悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

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狙撃

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 麗らかな午後の平原、景色は良く、風が草を凪いで行く。そんな静かで美しい場所がこれから戦場になる事をアルフは悲観していなければ恐れもしていなかった。アルフはオルディンがどう動くのか、自分がどう動くべきか、数手先を予測して楽しんでいた。
 アルフはいつもの黒い外套ではなく、長めの深緑の外套を着て、フードを目深まぶかに被っていた。
 そろそろオルディンや、その護衛達がやって来る時間だが、辺りには潜伏する兵の姿は見えなかった。アルフが上を見ると白い鳥が旋回しながら近づいた。そして、その鳥はアルフの肩に留まった。
「若様、標的がこちらに来るまで後五分弱、オルディンを中心に護衛は四名、騎馬兵を前後左右を囲む様に並走しております」
 その鳥はルドが操る鳥だった。
「若様と言うな。その後方はどうだ?」
「やれやれ、あれこそ兵の無駄遣いですね。兵を乗せた馬車がぞろぞろと・・・・・・、たった一人に対して五千は居ますね」
 ルドはアルフに命じられて城やオルディンの様子を偵察していた。
「ふん、少ない方だな。流石に数時間では全兵力とやらは集められなかったか」
「いやいや、それでも五千人ですよ? 五千人! いくら若様でも・・・・・・まさかあの力を使うつもりですか?」
「若様はやめろ。力は使わない。お前なら分かるだろう? 兵の数が五千だろうと五十万だろうと結果は変わらない」
 アルフは懐に忍ばせた双眼鏡で遠くを見ながらそう言った。
「力を使わないのはいいですけど、貴方という人は本当に酔狂なお方だ」
「なんとでも言うがいい」
「それで、どうするおつもりですか?」
 ルドは鳥を操り辺りを見回した。そして、すぐにある事に気がついた。
「ここは・・・・・・」
「そうだ、北東側だ」
 アルフは地面に小枝で線を引いて説明した。
「まずは俺がでっちあげた予言とは反対の北東から矢を放つ。予言で南西からと言えば取り敢えず待ち伏せするなり、返り討ちにするなり、南西側に奴らは必ずやって来る」
「でもそう簡単にいくのですか?」
「勿論、オルディンが素直に撃たれて死ぬとは思えない。すぐにこの北東側も護衛の精鋭部隊と後方からの兵の大軍に囲まれるはずだ。だが、重要なのは・・・・・・」
  アルフはふと手を止めた。遠くから微かに馬を走らせる足音が聞こえてきたからだ。
「来たか」
 ルドは遠くから事の成り行きを見守る為、鳥をアルフの肩から飛び立たせ、近くの木に留まった。
 そしてアルフはオルディンを狙いやすそうな木に素早く登ると弓矢を取り出した。ゆっくりと弓を引き、狙いを定めた。手練の護衛がしっかりと周りを囲んでいる分狙いにくかったが、絶好の機会は一度きり、オルディン達が小さな岩場を飛び越える時、僅かに陣形が乱れる。アルフはその一瞬を狙い矢を放った。
 矢は真っ直ぐ風を切り、軽装な服を着ていたオルディンの肩に鋭く突き刺さった。
「ぐわぁああっっ」
 オルディンは矢に撃たれた衝撃で落馬し、激しく体を打った痛みに悶え苦しんでいた。
「おい、あそこだ! 奴を討ち取れ!」
 護衛していた者の一人がそう叫んだ。兵達はオルディンを助ける事も無く真っ直ぐにアルフに向かって走り出した。
 アルフは木から飛び降りた。後は速やかに退却するだけだった。だが、あっという間に騎馬兵に間合いを詰められアルフ目がけて槍が突き付けられた。アルフは持ち前の俊敏さで横に飛び退き槍を避けると敵との距離を取り、腰の短刀を二本抜き、両手に構えた。
 横目に見ると騎馬兵に周りを囲まれ、地響きの音から後続の兵達もすぐに来るのが分かった。
「観念するんだな。我らから逃れられるとは思うなよ。この反逆者め!」
 アルフは挑戦的な笑みを浮かべると正面の敵に向かって走り出した。
