きみこえ

帝亜有花

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Love is ??

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    三日目の午後、ほのか達のクラスは危機的な状況に陥っていた。

「まずいな、トッピング用の餡子が残りわずかだ」

    冬真はストックの餡子の袋を見詰めて言った。

「ほんとだ、どうする? 餡団子は売り切れにしちゃう? 残り数時間だし」

    時計を見ながら陽太はそう言ったが、冬真は首を縦には振らなかった。

「いや駄目だ。あんみつがまだ残っている。あんみつにも餡子は必要だ。この分量ならもって一時間だが、残りの時間、主力商品の二つが提供出来ないのは痛い」

    誰かが調達に行けば済む話だが、店番のメンバーは皆忙しく、とても買いに行ける状態ではなかった。
    陽太は考えた。
    次の時間、陽太は休み時間なのでその時間なら買いに行く事は出来る。
    しかし、その時間はほのかと休み時間の合う最後の時間でもあった。

「うーーーーーん・・・・・・・・・・・・」

    陽太は悩んだ。
    結局この三日間、ほのかとは二人で文化祭を回れていなかった。
    これが最後のチャンス・・・・・・。
    クラスの慌ただしい様子と、自分の時間を削って切り盛りしている冬真と、楽しそうに接客をしているほのかの姿を順番に見詰め、悩みに悩んだ末に、陽太は深い深い溜息を吐いた。

「分かった。俺が休み時間に買ってくる」

「いいのか? お前、月島さんと文化祭回るとか言っていなかったか?」

    冬真は昨日の朝の会話を思い出して言った。

「まあ、仕方ないよ。お前だってあまり休んでないじゃん」

「それはそうだが・・・・・・」

「いいからいいから、あっ、月島さん!」

    給仕から戻ってきたほのかの姿を見て陽太は声を掛けた。

「ごめん、次の休憩一緒に回る予定だったんだけど、買い物に行く事になったんだ。休憩時間、保健室か露木先輩のクラスとかに行く?」

    折角の休み時間、働かせたままなのも可哀想だし、一人にさせておくのも心配だった。
    だが、明らかにほのかに好意があるように見える時雨や先輩達の所に預けるのを想像して、陽太は以前にも感じた心の奥底に靄が広がるような感覚に襲われた。
    焦燥感から自分が上手く笑えているかも自信がなかった。
    しかし、そんな心境を他所にほのかの答えは意外なものだった。

【私も一緒に手伝う】

「え!? いいの?」

    密かに陽太は期待した。
    時雨でもなく、先輩達でもなく、自分と居る事を選んでくれたのかと思うと嬉しさで頬が緩みそうになった。

【伝説のプリンの為にも!】

「あ、だよねー・・・・・・」

    陽太は意図を察し、がっくりと肩を落とした。
    ほのかの中での考えはこうだ。
    主力商品の販売が出来なければ売上が下がる。
    売上が下がれば食品部門の一位が取れない。
    一位になれなければプリンが貰えない、というものだった。

「お前、プリンに負けてるのか」

「春野君、プリンに負けてるのね」

    冬真とたまたまその場に居合わせた里穂は同時にそう言い、哀れみのこもった目で陽太を見た。

「やめろ、そんな目で見るなぁ! どうせ俺はプリン以下だよ!」

    陽太は顔を赤くさせながら悔しげな声を上げ、一方ほのかは皆の会話など頭に入る隙間もない位にプリンの事で頭をいっぱいにさせていた。




    和菓子屋の道を二人はなんとか覚えていた。
    流石に鬼の角や刀、狐のしっぽや耳等は目立つので簡単にそれらだけ外して学校の外へ出た。
    信号待ちをしている間、陽太はほのかに話し掛けた。

「月島さん、本当に買い出し手伝ってもらっちゃって良かったの? 楽しくないだろうし、文化祭を楽しむ時間が減っちゃうし」

    本当は買い物なんてつまらないのではないか、退屈をしているんじゃないかと陽太は心配になった。

【買い出しも文化祭の一つの楽しみ、それに春野君と一緒なら何でも楽しい!】

    ほのかは笑顔でそうスケッチブックを見せた。
    そこにあるのは純粋で素直な気持ちであり、忖度でもなければ陽太に対して気を遣っている様子でもなかった。
    そんなほのかの表情と言葉に陽太はほっとしていた。

「そっか・・・・・・、あ、でも実は和菓子屋さんのお菓子に興味があったりして?」

    そう聞いてみるとほのかはドキリとし、悩ましげな顔で頭を右へ左へと傾けていた。

「あはは、迷ってる」

    その様子がおかしくて陽太は笑いだした。

「でもありがとう。一緒に来てくれて嬉しい。・・・・・・本当の事言うとさ、俺は月島さんと文化祭回りたかったな」

    そう言われてほのかは驚き、陽太の顔から目が離せなくなった。
    陽太の表情は柔らかくて優しい笑みを浮かべているのにどこか切なげだった。

「文化祭も今日で最後だし、この日をずっと楽しみにしてたんだ。だからちょっと悔しいかな。悔しいからさ・・・・・・手、繋いで歩いてもいい?」

    少し照れながら陽太は左手を差し出した。
    嫌だと言われたらどうしようかと不安に思いながら目を瞑っていると、手にそっと温かいものが触れた。
    目を開くと、ほのかは恥ずかしげに俯きながら陽太の手を握っていた。
    陽太の中の不安はあっという間にどこかへ消え去り、代わりに胸の中に幸福感がじんわりと広がった。
    やがて信号は青になり、二人は歩き出した。
    たどたどしかった二人の足取りも、歩を進めるうちに段々と歩調が合うようになった。
    早く学校に戻らないといけないと分かっていたが、陽太はこのままずっと目的地に辿り着かなければいいのにと思った。
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