悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

文字の大きさ
17 / 31

決意

しおりを挟む
 アルフは牢屋に静かに近づくと、エルリィスにそっと声を掛けた。
「エルリィス」
 だが、エルリィスの返事は無く、明らかにいつもと様子が違った。アルフはエルリィスが寝ているのか、それとも何かあったのかと考えた。今まで膝を抱えたまま寝ていた事がなかった事から後者だと予想し、エルリィスに聞こえるような大きな溜息をついた。
「何だ? ついに自分が死ぬ夢でも見たか?」
「・・・・・・」
 暫しの沈黙が続いた。本当に寝ているのかとアルフが一瞬思った時、その長い沈黙は破られた。
「・・・・・・そうよ」
 エルリィスは小さく呟いた。
「私、本当にもう死ぬみたい」
 エルリィスは力無く顔だけアルフの方に向けた。その様子は生気など欠片も感じられず、屍だと言われれば納得出来てしまう位だった。
「ねえ、アルフ・・・・・・。お願いがあるの」
「何だ? 全部聞くとは限らないぞ」
「このまま処刑されるくらいなら、あなたの手で私を殺して欲しいの・・・・・・」
 アルフはエルリィスの言葉を聞くと酷く憤慨し、檻を拳で殴った。
「ふざけるなっ! 俺はっ・・・・・・」
 そんな言葉が聞きたかったんじゃないと言おうとしたが、生きる気力を失くしたエルリィスを見て唇を引き結び、握り拳の力を緩め、腕を下ろした。
「分かった。ならこっちへ来い」
 エルリィスはゆらりと立ち上がると鎖を引き摺る音を立てながらアルフの居る鉄格子へと、ゆっくり歩き近づいた。
「せめて、苦しまずに逝かせてやろう・・・・・・」
 アルフが鉄格子の隙間から両手を伸ばし、エルリィスの頬あたりを手が掠めると、エルリィスはビクリと身をすくめた。
「とでも言うと思ったかっ!」
 アルフはエルリィスの両頬を手で挟むようにして思い切り叩いた。
「痛いっ、何を・・・・・・」
「お前はバカかっ! 何故本当の望みを言わないっ!  何故最初から諦めるっ! 最後の最後まで足掻いて、もがいて、抗ってみせろっ!」
 いつもは冷静なアルフだったが、らしくもなく声を荒らげた。今ならいくら声を出そうと兵は全員寝ている為見つかる心配はなかった。
「無理よっ! だって、夢でそう見たのなら、私の運命はもう決まってしまっているじゃない! それに・・・・・・処刑の日、あなたは来なかった。だから私が仮にあなたに助けを求めたところで死ぬ運命は変わらないのよ!」
 そう言ってエルリィスは再び顔を下に向けた。
「勘違いするなよな。確かに俺はお前が夢を見なかった日、一時しのぎとは言えお前を助けた。だが、俺はまだ、お前が本当はどうしたいのかを聞いていない。だからお前を助ける義理など無い」
「えっ・・・・・・」
「夢でお前が死んだのなら、それほお前が死を望む選択をしたというだけだ」
「そんなの・・・・・・ただの詭弁よ!」
 エルリィスはそう言ったが、心は揺れていた。実際アルフと会話した夢は見ていなかった。なのでエルリィスには前夜にアルフと何を話したかなど知るよしはなかった。
「お前はその力でオルディンを何度も救ったのだろう? だったら、それを俺達に出来ない訳が無い。だから、お前の本当の望みを言ってみろ。本当はどうしたいんだ? 死の直面、何を思った?」
 アルフはらしくもなく諭す様に言った。アルフは何故こんなにもエルリィスに執着しているのか分からなかった。かつての自分を見ている様で放っておけないのか、十啓の絆がそうさせるのか、情が移ったのか・・・・・・。
「・・・・・・きたい」
 か細い声だった。あまりに小さいエルリィスの声はアルフにまだ届かず、アルフが聞き返そうとした時、エルリィスの中で今までずっと堰き止めていたものが一気に溢れ出た。
「生きたいっ! まだ死にたくないっ! この城を出たいっ!」
 エルリィスは子供の様に泣きじゃくり、とめどなく流れ頬を伝う涙をひたすらに拭った。それでも涙の落ちる速さには追いつけなかった。
「あーーーーもうっ! 人がっ・・・・・・折角全部、諦めようとっ、してたのに、もうっ、もうっ、責任取ってよねっ!  私、沢山やりたい事があるの」
 ずっと我慢してきたエルリィスの言葉は堤防が決壊したかの様に止まらなかった。
「私、リコの実をっ、食べてみたい」
「ああ」
「世界一って言われているジルバーンのっ、お祭りに、行きたいっ」
「ああ」
「エイダでしか見られないって言う、星空と、極光を見てみたい」
「ああ」
 アルフはエルリィスがたどたどしく言うのを静かな声で頷き続けた。全てアルフがエルリィスに話した旅の話に出てきたものだった。
「だがら、私を助けて・・・・・・」
 エルリィスにはまだ本当にこの運命を変えられるのか分からなかった。だが、どうせこのまま死ぬ運命だと言うのならば、この命、アルフに全てを託してみたい、この運命、アルフに全てを賭けてみたい、そう思った。
「ああ、上出来だ」
 やっと聞きたかった言葉を聞きだせたアルフは柔らかい笑みを浮かべ、エルリィスの頭をそっと撫でた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...