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幻術
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「本当に行くのですか?」
ルドは双眼鏡を片手に藪の中からエルリィスが囚われている塔を見て言った。
「当然だろ」
「えー、でもあれ、軽く五十人以上見張りが居ますよ」
そう言ってルドは塔を指さした。塔の入口は勿論、三百六十度兵がズラリと周りを取り囲み、いつもより厳重な見張りの数になっていた。
「だからどうした? だから今日はお前を呼んだんだろう?」
「あー、ですよねー、そうなりますよねー」
「なんだ? 不満か? だったらお前は・・・・・・」
「いいええ! 滅相もありません! 若様直々の命令とあらば至極光栄ですぅぅぅー」
アルフが凄みのかかった目付きで首元に親指を立て、クビだと言おうとした所をルドは慌てて割り込んだ。内心は嫌な予感しかしないが、何事も無く終わる事を祈るしかなかった。
「ふん、若様はやめろ」
「それで? 戦うのが得意ではない私の手を借りるという事は・・・・・・、いつもの睡眠薬だけでは足りないと言う事ですか?」
ルドは護身術程度に魔法を使う事も可能ではあったが、もし、攻撃系を専門としている天啓の持ち主と出くわしたのなら勝ち目は無いのを十分に理解していた。
「ああ、察しがいいな。お前にやって欲しいのは幻術系の魔法だ。あの塔の周囲に、外からは何も異常がないように見える幻術だ」
「幻術ですか・・・・・・」
ルドは顎を手で触れ考え込んだ。そして頭の中にある辞典を高速で捲った。
「そうですね・・・・・・、そう言った術もありますが、私の属性の相性と魔力量から言ってもって十数分かと・・・・・・」
「ならその三倍はやれ」
「ええ、んな無茶な!」
そうルドが抗議の声を上げるもアルフはルドの方を見向きもせず、ずっと塔を見詰めていた。
「誰がお前一人でやれと?」
「え・・・・・・? まさか!」
「お前の術に俺の力を加える。それで三倍はいけるだろ」
アルフは立ち上がると瞳を閉じた。
「そ、それはそうですけど! でも貴方の力はこんな事で多用して良いものではありません!」
「ほう・・・・・・、ならお前一人で三倍、やると言うんだな?」
アルフは瞳を閉じたまま、凍りつくのではないかと思うほど冷たく静かで、重圧感のある声でルドを脅した。
「ぐぅっ・・・・・・、はあ・・・・・・分かりましたよ。やれやれ、あの娘との逢瀬の為にここまでしなければならないとは」
ルドは深い溜め息をつくとアルフに習って立ち上がった。
「無駄口叩く暇があるならさっさと始めろ」
そう言ってアルフが瞳を開けるとその黒かった瞳は金色の光が宿っていた。ルドは呆れながらも、幾度見ても美しくて、荘厳で、この威圧的な瞳からは誰も逆らう事が出来ないと感じた。
「では始めますよ」
ルドは左手を真っ直ぐ前に伸ばして呪文を唱え始めた。
「我十啓が一人、全知なる辞典が水精王と光精王に懇願す・・・・・・」
呪文を唱えるとその言葉は、ルドの手から古代文字となって光り、魔法陣を描いていった。そして、アルフはルドの手の真横に右手をかざし、少し言葉を変えつつもルドと同じ呪文を追いかけるように唱え、魔法陣の光はアルフの力で上書きされるかの様に輝きが一層強くなった。
「万物を惑わせ、一切を欺け、幻惑の檻!!」
二人の詠唱が終わるとルドは遠く離れた塔のてっぺんを狙って円盤状の魔法陣を投げつけた。魔法陣は塔の上で止まると、塔より一回り大きくなり、下に向かって透明な幕を下ろした。
「これで中からも外からも何も異常が無いように見える筈です」
ルドはそう言いながらアルフに薄紫色の液体が並々と入った小瓶を手渡した。アルフの目は既にいつもの漆黒の瞳に戻っていた。
「ああ、行ってくる。見張りを頼む」
アルフは黒衣を翻し、塔に向かって一気に駆けた。その姿は闇に溶け込んだ影のようだった。城に居る兵達に気付かれぬよう細心の注意を払い、気配を消し、目にも止まらぬ早さで音を立てる事なく木々を伝い、塔のすぐそばまで近づいた。兵との距離は目と鼻の先だったが、幻術のおかげでアルフの姿は兵達には見えていなかった。
そして、アルフは睡眠薬を吸い込まないように息を止め、手早く小瓶を開け、中の睡眠薬を振り撒いた。ルドの用意した睡眠薬は非常に強力で少しでも吸い込めば即座に眠りに落ちる代物だった。
塔の周囲に居る兵が全員眠ったのを確認すると、アルフは塔に侵入した。何度も足を運んだ為、見張りの位置や複雑に配置された階段の場所も全て頭に入っていた。いつもと少し変わっている事と言えば見張りの兵が少し多いくらいだったが、アルフはいつもの様に死角から睡眠薬を撒き、眠らせながら各階を突破し、難なく最上階まで辿り着いた。
最上階の一番奥の牢屋に近づくと、薄暗い牢屋に彼女は居た。膝を抱えて蹲り、寝ているのか起きているのかも分からなかった。
