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決意
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アルフは牢屋に静かに近づくと、エルリィスにそっと声を掛けた。
「エルリィス」
だが、エルリィスの返事は無く、明らかにいつもと様子が違った。アルフはエルリィスが寝ているのか、それとも何かあったのかと考えた。今まで膝を抱えたまま寝ていた事がなかった事から後者だと予想し、エルリィスに聞こえるような大きな溜息をついた。
「何だ? ついに自分が死ぬ夢でも見たか?」
「・・・・・・」
暫しの沈黙が続いた。本当に寝ているのかとアルフが一瞬思った時、その長い沈黙は破られた。
「・・・・・・そうよ」
エルリィスは小さく呟いた。
「私、本当にもう死ぬみたい」
エルリィスは力無く顔だけアルフの方に向けた。その様子は生気など欠片も感じられず、屍だと言われれば納得出来てしまう位だった。
「ねえ、アルフ・・・・・・。お願いがあるの」
「何だ? 全部聞くとは限らないぞ」
「このまま処刑されるくらいなら、あなたの手で私を殺して欲しいの・・・・・・」
アルフはエルリィスの言葉を聞くと酷く憤慨し、檻を拳で殴った。
「ふざけるなっ! 俺はっ・・・・・・」
そんな言葉が聞きたかったんじゃないと言おうとしたが、生きる気力を失くしたエルリィスを見て唇を引き結び、握り拳の力を緩め、腕を下ろした。
「分かった。ならこっちへ来い」
エルリィスはゆらりと立ち上がると鎖を引き摺る音を立てながらアルフの居る鉄格子へと、ゆっくり歩き近づいた。
「せめて、苦しまずに逝かせてやろう・・・・・・」
アルフが鉄格子の隙間から両手を伸ばし、エルリィスの頬あたりを手が掠めると、エルリィスはビクリと身を竦めた。
「とでも言うと思ったかっ!」
アルフはエルリィスの両頬を手で挟むようにして思い切り叩いた。
「痛いっ、何を・・・・・・」
「お前はバカかっ! 何故本当の望みを言わないっ! 何故最初から諦めるっ! 最後の最後まで足掻いて、もがいて、抗ってみせろっ!」
いつもは冷静なアルフだったが、らしくもなく声を荒らげた。今ならいくら声を出そうと兵は全員寝ている為見つかる心配はなかった。
「無理よっ! だって、夢でそう見たのなら、私の運命はもう決まってしまっているじゃない! それに・・・・・・処刑の日、あなたは来なかった。だから私が仮にあなたに助けを求めたところで死ぬ運命は変わらないのよ!」
そう言ってエルリィスは再び顔を下に向けた。
「勘違いするなよな。確かに俺はお前が夢を見なかった日、一時しのぎとは言えお前を助けた。だが、俺はまだ、お前が本当はどうしたいのかを聞いていない。だからお前を助ける義理など無い」
「えっ・・・・・・」
「夢でお前が死んだのなら、それほお前が死を望む選択をしたというだけだ」
「そんなの・・・・・・ただの詭弁よ!」
エルリィスはそう言ったが、心は揺れていた。実際アルフと会話した夢は見ていなかった。なのでエルリィスには前夜にアルフと何を話したかなど知るよしはなかった。
「お前はその力でオルディンを何度も救ったのだろう? だったら、それを俺達に出来ない訳が無い。だから、お前の本当の望みを言ってみろ。本当はどうしたいんだ? 死の直面、何を思った?」
アルフはらしくもなく諭す様に言った。アルフは何故こんなにもエルリィスに執着しているのか分からなかった。かつての自分を見ている様で放っておけないのか、十啓の絆がそうさせるのか、情が移ったのか・・・・・・。
「・・・・・・きたい」
か細い声だった。あまりに小さいエルリィスの声はアルフにまだ届かず、アルフが聞き返そうとした時、エルリィスの中で今までずっと堰き止めていたものが一気に溢れ出た。
「生きたいっ! まだ死にたくないっ! この城を出たいっ!」
エルリィスは子供の様に泣きじゃくり、とめどなく流れ頬を伝う涙をひたすらに拭った。それでも涙の落ちる速さには追いつけなかった。
「あーーーーもうっ! 人がっ・・・・・・折角全部、諦めようとっ、してたのに、もうっ、もうっ、責任取ってよねっ! 私、沢山やりたい事があるの」
ずっと我慢してきたエルリィスの言葉は堤防が決壊したかの様に止まらなかった。
「私、リコの実をっ、食べてみたい」
「ああ」
「世界一って言われているジルバーンのっ、お祭りに、行きたいっ」
「ああ」
「エイダでしか見られないって言う、星空と、極光を見てみたい」
「ああ」
アルフはエルリィスがたどたどしく言うのを静かな声で頷き続けた。全てアルフがエルリィスに話した旅の話に出てきたものだった。
「だがら、私を助けて・・・・・・」
エルリィスにはまだ本当にこの運命を変えられるのか分からなかった。だが、どうせこのまま死ぬ運命だと言うのならば、この命、アルフに全てを託してみたい、この運命、アルフに全てを賭けてみたい、そう思った。
「ああ、上出来だ」
