悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

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契約

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「アルフ、私の夢が消える前に、夢で起きた事を聞いて欲しい」
 エルリィスはトレインに夢を売る前に何かの手がかりになればと思い夢の記憶をアルフに託す事にした。
「ああ、お前の夢、俺が引き継ぐ」
 エルリィスはアルフに夢で何が起きたかを事細かく話した。処刑台に連れて行かれた事。街の人々に石を投げられた事。最後には首を刎ねられた事。全てを話した。
「良く話したな」
 自分が死ぬ記憶、それは話すのも辛い事だろうとアルフは思った。
「お話は終わった様ですね。アルフさん達が施した術がそろそろ切れそうでしたので、勝手ながら城に居る者全員を眠らせてきました。勿論これはサービスなのでお代は要りませんよ」
 トレインはアルフ達が話しているほんの数分間、城全体に術をかけに行っていた。アルフは外に待機していたルドも恐らく眠ってしまっているだろうと考えた。だが、この方法ならばこの塔に近づく者は誰も居なくなるのは確かだった。
「ふん、恩着せがましい奴だ」
「では、エルリィスさんにはこの契約書を一読の上署名を・・・・・・」
 トレインはエルリィスの目を覆う呪具を見て、明らかに契約書など読める状況ではないのを悟り、続ける言葉が尻切れとんぼになってしまった。
 しばしの沈黙の間、トレインは必死に考え、なんとか悪夢課の規則に抵触しない方法を考えた。
「そうだ! 僕がこの契約書を読み上げますので、その後署名をお願いします!」
「ええ、分かったわ」
「では行きますよ。夢界メルカディア悪夢課のトレインと以下契約を結ぶものとする。第一条売買した悪夢は契約者より・・・・・・」
「ちょっと待った」
 アルフは嫌な予感がしてトレインが読み上げるのを止めた。
「ええ? 何ですかアルフさん」
「お前、ちょっとその契約書見せてみろ」
「はあ、まあいいですけど」
 トレインから契約書を受け取ると、アルフは目眩を覚えた。
 その契約書は一枚の普通の大きさの紙だったが、極小さな文字で用紙の隅から隅までビッシリと書き連ねられたものだった。一言で言えば、一瞬で読む気を無くす代物だった。
「・・・・・・おい、こんなの今の速さで読んでたら流石に夜が明けるだろ。読むならもっとキリキリ読め」
「そうですねぇ・・・・・・、じゃあ超高速で読みますので、しっかりと聞いていて下さいね」
 トレインはそう言って大きく息を吐いた。肺の中いっぱいの空気をこれでもかと言う程追い出すと、今度はめいいっぱい空気を吸い込み、トレインは一気に読み上げ始めた。
 それは、脳内で文章に変換し難い速さだった。例えて言うならば、機械で録音した音声を五倍速にした様な速さで、常人にはとても聞き取れる速さではなかった。
「ふぅ・・・・・・以上です!」
 トレインは全てを読み終えやり切った感満載の顔で言った。
「おい、限度というものがあるだろ! ってかなんでそんな風に読めるんだ。こんなの誰も聞き取れる訳が・・・・・・」
「分かった。それで、契約書に署名すればいいのね?」
 アルフがトレインに抗議しているのも構わずエルリィスはサラリと言ってのけた。
「なっ、お前、あの速さで本当に何を言っているのか分かったと言うのか?!」
「ええ、確かにちょっと速かったけれど、私は慣れてるから」
 エルリィスは普段、夢の内容を辿る時、脳内で夢を高速再生させている内に声自体高速でも聞き取れるようになっていた。
 これは天啓の力でも、魔法でもなく、エルリィスが長年の経験から培ったものだった。
「ふふっ、流石はエルリィスさん! さあ、契約書のこの辺りにお名前をお願いします」
 トレインは檻の前に契約書を置き、エルリィスの手を掴み署名欄に誘導した。
「・・・・・・書いたけど、これで大丈夫?」
「はい、確かに」
 契約書の用紙を確認し、トレインはマントの内側の大きなポケットの中に入れた。
「では早速ですが悪夢の買い取りを始めようかと思います。今回買わせて頂くのは契約の通り一番新しい夢一つで承っています」
「それで、私は何をしたらいいの?」
「何もしなくて大丈夫です。じゃあ行きますよー」
 トレインはエルリィスの頭上にその小さな掌をかざした。
 すると、エルリィスは急激に眠気の様なものに襲われた。
 アルフはトレインの手に黒いもやの様なものが集まっていく様子を見守っていた。トレインの力は魔力は感じるものの、呪文の詠唱が無い為、天啓なのか魔法なのかアルフには良く分からなかった。『異世界人』と言っていたトレインの言葉が頭をよぎった。もしかしたら、異世界ではこちらの世界とは原理も法則も違うのかもしれないと思った。
「うっ・・・・・・」
 エルリィスはこのまま眠ってしまいそうだと思ったが、それも一瞬の事ですぐに眠気は消えていった。
「はい、終わりましたよー」
「随分と早いな」
「まあ、僕にとっては人と握手をするのと同じ位簡単ですからね」
 トレインの掌には悪夢の靄が圧縮されたと思われる黒い飴玉の様な物が乗せられていた。トレインはそれを大事そうにガラスの小瓶に入れ、コルクで栓をしてしまった。
「エルリィスさん、気分はどうですか?」
「ちょっと頭がぼーっとしたけれど、今はなんともないみたい。でも不思議ね、本当になんの夢を見たのか全く思い出せない・・・・・・」
 エルリィスは今までの夢の記憶は何一つ忘れた事がない程記憶力は良かったが、忘却すると言う感覚をとても新鮮に感じた。
「ちゃんと成功しているみたいで何よりです。二度とエルリィスさんにその夢が戻る事はありませんが、安心して下さい! 僕がちゃんと価値のある対価に変えてきますから! じゃあ、僕は夢界に一度戻りますが、すぐに戻りますから待ってて下さい」
「おい、待つってどの位なんだ?」
 アルフは時間が無い事に焦りを感じていた。このまま朝になってしまっては作戦が立てられないからだった。
 トレインは足元に手をかざし、アルフが見た事もないような魔法陣を一瞬にして描いた。そして、トレインは顔の横に人差し指を一本立てて微笑んだ。
「そうですね・・・・・・、皆さんがほんのちょっと瞬きしている間・・・・・・位ですかね」
 そう言ってトレインは青い光に包まれて魔法陣ごと虚空に消えた。
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