悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

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不穏

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「いやあああぁああぁあーーーー」
 エルリィスは悲鳴を上げた。
 死んだ。死んでしまった。暗い、何も見えない、怖い。死んだ。痛い――。
「ああ、あああぁああぁ・・・・・・」
 今自分がどうなってしまったのか良く分からず、錯乱したエルリィスは泣き喚きながら床の上を無茶苦茶に転げ回った。
 そして壁に体を打ち付け、腕や足に痛覚がある事に違和感を覚え、次第に冷静さを取り戻すとようやく自分はまだ生きている事に気が付いた。
 エルリィスは首に手を触れた。まだ胴体にしっかりとついていて、切れ目も無く、血も出ていない。あれは夢だったと言う事に気が付き、ただただ安堵した。
 だが、それも束の間、すぐに自分の身に起こる未来を知ってしまった事で深い絶望感に襲われた。
 荒い息を整え、頬の涙を拭い、外の気配を感じ取ると、まだ日が変わらぬ時間で、警備の数もいつもより多いと分かった。これだけ叫んでも兵が様子を見に来ないのはいつもの事で、夢を見ていると知られているからだった。
 エルリィスは心のどこかで遅かれ早かれ、いずれはこうなる運命だと思っていた。
 オルディンの前でアルフに手を貸したかの様に言ったのは、一か八かではあったがその場ではすぐに殺されないと判断したからだった。オルディンはエルリィスの力を必要としていた。だから何かしらの対策や準備をするだろうと考えた。だが、それは想定よりも大分早かった。
「ああ・・・・・・、私・・・・・・死んじゃうんだなぁ」
 そう呟き、エルリィスは膝を抱えうずくまり、俯き、再び溢れてくる涙はスカートの布に染み込んでいった。



「陛下、ご機嫌麗しゅう・・・・・・」
 オルディンは自室に男を招いていた。男は全身を包み込む程長い外套にフードを目深に被り、顔も良く見えない出で立ちだったが、フードの隙間からは爛々とした不吉な赤い目だけが見えていた。
「ガンダーヴ・ヘルゲイムよ、相変わらず陰気な格好をしておるな」
「ああ陛下、この不敬、どうかお許し下さい。数多あまたの輩に命を狙われておりまする故」
 ガンダーヴは酷くしわがれた声でそう言った。
「まあ良い、儂が言った物は用意出来ているのだろうな?」
「はい、仰せの通りに・・・・・・。それにしても随分と急なお話ですねぇ。使いの者がそれは大勢我が館に来られて、有無を言わさず寝所から引っ張り出されて、身支度もままならぬまま疾風の如く駆けて参りましたが・・・・・・」
 それを聞いてオルディンは目の前の机を拳で叩いた。その力強さは机だけでなく、部屋自体が揺れる程だった。だが、ガンダーヴはその音に怯むことなくオルディンの前に岩の様に立ち尽くしていた。
「そんな御託はどうでも良い! 早く例の物を出せ」
「ホッホッホッホッ、陛下は今も昔も短気であらせられる」
「何ぃ?」
 オルディンは椅子から立ち上がると早足でガンダーヴに近づいた。そして腰から素早く剣を抜き、ガンダーヴの首の根元に切っ先を当てがった。
「おや、この老いぼれを殺しますかな? いけませんなあ、陛下。陛下はいつもそうやって剣で脅せば皆言う事を聞くとお思いですかな? いけませんなぁ、陛下の悪い癖ですぞ」
「貴様ぁ!!」
 おちょくる様な言葉にオルディンは肩を戦慄わななかせた。
「結構ですぞ・・・・・・。私めは老い先短い身。いっその事陛下の剣の錆にでもして頂けるなら、こんな光栄な事は御座いません」
 そう言ってガンダーヴは再び不気味に笑った。オルディンは怒りのまま剣を振り上げた。だが、オルディンが腕を振り下ろした先はガンダーヴの真横で、赤い絨毯を床ごと斬り裂いた。
「その減らず口、いつか二度と聞けぬようにしてくれる」
「ホッホッホッ、いつかとは楽しみですな。私はいつでも良いですぞ? ただ・・・・・・何をするかは分かりませんがねぇ」
「そのいつかが今になる前に、早く言われた物を出したらどうだ」
 オルディンは苛立ちながら剣を鞘に収めた。
「おお、失念しておりました。こちらをどうぞ・・・・・・」
 ガンダーヴが懐から出した物は怪しげな黒い靄が立ち込めた硝子の球体で、その小さな球体の内側には棘のついた鋼が檻状に囲んでいた。
「ほう、これがその呪具か」
「はい・・・・・・、これがあれば天啓の器が壊れた時、天啓が他の器に下る前に封じ込める事が出来るでしょう。おっと、この呪具で私の天啓を掠め取ろう等と努々ゆめゆめ考えませぬよう・・・・・・。私の天啓は私を殺した者を次の器がその者を呪い殺すよう天啓に深く刻み込まれておりまする故・・・・・・ホッホッホッホッ」
  オルディンはガンダーヴから呪具を受け取ると舌打ちをした。
「どこまでも食えぬ奴だ」
「しかし、あの娘の次の器を探すのは骨が折れそうですな。まあ・・・・・・その呪具があれば器に惹かれて居所も分かるやもしれませんな」
 そう言ってガンダーヴは扉の方へゆっくりと向かった。
「どこへ行く気だ?」
「そろそろ床につかせてもらおうかと思いましてな。なあに、巫女の処刑が拝めると言う事ならそれまでは滞在させて頂きますよ。御用命とあらばまたお呼び下され」
 黒い小さな背が扉の奥に消えていくとオルディンは額に青筋を張り、口をひん曲げ歯軋りを立てた。オルディンの中ではガンダーヴだけはいつも思い通りにならず腹を立てていた。しかし、ヘルゲイムの一族に手を出せばすぐに報復される為手を出せずにいた。
「忌々しいヘルゲイムめ・・・・・・いつかその力さえ思い通りにしてやる」
 オルディンは机の上の燭台を前にして呟いた。その炎が瞳に映り、野心という焔が赤々と灯っている様だった。
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