人で暮らしていた時は、ソファどころかテーブルも椅子もなかった。適当な木箱を重ねて代用していたから、確かにみすぼらしい見た目だったかもしれない。けれど、アメリア自身はそれで不便を感じていなかったのだ。
こんな風に、ふかふかのソファもクッションも、大きなテーブルも机も毛足の長いラグも無くても生きていける。
お皿やコップだって、欠けていても構わなかった。
それなのに、知らないうちに色々なものがアメリアの家に増えていった。
居候が増えればそれに合わせて食器やカトラリーや寝具が追加され、からっぽだった家はいつの間にか物がいっぱいになっていた。
魔物たちが来たことで、確かに生活が便利で快適になったと言える。
でも勝手に押しかけてきて、生活環境を勝手に変えられてしまったのだから、それに対し感謝しろと言われても素直にハイとは言えなかった。
兄が訪ねてきたせいで、いつもより心がささくれ立っていたアメリアは、変わってしまった部屋と我が物顔で寛ぐ魔物たちを見ているうちに、つい八つ当たりのような言葉が口をついて出る。
「……感謝しろったって、私がお願いしたことなんて一度もないよね? 私は別に……三食しっかり食べたいとか思ってないし、い、いい暮らしがしたいしたいなんて言ったことない」
いつもと違うアメリアの非難がましい言葉に、寛いでいた魔物たちが驚いて一斉に彼女を振り返った。
「ちょっと、アメリアどうしたの? 嫌いなお兄さんが来たからイライラしているの?」
とりなすようにピクシーが声をかけたが、不満がくすぶっていたアメリアの口は止まらなかった。
「イライラじゃない。ずっと思ってた。わた、私は一人で静かに暮らしたいだけ。か、勝手に住み着いたくせに、感謝しろとか言われたくないっ」
初めてはっきりと皆を拒絶する姿勢を示したことで、魔物たちの顔色が一気に悪くなる。
誰も言葉を発せず、沈黙が続くうちにアメリアは頭が冷えてきて、猛烈に後悔が襲ってくる。
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