初恋の泥沼

エイ

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隠ぺいされた犯罪

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「そ、そんなの、犯罪じゃない。酷い……本家のおば様が……どうして」

 記憶にある本家のおばはたおやかな美人という印象しかない。礼儀作法に厳しく、子ども嫌いな人だった気がするが、確かに望のことは猫かわいがりしてスキンシップが過剰だったのを思い出す。

「俺の顔が好きだったらしい。わざわざ遠縁の、血のつながりも怪しいようなところの息子を養子にもらったのも、この顔が大層気に入ったからだったと教えられたよ。もしかして俺の実父と何か関係があったのかもしれないが、それは調べていない」

 望は幼い頃から奇麗な顔をしていた。小さい頃はそれこそ女の子のように可愛いと言われていた。小学校高学年になると、男の子特有の精悍さが加わり、親戚の女性たちは皆イケメンねえと会うたびに言っていた。
 だが普通の神経ならば、どんなに整った容姿をしていたとしても、幼い頃から知っている子どもを性的な目で見られないはずだ。しかも関係が始まったのは望が小学五年生の頃。
 本家のおばが一体いつから望を性の対象として見ていたのか分からないが、息子として育てている子どもを犯すなんて正気の沙汰ではない。

「家の誰も……気づいてくれなかったの? だ、誰かに相談したりとかは……」
「弟は時々覗きに来てたけど、知らないふりしてたな。父親はほとんど家にいなかったから、長いこと気づかなかったよ。誰かに相談するって発想は最初からなかったな。母親に写真を撮られて脅されていたってのもあるし、俺が男だからこっちが悪者になる可能性がある以上、人には言えなかったよ」

 愚問だった。犯されて、しかもその相手が母親だなんてことを人に相談できるわけがない。それに望の義母は美人で社会的信頼も篤い人だったから、義母が嘘をついて被害者ぶれば親戚たちは彼女を擁護しただろう。

「でもずっとバレなかったから母親も気が緩んできたんだろうな。ある日、父親が出張の予定が変わったとかで夜中に帰ってきてさ。そこで喘ぎまくる妻のでかい声をきいて俺の部屋に踏み込んできたんだよ。そっからはもう修羅場」
「おば様とおじ様が大喧嘩になったの?」
「違う違う。なんと俺が間男扱いでさ、嫁を誘惑する恐ろしいガキだって罵られて、机にあった鋏でドスッと太ももを刺されたわけよ。そんで元々俺のことを気に入っていなかったのもあって、養子縁組を解消して俺は藤鶴の家から放逐されたってオチ」
「……っ」

 望の養子縁組が解消された理由は、親から聞いた話では実子に跡目を継がせるために優秀な望を家から追い出したのだと聞いていた。
 
 だが真実は想像もつかないほど醜悪で残酷だった。
 実子が生まれてから義父と望の関係が悪くなっていると幼い頃の菜緒も感じていたが、まだ中学生の子を加害者に仕立て上げすべての責任を押し付けるなんて信じられない。

「それで、望くんは元の両親のところへ戻されたんだよね……? なんでその件で本家の両親を訴えなかったの? 刺されたんだから傷害罪でも訴えられたでしょ。だって犯罪だもの」
「いいや、刺されたあと俺は薬物依存者の療養みたいな隔離施設にぶち込まれてさ。あの女、俺を勃たせるためにドラッグを飲ませてたんだ。覚せい剤じゃなかったけど、脱法ドラッグとか言うヤツ。俺はヤク中で錯乱して自分で足を刺したってことにされて、三カ月間施設に監禁された」
「ドラッグ……?」

 当時望は中学二、三年のはずだ。それなのに、父親は望を加害者にしただけでなく、口封じのために薬物中毒者として隔離施設に監禁して事態の収束を図ったのだ。
 加害者であるはずの母親は、性加害だけでなく違法薬物まで使用したにもかかわらず、何の罪にも問われなかった。
 母親が逮捕されなかったのは、恐らくグループ会社の施設を使い、藤鶴当主の立場を利用して事実を隠蔽したのだ。菜緒の父もモラルよりも大抵のことは金で解決すると考える人だったから本家がそういうことをしても不思議ではない。

「退院が許された時にはもう全てが片付いていて、養子縁組は解消されていて家も別に用意されていた。手切れ金なのか知らねえけど、五百万ポンと渡されて終わり。藤鶴の家の者に接触したら、ドラッグの件で俺を告発するって脅し付きでさ。マジでクソだよな」
「……だから、本家を倒産させたんだね。あれは望くんの復讐だったんだ」

 きっと殺してやりたいくらい恨んで憎んでいただろう。されたことを思えばなぶり殺しにしても足りないくらいなのに、財産を失わせる程度で許したのはむしろ優しいと言える。
 まだ高校生だったというのに、望はひとりで義父母への復讐をやり遂げたのだ。

「あー、復讐っていうかさ、金があると犯罪行為でもなかったことにできるんだなって分かったから、とりあえず無一文にしてやろうって思ってそうしただけ。金がなけりゃ悪いこともできないだろ?」

 いわゆる特権階級の人間として生きてきた藤鶴家の当主は、望に罪をかぶせたことも犯罪を隠蔽したことに対しても、家の名誉を守るため当然の行為だとして、全く罪の意識を持ってなかったらしい。
 それを知って望は彼らを破産させるという復讐方法を選んだのだと語る。
 当主の要請を受けて望を入院させた施設も、事実を知った上で望を監禁し犯罪の隠ぺいに加担していたから、黒、またはグレーな事業は本家と共に潰したと言う。

「大抵のことは金で解決できると信じてる奴らだからさ、見下していた労働者階級になって泥臭い仕事をして金の大切さを学んでほしいから、破産させてやったんだ。まあ俺がやったこと以外にも膿がどんどん出て来て勝手に自滅したんだけどな」

 なんと言葉をかけたらいいか分からなかった。
 子どもの頃、ある頃から望の雰囲気が変わったと思ったが、菜緒と接するときは普通だったから大人たちは『男の子はそういうものだ』と言うので特に気にしていなかった。
 あの頃、菜緒は何も気づけなかった。そんな地獄が身近にあったなんて考えもしなかった。

「何も知らなくて、ごめん……」
「俺が言ってねえんだから菜緒が知るわけないだろ」

 謝罪するのは望に対して失礼になるかもと思ったが、謝らずにはいられなかった。そんな菜緒に対して望は、なんてことない様子で謝罪を受け流した。
 
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