初恋の泥沼

エイ

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郊外のレストラン

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 はあ、と思わずため息が漏れると、隣からくつくつと笑う声が聞こえてくる。
 そういえばまだ望の車の中だったと我に返って隣を振り返ると、一生懸命笑いをかみ殺している姿が目に入る。

「……何がそんなにおかしいのよ」

 ちょっと八つ当たり気味に問いかけると、望はもう遠慮なく声を上げて笑い出す。

「なんか一人で百面相してんなーと思って。旦那と浮気相手がいたのか? 家の最寄り駅で密会とか、よくやるよな」
「そんな汚い関係じゃないって言ってたから、コソコソする必要ないってことなんじゃない? むしろやましいことがないからだとか言いそう」

 堂々としていればいいってものでもないと思うが、菜緒が言ったところで夫は聞きやしないだろう。妻の言葉など、耳を傾ける必要がないと思っているようだから。

「じゃあ旦那もまだ帰らないんだろ。飯でも食いに行こうぜ」
「えっ?」

 菜緒の返事を待たずに望は駐車しかけていた車を大通りに向けてハンドルを切った。驚いたが、今駅前で降りたら夫たちがいるから、買い物もしにくいし嫌だなと思っていたところだったので、正直ホッとする。そして、望の気遣いに感謝する。

 適当に幹線道路沿いのチェーン店にでも入るかと声をかけたが、望は返事をせずどんどん郊外のほうへ車を進めていく。
 とても飲食店があるようには思えないような寂れた道に入っていくので、菜緒は内心ハラハラしていたが、狭い道を曲がったところに、突然英国風の庭と建物が現れた。

「ここ、店主が趣味でやってるから、採算度外視でめちゃくちゃ美味いもん出すんだ」

 望がそんなことを言いながら、さっさと庭園を通って奥にある店の入り口へと歩いていく。慌てて後から追いつつ、庭に目を遣ると、手入れの行き届いた季節の花が目に入った。
 控えめにライトアップされている美しい庭園に一瞬見とれてしまう。
 雰囲気のいいお店だな、と思いながら店のドアをくぐると、年配の男性が出迎えてくれた。
 お客は二組いるだけで、菜緒たちは窓際の庭が見える席に案内してもらう。

「食いもんは適当に頼むけどいいか? 俺は車だから飲めないけど、菜緒は酒飲む? ワインも色々あるけど、自家製の果実酒が俺はお勧め」
「いや、お酒は……」

 菜緒の夫は、女性がお酒を飲むのをよく思わない人だった。だからそれなりのレストランに二人で行っても、いつもお酒を頼むのは夫だけだったので、今も反射的に断りそうになってしまったが、ふと『別に飲んでもいいんじゃないか』と気づいてしまった。

「……やっぱり美味しそうだから、その自家製果実酒っていうの飲んでみたい」
「オウ、飲め飲め」

 キウイの果実酒を選ぶと、店主からキウイも庭で生ったものを漬けたのだと聞かされ、驚きながらワクワクした気持ちで飲み物が届くのを待つ。食事は望がいつも食べるメニューをピックアップして注文していた。

「すごい、雰囲気がいいお店だね。食事も飲み物も美味しそうで楽しみ」
「基本、スペイン料理の店なんだけどさ、店主が好きなものをメニューに加えるから内容がゴチャゴチャしてんだよな。そこがいんだけど」

 美味けりゃなんでもいーんだよ、と笑う望を見て、つられて笑顔になる。
 ああそうだ、外食は楽しくて美味しいものであるべきだ。そんなことすら忘れていた。調理を選ぶ時は、夫が決めることが多く、自分で選ぶ時も夫の顔色を窺っていた。

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