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ショッピングモール
しおりを挟む空いた時間は何をしよう?
借りた漫画は読み終わってしまった。
菜緒は再び望に電話をかけた。
「もしもし?あのね、もう漫画読み終わっちゃったんだ。それでね、ゲームやってみたいんだけど、ゲーム機とかってどれを買ったらいいかな?」
『昨日の今日で電話してくんなよ……やりたいソフトができるゲーム機買えばいいじゃん。電気屋行って店員に聞けよ』
「うーんそっか。電気屋……うん、電気屋ね」
『お前全然分かってねえみたいな声出すなよ。電気屋行ったことくらいあんだろ?……ないのか?』
「うん、まあ無いけど大丈夫。ありがと、スマホで調べて行ってみる」
『……いい。一緒に行ってやるから、お前んちの最寄り駅で待ってろ』
実家にいた頃も家電や電子機器を買うのは父の役目だった。
結婚する時もそういうものを揃えたのは夫で、電気屋に行く機会はこの歳になるまで一度もなかった。
そういうものかと思ってきたが、望の反応を見ると大分おかしいことらしい。
一緒に行ってやると言われたが、本当に来てくれるのか半信半疑のまま駅で待っていると、菜緒のスマホが鳴る。
南口のロータリーにこいと言われ、急いでそちらへ向かうと大きめのワンボックスカーから望が降りてきた。
伸びた髪をハーフアップにしているから今日は顔がよく見える。ラフなシャツにダボっとしたパンツ姿だが、顔がいいからかそれだけで様になっている。
「おら、乗れ。電気屋行ってやるから。荷物持ちになってやんよ」
「ほんとに来てくれたんだ……」
促されるまま車に乗り込むと、幹線道路沿いにある大きな家電量販店に行くと言って男は車を発進させた。
望の車は街でよく見かける普通の国産車だった。静かで乗り心地が良く、彼のハンドルさばきも穏やかで安心できる。
夫の車はセダン型の外車で、よく分からないボタンが色々あって、なぜかカーナビが英語で喋るし乗っていてなんだか落ち着かなかった。
それに夫は、ハンドルを握るととても短気になるので、急な路線変更をしたりスピードを超過したりするので、菜緒は夫の車に乗るのが内心嫌だった。
ちらりと男の横顔を盗み見る。
少し前までは、絶縁状態だったいとこと、ゲームを買いに行くことになるなんて思いもしなかった。
元々は仲が良かったけれど、色々な事情で疎遠になってしまって、親からも『アレとは二度と会うな』と言われてそれに従っていた。今回、菜緒が自棄を起こして訪ねて行かなければ、今も他人のままだっただろう。
そんな薄情ないとこに対し、望は多少口が悪いながらもこうしてすごく親切にして手助けしてくれる。
夫から罵られた時はこの世の終わりのような気持ちだったが、望に会って話をしただけで随分と考えを切り替えられた。
夫との関係も彼女の問題も何一つ解決していないが、ひとりで悩んでいた頃のような悲壮感はない。
人の気持ちなんて少しのことで変わるんだなと、菜緒は窓の外に目線を投げてぼんやりと思った。
大きなモールに入っている家電量販店に連れて行かれた。
そこのゲーム売り場で、ゲーム機とソフトの多さに菜緒は目を白黒させていた。
そもそもゲーム機を買ったことがないため、どれを選んだらよいか全く見当もつかない。
おろおろしていたら、結局望がこれでいいだろと適当に選んで、ソフト数本を一緒にカートへ放り込んだ。
会計時に合計金額を見て驚いたが、自分名義になっている貯金があるのだからと思い切って現金一括で支払った。
「買い物付き合ってくれてありがとう。じゃ、えっと……もう大丈夫」
「手いっぱいに荷物抱えて何言ってんだよ。家まで送ってやるから車に積んどけ。あとほかにも買い物あんならついでに買っていけよ」
「え、他に? えっと、えっと……」
何か買いたいものと言われて、望の来ている服をちらと見る。
今日出かける際にクローゼットを見たらワンピースやスカートばかりでズボンを一本も持っていないことに気づいた。
もう夫の目を気にする必要もないのだから、化粧も必要ないしもっと楽な服を着たいと思いながら着替えてきたのを思い出す。
「私もそういう服がほしいな」
「ん? 俺が着てるヤツ? こんなTシャツなんてどこでも安く買えるだろ」
そう言ってモールの中にあるファストファッションのショップを指し示される。
そのままショップに入り、ズボンやシャツを適当に見繕い鏡の前で合わせてみると、今着ているワンピースと系統が違いすぎて笑ってしまった。華奢なパンプスとの組み合わせも全く合っていない。
「無地のシャツなんてどれ買っても一緒だろ。上下三着ずつくらい適当に買ってけよ」
「ま、待ってよ。現金もうそんなに残ってないし」
「値札見ろよ。全然足りるだろ」
「え、ホントだ……! え、こんなに安いの?」
「セレブ妻の嫌味かよ。最低だな」
「違うってば! このお店初めて入ったから……」
今クローゼットに入っている服のほとんどが義母と一緒に行ったショップで揃えたものだから高い服ばかりだが、自分で選んだものはひとつもない。義務的に着ていた服たちは、どれを思い出してももう一度着たいとは思えなかった。
今手に取っている服は、なんてことない普通の安いシャツとズボンだけれどこれを着た自分を想像してワクワクした。
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