悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

文字の大きさ
8 / 31

呪具

しおりを挟む
「さて、ヘルゲイムの呪具についてでしたね」
 ルドは依頼人と再度謁見するのが翌日になった。その夕刻にアルフの待つ宿屋に帰ると、アルフに抱擁を求めたが、瞬殺で却下され、首根っこを捕まれ、引き摺られ、強制的にテーブルの席に座らせられ、そして今に至る。
「お前の辞典に記されているヘルゲイムの呪具について知り得る限りのことを洗いざらい吐け」
 アルフはティーカップが弾む程テーブルを掌で叩いた。
「やれやれ、これではまるで取り調べの様ですね」
「様ではない。尋問そのものと捉えても構わん。ふざけているとどうなるか、分かっているだろうな?」
 アルフの目は鋭くルドを見据えていた。
「はぁ、若様にならどんな拷問をされても、私は耐えられる自信がありますよ! 鞭打ちですか? 水責めですか? ふふふっ・・・・・・」
 ルドの顔は上気し、恍惚とした表情をしていた。その様子を見てアルフは逆に顔を凍りつかせ、みるみるうちに青ざめていく。
「くっ、若様はやめろ。お前に脅しをかけたのが間違いだったようだな。兎に角、さっさと呪具について言え」
「はいはい、まず、ヘルゲイムの呪具の特徴ですが、形状は首に着ける物や頭に着ける物が多いですが、アルフ様が見た形状は特注品かと思われます。まあ、首にあろうと、頭にあろうと、目にあろうと、死ぬ時は大して変わりませんがね」
 ルドは他人事の様に笑って言った。
「その死ぬ条件は何だ?」
「まず、核と呪具は二つで一つ。核から呪具がある一定の距離を離れる事によって呪いが発動する。こう、スパッと一気に絞まるようになってるみたいで、首なら一瞬で生首が出来上がるし、頭なら一瞬で脳味噌が・・・・・・」
 ルドは嬉々として身振り手振りで答えた。
「お前の表現は気持ち悪いからもう良い・・・・・・」
 聞いた事を想像してしまったアルフはルドの話に耳を塞ぎたくなった。だが、顔色を変えることなくルドを見据えて言った。
「で、その呪いを解く方法は何だ? あるんだろう?」
「方法はただ二つ。一つは核を破壊する事。もう一つは専用の鍵で解放する事ですね」
 エルリィスの呪具の後ろ側には確かに小さな鍵穴があったのをアルフは思い出した。
「あの位ならちょっと弄れば・・・・・・」
「あ、勿論無理矢理こじ開けようとしたり、呪具自体破壊しようとすると呪いが発動するので、いつもみたいに針金で解錠しようとしないで下さいね。専用の鍵でないとあの娘は死にますよ」
 アルフは特技の鍵開けも通用しないと分かり舌打ちをした。
「鍵はどうせオルディンが持ってるとして、核はどんな物なんだ? どこにある?」
 オルディンは城から離れる事もあるが、エルリィスが城から離れられないという事は核は城のどこかに安置されているとアルフは考えた。狙うなら常に持ち歩いている鍵よりも、核の方が狙い易い。
「核は城のどこかにあるのは確かなんですが、形は呪具の作成者によって異なるようですね。丸い水晶の形だったり、盃だったり、剣だったりと様々です」
「形が決まってないならどう探せと言うんだ!」
 苛立たし気にアルフは拳に力を入れてテーブルを叩いた。
「そうですね、あとは核には呪具と同じ紋章がどこかにあるはずです。それで見分けるしかないですね」
「紋章か・・・・・・」
 アルフはエルリィスの呪具に六芒星の中心に禍々しい目が描かれた紋章を思い出した。
「まさか、城に忍び込んで核を探すおつもりですか? どんな形をしているかも分からないのに?」
「ふん、そうするしかないだろう」
 城に潜入して人に見つからないようにするのはアルフにとってお手の物であったが、実際どんな形状をしているのか分からない物を闇雲に探すのはかなり骨が折れる事なのをアルフは覚悟していた。
「一思いにっちゃえば良いのに」
「俺達はただの情報屋だ。暗殺が仕事じゃない」
「ええっ! 毒殺しようとしてましたよね? それもこの私に、何に混ぜても良いように無味無臭で尚且つ効果がキツめの作成難易度の高い毒薬を作らせてまで。あれには作るのに三日掛かったんですよ? まあ、凡人なら数ヶ月掛かるでしょうがね、ふふっ」
 ルドは自慢気に述べた。ルドは素の頭の良さや器用さもあったが、何より天啓の力で十啓以外のどんな事も脳裏にある辞典で調べる事が出来た。アルフ達はそれを利用して情報屋として路銀を稼ぎ、時に依頼があれば薬の類も作っていた。
「あれは単なる実験だ。オルディンが死ぬかどうかのな。ただ、実験と言えど本気でなければ意味は無い。本当に殺すつもりなら剣を交えた時に殺している」
「でもあの御方に大口叩いちゃったじゃないですか、オルディンを玉座から降ろすーって」
 ルドがそう言うとアルフは不敵な笑みを零した。
「そんなの俺が手を下すまでもないだろう。暗殺しようにも奴には夢見の巫女の力がある。それに、これ以上目立つ事をしてみろ、情報屋稼業を続け難くなるだけだ」
「城で騒動を起こしてる時点で既に目立ってると思いますけどね・・・・・・。でも妬けちゃいますね、そんなにその娘が魅力的なのでしょうか? それとも十啓を集める気にでもなったのですか?」
「馬鹿を言え。俺があいつを助けるのは仕事の為だ。それ以下でもそれ以上でもない。それに、十啓を集める気は更々ない。だから、お前もいつでも俺から離れて良いんだが?」
 深い溜息を吐きアルフはそう言った。アルフがルドの方を見やると、ルドが今にも泣きそうな顔でこちらを見ている事にアルフはギョッとした。
「わ、若様ぁ、お見捨てにならないで下さいぃ!」
 アルフは少し後悔していた。ルドが泣きながら鬱陶しく抱きついて来たからだった。この展開を予想していなかった訳ではなかった。だが、アルフがルドを自分から離れる事を望んでいるのは本当だった。
「若様ぁ、私の事が・・・・・・お嫌いなのですかぁ?」
 ルドはまるで雨の日に濡れ、お腹を空かせた子犬のような濡れた瞳をアルフに向けた。
 ルドを嫌っているからではなかった。多少、鬱陶しく思ってはいるが見所はある奴だとアルフは認めていた。
「そんなんじゃない」
 アルフは養母とも言えるウカの言葉を思い出していた。
『十啓は自然と互いに引き寄せられる。それが十啓の運命さだめ
 ルドには自分の事に執着せずにもっと自由に生きて欲しい。十啓の運命等に捉われずに。アルフは心からそう願っていた。
「はぁ・・・・・・お前の好きにするが良い。今は・・・・・・な」
 そう言われたルドはパッと顔を明るくした。
「ええ、好きにしますとも! どこまでだって付いて行くと、あの時決めましたから。例え地獄の果てまででもね」
 アルフはルドのその瞳に強い意志が宿っているのを見た。ルドを説得するのはきっと何をするのと比べても骨が折れる。そして今はその時ではない。アルフはそっと目を瞑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...