あの大掛かりな魔法はそう何度も通用はしない。アルフはもうここに来るのは最後になるだろうと予感していた。
ルドは双眼鏡を片手に藪の中からエルリィスが囚われている塔を見て言った。
「当然だろ」
「えー、でもあれ、軽く五十人以上見張りが居ますよ」
そう言ってルドは塔を指さした。塔の入口は勿論、三百六十度兵がズラリと周りを取り囲み、いつもより厳重な見張りの数になっていた。
「だからどうした? だから今日はお前を呼んだんだろう?」
「あー、ですよねー、そうなりますよねー」
「なんだ? 不満か? だったらお前は・・・・・・」
「いいええ! 滅相もありません! 若様直々の命令とあらば至極光栄ですぅぅぅー」
アルフが凄みのかかった目付きで首元に親指を立て、クビだと言おうとした所をルドは慌てて割り込んだ。内心は嫌な予感しかしないが、何事も無く終わる事を祈るしかなかった。
「ふん、若様はやめろ」
「それで? 戦うのが得意ではない私の手を借りるという事は・・・・・・、いつもの睡眠薬だけでは足りないと言う事ですか?」
ルドは護身術程度に魔法を使う事も可能ではあったが、もし、攻撃系を専門としている天啓の持ち主と出くわしたのなら勝ち目は無いのを十分に理解していた。
「ああ、察しがいいな。お前にやって欲しいのは幻術系の魔法だ。あの塔の周囲に、外からは何も異常がないように見える幻術だ」
「幻術ですか・・・・・・」
ルドは顎を手で触れ考え込んだ。そして頭の中にある辞典を高速で捲った。
「そうですね・・・・・・、そう言った術もありますが、私の属性の相性と魔力量から言ってもって十数分かと・・・・・・」
「ならその三倍はやれ」
「ええ、んな無茶な!」
そうルドが抗議の声を上げるもアルフはルドの方を見向きもせず、ずっと塔を見詰めていた。
「誰がお前一人でやれと?」
「え・・・・・・? まさか!」
「お前の術に俺の力を加える。それで三倍はいけるだろ」
アルフは立ち上がると瞳を閉じた。
「そ、それはそうですけど! でも貴方の力はこんな事で多用して良いものではありません!」
「ほう・・・・・・、ならお前一人で三倍、やると言うんだな?」
アルフは瞳を閉じたまま、凍りつくのではないかと思うほど冷たく静かで、重圧感のある声でルドを脅した。
「ぐぅっ・・・・・・、はあ・・・・・・分かりましたよ。やれやれ、あの娘との逢瀬の為にここまでしなければならないとは」
ルドは深い溜め息をつくとアルフに習って立ち上がった。
「無駄口叩く暇があるならさっさと始めろ」
そう言ってアルフが瞳を開けるとその黒かった瞳は金色の光が宿っていた。ルドは呆れながらも、幾度見ても美しくて、荘厳で、この威圧的な瞳からは誰も逆らう事が出来ないと感じた。
「では始めますよ」
ルドは左手を真っ直ぐ前に伸ばして呪文を唱え始めた。
「我十啓が一人、全知なる辞典が水精王と光精王に懇願す・・・・・・」
呪文を唱えるとその言葉は、ルドの手から古代文字となって光り、魔法陣を描いていった。そして、アルフはルドの手の真横に右手をかざし、少し言葉を変えつつもルドと同じ呪文を追いかけるように唱え、魔法陣の光はアルフの力で上書きされるかの様に輝きが一層強くなった。
「万物を惑わせ、一切を欺け、幻惑の檻!!」
二人の詠唱が終わるとルドは遠く離れた塔のてっぺんを狙って円盤状の魔法陣を投げつけた。魔法陣は塔の上で止まると、塔より一回り大きくなり、下に向かって透明な幕を下ろした。
「これで中からも外からも何も異常が無いように見える筈です」
ルドはそう言いながらアルフに薄紫色の液体が並々と入った小瓶を手渡した。アルフの目は既にいつもの漆黒の瞳に戻っていた。
「ああ、行ってくる。見張りを頼む」
アルフは黒衣を翻し、塔に向かって一気に駆けた。その姿は闇に溶け込んだ影のようだった。城に居る兵達に気付かれぬよう細心の注意を払い、気配を消し、目にも止まらぬ早さで音を立てる事なく木々を伝い、塔のすぐそばまで近づいた。兵との距離は目と鼻の先だったが、幻術のおかげでアルフの姿は兵達には見えていなかった。
そして、アルフは睡眠薬を吸い込まないように息を止め、手早く小瓶を開け、中の睡眠薬を振り撒いた。ルドの用意した睡眠薬は非常に強力で少しでも吸い込めば即座に眠りに落ちる代物だった。
塔の周囲に居る兵が全員眠ったのを確認すると、アルフは塔に侵入した。何度も足を運んだ為、見張りの位置や複雑に配置された階段の場所も全て頭に入っていた。いつもと少し変わっている事と言えば見張りの兵が少し多いくらいだったが、アルフはいつもの様に死角から睡眠薬を撒き、眠らせながら各階を突破し、難なく最上階まで辿り着いた。
最上階の一番奥の牢屋に近づくと、薄暗い牢屋に彼女は居た。膝を抱えて蹲り、寝ているのか起きているのかも分からなかった。
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