やっと聞きたかった言葉を聞きだせたアルフは柔らかい笑みを浮かべ、エルリィスの頭をそっと撫でた。
「エルリィス」
だが、エルリィスの返事は無く、明らかにいつもと様子が違った。アルフはエルリィスが寝ているのか、それとも何かあったのかと考えた。今まで膝を抱えたまま寝ていた事がなかった事から後者だと予想し、エルリィスに聞こえるような大きな溜息をついた。
「何だ? ついに自分が死ぬ夢でも見たか?」
「・・・・・・」
暫しの沈黙が続いた。本当に寝ているのかとアルフが一瞬思った時、その長い沈黙は破られた。
「・・・・・・そうよ」
エルリィスは小さく呟いた。
「私、本当にもう死ぬみたい」
エルリィスは力無く顔だけアルフの方に向けた。その様子は生気など欠片も感じられず、屍だと言われれば納得出来てしまう位だった。
「ねえ、アルフ・・・・・・。お願いがあるの」
「何だ? 全部聞くとは限らないぞ」
「このまま処刑されるくらいなら、あなたの手で私を殺して欲しいの・・・・・・」
アルフはエルリィスの言葉を聞くと酷く憤慨し、檻を拳で殴った。
「ふざけるなっ! 俺はっ・・・・・・」
そんな言葉が聞きたかったんじゃないと言おうとしたが、生きる気力を失くしたエルリィスを見て唇を引き結び、握り拳の力を緩め、腕を下ろした。
「分かった。ならこっちへ来い」
エルリィスはゆらりと立ち上がると鎖を引き摺る音を立てながらアルフの居る鉄格子へと、ゆっくり歩き近づいた。
「せめて、苦しまずに逝かせてやろう・・・・・・」
アルフが鉄格子の隙間から両手を伸ばし、エルリィスの頬あたりを手が掠めると、エルリィスはビクリと身を竦めた。
「とでも言うと思ったかっ!」
アルフはエルリィスの両頬を手で挟むようにして思い切り叩いた。
「痛いっ、何を・・・・・・」
「お前はバカかっ! 何故本当の望みを言わないっ! 何故最初から諦めるっ! 最後の最後まで足掻いて、もがいて、抗ってみせろっ!」
いつもは冷静なアルフだったが、らしくもなく声を荒らげた。今ならいくら声を出そうと兵は全員寝ている為見つかる心配はなかった。
「無理よっ! だって、夢でそう見たのなら、私の運命はもう決まってしまっているじゃない! それに・・・・・・処刑の日、あなたは来なかった。だから私が仮にあなたに助けを求めたところで死ぬ運命は変わらないのよ!」
そう言ってエルリィスは再び顔を下に向けた。
「勘違いするなよな。確かに俺はお前が夢を見なかった日、一時しのぎとは言えお前を助けた。だが、俺はまだ、お前が本当はどうしたいのかを聞いていない。だからお前を助ける義理など無い」
「えっ・・・・・・」
「夢でお前が死んだのなら、それほお前が死を望む選択をしたというだけだ」
「そんなの・・・・・・ただの詭弁よ!」
エルリィスはそう言ったが、心は揺れていた。実際アルフと会話した夢は見ていなかった。なのでエルリィスには前夜にアルフと何を話したかなど知るよしはなかった。
「お前はその力でオルディンを何度も救ったのだろう? だったら、それを俺達に出来ない訳が無い。だから、お前の本当の望みを言ってみろ。本当はどうしたいんだ? 死の直面、何を思った?」
アルフはらしくもなく諭す様に言った。アルフは何故こんなにもエルリィスに執着しているのか分からなかった。かつての自分を見ている様で放っておけないのか、十啓の絆がそうさせるのか、情が移ったのか・・・・・・。
「・・・・・・きたい」
か細い声だった。あまりに小さいエルリィスの声はアルフにまだ届かず、アルフが聞き返そうとした時、エルリィスの中で今までずっと堰き止めていたものが一気に溢れ出た。
「生きたいっ! まだ死にたくないっ! この城を出たいっ!」
エルリィスは子供の様に泣きじゃくり、とめどなく流れ頬を伝う涙をひたすらに拭った。それでも涙の落ちる速さには追いつけなかった。
「あーーーーもうっ! 人がっ・・・・・・折角全部、諦めようとっ、してたのに、もうっ、もうっ、責任取ってよねっ! 私、沢山やりたい事があるの」
ずっと我慢してきたエルリィスの言葉は堤防が決壊したかの様に止まらなかった。
「私、リコの実をっ、食べてみたい」
「ああ」
「世界一って言われているジルバーンのっ、お祭りに、行きたいっ」
「ああ」
「エイダでしか見られないって言う、星空と、極光を見てみたい」
「ああ」
アルフはエルリィスがたどたどしく言うのを静かな声で頷き続けた。全てアルフがエルリィスに話した旅の話に出てきたものだった。
「だがら、私を助けて・・・・・・」
エルリィスにはまだ本当にこの運命を変えられるのか分からなかった。だが、どうせこのまま死ぬ運命だと言うのならば、この命、アルフに全てを託してみたい、この運命、アルフに全てを賭けてみたい、そう思った。
「ああ、上出来だ」
やっと聞きたかった言葉を聞きだせたアルフは柔らかい笑みを浮かべ、エルリィスの頭をそっと撫でた。
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