きみこえ

帝亜有花

文字の大きさ
17 / 117

ラブストームは突然に

しおりを挟む
    愛華からの突然の申し出に、教室はどよめき、冬真は遠巻きながらも事の成り行きを見守っていた。
    割って入る事も出来たが、明らかに面倒事に巻き込まれそうな予感がしていた。
    取り敢えずは陽太に任せる事にした。

「えーっと、確か隣のクラスの・・・・・・」

    陽太は目の前の女子の名前を思い出そうとした。
    すぐに名前は出て来なかったが目立つタイプなので存在は知っていた。

「きゃあ、あたしの事知っててくれてるの? 超感激! 私、五十嵐 愛華!」

「その、五十嵐さんは隣のクラスなのにどうしてお世話係をしたいの?」

「一組と二組は体育とか選択授業とか合同授業も多いじゃない? 女の子同士にしか出来ない事だってあるしー、ね?」

「なるほど、言われてみればそうだよなぁ・・・・・・」

    陽太はこれから体育で女子と男子に分かれたり、授業によってはほのかと離れてしまう事を考えた。
    陽太は一通り愛華の言っていた事をほのかに説明をした。

「悪くない話だとは思うけど、どうする?」

    選択を迫られ、ほのかはスケッチブックを手に取り答えを書いた。

【よろしくお願いします】

    勿論、ほのかは深く考えてなどいなかった。
    単純に、身の回りを手伝ってくれるという申し出はありがたかったのと、陽太や冬真達の様に仲良くなれればと言うことしか念頭になかった。

「何それ、スケブとかウケるー!」

    愛華がそう言うと、隠し撮りマニアな写真部員が忍者の様に現れた。

「余談ですが月島さんは筆談にスケッチブックを使用するとの情報が入っております」

    それだけ言うと写真部員は音も無く姿を消した。

「へえー、そうなんだ! ま、そういう事でよろしくね」

    愛華はそうほのかに言ったが陽太に視線をやり手を振る事は忘れなかった。
    嵐が去り、教室は静けさを取り戻すとすかさず冬真が陽太の元に近づいた。

「お前はバカか?」

    冬真は陽太の前で仁王立ちし、顔はいつもの涼しい顔を通り越して冷ややかな顔で氷柱つららでも突き刺す様な鋭い視線を陽太に向けていた。

「ええー? 何、いきなり酷くない? って言うか気のせいかな、お前の後ろに吹雪が見えるんだけど!」

「もう一度言おうか? お前はバカか? あんな下心丸見えの奴のホイホイ言いなりになりやがって」

「な、なんだよ、お前反対なんだったらなんでそう言わないんだよ! そもそも、下心って何?」

    そう陽太が言うと冬真は深海よりも深い溜息をついた。

「これだから鈍感な奴は・・・・・・。俺はああいうタイプが苦手なんだ。全部お前の方で対応してくれ」

    呆れ顔でそう言い残すと、冬真は自分の席に戻った。

「冬真の奴、何訳分からない事言ってんのか」

    この時、ほのかは横の位置からで二人の会話がよく見えず分かっていなかった。
    ただ分かったのは、冬真が不機嫌そうにしていると言う事だけだった。



    その日の放課後、ほのか達が帰ろうとしているところに早速愛華は教室にやって来た。

「ね、今から帰るんでしょ? あたしも一緒に帰ってもいいかな?」

「あー、俺は構わないけど」

    陽太がそう答えると冬真は眉間にしわを寄せた。

「やった! 一緒に帰れるなんて嬉しい~」

「悪いが、俺は急用が出来たから先に帰っててくれ」

「ええー、そうなの? それはざーんねーん」

    冬真が一人で教室を出て行こうとするのを見てほのかは寂しげな表情を浮かべた。
    その様子を見た冬真はほのかの頭をぽんぽんと軽く撫で口をパクパクとさせた。

『また明日な』

    それは陽太と愛華には聞こえず、読唇術を使えるほのかにだけ分かるものだった。
    ほのかは冬真の言葉に嬉しくなり、急いでスケッチブックに【また明日】と書いて見せた。

「じゃあな」

    そう言って柔らかく笑い冬真は教室を先に出て行った。

「なんだよ、あいつ先に帰るとか珍しいな」

「ふーん・・・・・・」

    愛華は何か考え事をしながらも廊下から小さくなっていく冬真の背中を見詰めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...