 敵は槍を連続で突き出すが、アルフは短刀で右へ、左へと交互に受け流した。アルフは横からも槍の攻撃が来るのを察知し上に飛び上がった。騎馬兵の一撃は馬の力と合わさり重く、アルフの足元を狙った槍は地に穴を穿った。アルフは馬を踏み台にし、更に上方に跳躍し、平原の全体を見回した。
「そろそろか・・・・・・」
「串刺しにしてやる!」
 他の兵がアルフが落ちてくるのを見計らい、天に槍を向けた。アルフは空中で身体をひねり、頭を真下に向けると短刀を交差させ鉾先に刃をぶつけた。
「うおおおおっ」
 兵が咆哮を上げたがアルフは至って冷静だった。
 硬質な金属同士が激しくぶつかり合う音がし、兵はアルフが加える真上からの過重な力に耐えられず均衡を崩し、馬から転落した。そして、アルフは交差させた刃をバネに後方に回転し着地した。
「ぐあああっ、クソう! ちょこまかと・・・・・・」
騎馬兵を翻弄していたが、後続の歩兵が平原に到着し、アルフはいよいよ逃げなければと考えた。このままでは平原が兵で埋め尽くされ、退路が絶たれる。操る鳥からアルフを見ていたルドもそう危惧していた。
 平原は歩兵達の足音と咆哮で地は鳴り響き、空気は震えた。
 アルフはあっと言う間に歩兵達に周りを囲まれていた。四方八方から迫り来る剣や槍を両手の短刀で弾き返すのがやっとだった。
「くっ」
 外套を刃が掠め、避けるのも苦しくなってきたと感じたアルフは一人の兵の剣を短刀で弾き飛ばすと素早く短刀をしまい、その剣を拾い上げた。アルフは普段剣や槍に対しても短刀で敵の懐に入り込み攻撃するのを得意としていたが、多勢に無勢、短刀では拉致があかないと感じた。アルフは剣を構えるとやって来る敵兵を一気に薙ぎ払った。剣に力を込め、手前の兵を倒す際、後ろの兵も巻き込み一度に十人前後は倒れていく。しかし、それでも次から次へと兵は現れた。
「無駄だ! この数に勝てる訳がなかろう! そろそろ諦めたらどうだ!」
 騎馬兵の一人がそう言った。アルフは幾度か剣を交えた時の力量から隊を率いる将だろうと察した。
「諦める? 嫌だね」
 アルフにとって諦めると言う言葉は一番嫌いな言葉だった。そして、その言葉がアルフに火をつけた。アルフは剣を真横に構え、僅かに角度を変え、瞬発力をつけて走り出した。迫り来る数多の刃を目にも止まらぬ速さでかわし続け、アルフは将の眼前にまで詰め寄った。
「なっ!?」
 アルフはうっすらと笑った。
 将兵はその笑みに狂気を感じた。攻撃が来ると分かっていたが、アルフに気圧され攻撃を防ぐ事も忘れ、フードの隙間から僅かに見えたその瞳に見入っていた。それは漆黒で、全ての闇を吸い込んだ様な色だった。
 アルフは狙いを定め、飛び上がると将の首の下から一気に剣を振り上げた。
 その刹那、空中に兜が舞った。将は首を持って行かれたと思った。ここで自分の人生が終わるのだと感じたが、それだけの力を持った相手をしていた。それも仕方が無いと思った。
 しかし、アルフがはね飛ばしたのは首ではなく兜のみだった。
「どういう事だ・・・・・・」
 将はまだ首が胴体に付いているのを心から安堵した。しかしながら、そう思ったのも束の間、アルフは馬を蹴倒し、将の体躯は馬と共に倒れた。
 将が倒れた事に場は一度どよめいた。これで事は有利に動くかとルドは思ったがそうもいかない事がすぐに分かった。アルフが一人に構っている間に、周りは更に囲まれ、まさに三百六十度、一人として逃げ出す隙間が無い程だった。全員が全員、アルフに向かって剣や槍を向ける。その絶望的な状況下にアルフは目を見開いた。
 刃が向かって来るその瞬間、アルフは己の外套を大きく翻した。
 そして、外套の上から数多の剣と槍が体を貫く嫌な音がした。地に倒れ、ピクリともしない体にはこれでもかと容赦無く剣が突き立てられていく。その数は十数なのか数十なのか数え切れない程だった。外套の下からは赤々とした血がとめどなく流れていた。
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