初恋の泥沼

エイ

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この結婚の意味

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 驚くことに、夫は新婚だというのに菜緒の排卵日と思われる日にしかセックスをしない。
 
 男性経験のない菜緒でもさすがにこれはおかしいんじゃないかと思い、夫にそれとなく聞いてみたこともあった。

「ねえ、月に一度しかしないのってどうして? 排卵日だけじゃなくて、その前後もしたほうが……その、確率があがるって婦人科で」

 最後まで言い終わらないうちに、夫は菜緒に黙れと怒鳴りつけてきた。

「回数がどうとか女が口にすることじゃないだろう、みっともない。誰にそんなこときいてきたんだ。二度とそんなこと口にするな」
「ご、ごめんなさい」
 
 はしたないみっともない、恥ずかしいと何度も言われ、謝るしかできない。
 夫はとにかく菜緒のことを無知で常識知らずであるかのように言ってくる。
 実際社会経験がないまま家庭に入ってしまったため、会社で役職に就いている夫から常識がないと言われれば反論のしようがない。
 
 黙って夫の指示に従い、毎月の排卵日にだけ義務的なセックスをした。
 その時の行為は非常に痛みを伴い、菜緒はいつも歯を食いしばって終わるのを待つという状態で、世の中で言われている「気持ちが良い行為」だとはとても思えない。
 本当はそれについても夫に相談したかった。
 けれど絶対そんな質問をされたら激高するに決まっている。第一、行為の最中痛みをこらえていても夫は一度も菜緒を気にかけてくれたことはないのだから、訊くだけ無駄だろう。
 夫にとってセックスは、子どもを作るためだけの行為でしかないようだった。



 だがそれから二年が経過しても、菜緒は妊娠しなかった。
 毎月、生理がきたと申告するたび、夫のため息が深くなっていく。

「はあ、またできなかったのか。これじゃなんのためにお前と結婚したのか分からないな」

 結婚三年目に入った先月、ついに夫は本音を漏らした。
 菜緒は誕生日がきて二十三歳になったけれど、夫は誕生日を祝う言葉ではなくそんな愚痴を投げつけてきた。

 元からお見合いなのだから情熱的な愛なんて求めていなかったけれど、それでも夫婦とはただ子を産むだけの関係ではないはずだ。それに一方的に菜緒が悪いような割れ方をするのには納得がいかない。

「そんな言い方しなくても……。子どもがいなくたって幸せに暮らしている夫婦はたくさんいるし、私たちだって……」
「そういうのは恋愛結婚の夫婦だろう。俺たちは跡継ぎが必要だから、条件で相手を選ぶ見合い結婚をしたんじゃないか。お前だってうちの母親から孫を早く見せろと言われているのに、何を馬鹿なことを言っているんだ」

 菜緒の言葉に対し、心底呆れたような口ぶりで返されてしまいそれ以上何も言えなくなってしまった・

 ここまではっきり言われれば、嫌でも思い知る。 
 夫はただ跡継ぎが必要だっただけで、元からこの結婚は不本意だったのだ。
 おそらく、義両親の強い希望だったのだろう。ずっと独身を貫いていた夫に義両親が後継ぎを作るよう迫り、それに夫が折れて、菜緒と結婚するに至った。
 だからあのブライダルチェックなのだ。必要なのは子供が産める嫁で、それは菜緒でなくてもよかった。
 菜緒はただ、あちらの条件に合っていたというだけで、逆に言えば子どもが産まれないなら菜緒と結婚している意味がない。愛でつながった二人じゃないのだから、目的が果たせないなら夫婦を終わらせる。
 夫の言わんとすることは、そういうことだ。

 昔、大恋愛して別れてしまった相手。
 もしあのパティシエの女性がその相手だったら、夫は気持ちがそちらに傾いてしまうのではないだろうか。
 いつまで経っても子どもができないのなら、義務で結婚した菜緒よりも、昔愛した人と一緒になると言い出すのではないか。

 そんな考えにとりつかれ、菜緒はあの女性のことが気になって仕方がなく、やがて個人情報をネットで探るようになっていた。

「佐藤、ほのかさん……」

 お店のSNSから辿って、すぐに彼女個人のアカウントは特定できた。
 
 あまり頻繁に投稿しているわけではないが、過去にさかのぼって全て内容をチェックして彼女のことを調べると、あの女性はバツイチのシングルマザーで、元夫のDVが理由で離婚して故郷であるこの地に戻ってきたのだと分かった。
 
 パティシエとして優秀な人らしく、あの新規オープンの店にスカウトされて地元に戻ってきた。
 最近の投稿からは、新しい職場と子どもとの新生活に毎日奮闘している内容が画像付きでアップされていて、彼女の日常がそのSNSを見ただけで大体把握できてしまった。

 元々この地域が地元だったということもあって、そのSNSに昔の友達との再会を喜ぶ写真も色々あがっていた。

 その投稿の中に、夫とおぼしき人と食事に行っている写真を見つけてしまった。

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