悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

文字の大きさ
20 / 31

夢獏

しおりを挟む
 トレインはいつになく急いでいた。
 一刻も早くエルリィス達の世界に戻らねばならないと思っていた。
「課長ーーー!」
 悪夢課の扉を開くと、そこにはいつも居るべき存在が居なかった。
「課長ーーーー、居ないんですか? あれ、おかしいな・・・・・・、いつもは無駄に良くきく鼻ですっとんで来る筈なのに・・・・・・、そして頭が心なしか重い様な・・・・・・」
 トレインが首を傾げると明らかに頭の重心がズレる様な、気だるい様な感覚に襲われた。
「おい、何言ってるんだ、いい加減そろそろ気がつけよ」
 声はトレインの頭上より響き、やっと自分の頭の上にのしかかったバクの存在に気がついた。
「課長! そんな所に居たんですか!!」
「おう、お前が扉を開けた時、光速の速さでお前の頭上に乗っていた。その夢が超強烈でな、もう欲とかそう言うレベルでなく、意思とは関係なく本能が体を動かしていた」
 バクは元々悪夢に惹かれる習性があったが、光速で飛びつかれたのはトレインも初めての事だった。
「へえー、そんなに凄いんですか、この夢・・・・・・って、僕の頭の上でヨダレを垂らさないで下さいよ~。もう、汚いなぁ」
「うるさい! その悪夢を早くよこせ、よこせ、よこせ、よこせ!」
 バクはまるで子供の様にトレインの頭の上に乗ったままジタバタと暴れた。
 一見するとトレインの頭を可愛くポカポカ殴っているかの様にも見えるが、バクはたんこぶが出来るのではないかと思われる程本気で叩いていた。
「痛い、痛いですよー、分かりましたから頭から降りて下さい」
 トレインはバクを掴み床に下ろした。
「はい、どうぞ」
 ポケットから悪夢の入った小瓶を渡すとバクはそれを勢い良くひったくった。
「おおおおおー、美しい! 見よ、この高貴な紫色の輝きを!」
「毎度の事ですが僕には黒にしか見えませんけれどね。堪能しているところ申し訳ないんですが、僕、夢具を早く持って行かないといけなくて」
「どーせ転移の時に時間軸の調整すりゃ済む話だろ」
「それはそうなんですけれど、なんとなく気持ちが急いてしまって」
「ま、お前に言われんでも俺様は腹ペコだからな、早速食べてやろうじゃねぇか。いっただきまーーす」
 バクは小瓶から悪夢を取り出すと飴玉でも食べるかのように口に放り込んだ。
 すると、すぐにバクの体に異変が起きた。
 バクの白い背中には次々と黒い斑点が浮かび上がり、その数が十になるとバクの体が白く光りだした。
「ま、眩しい・・・・・・」
  トレインは眩い光に目を閉じ、次に目を開いた時にはバクの姿は消えていた。
 そして、代わりにそこにいたのはバクの体と同じ色の白髪で、背の高い二十代位に見える男が白い司祭服の様な物を着て立っていた。
 バクと同じ様な目付きの悪さはあるものの、所謂美男子と言える部類の男だった。
「ほう、スッカラカンの状態から一気にカンストさせるとはな、やはり超上物は違うな」
「ロギ様降臨の瞬間を初めて見ました! 課長、いつものあれはやらないんですか?」
「んん? なんだそれは?」
「えー、いつもやってるじゃないですか、悪夢を食べた後に踊ったり、歌ったり、飛んだり、色々な茶番を始めるじゃないですか~」
 バクの時、夢を食べた後、バクは悪夢の影響を受けて本来持ちえない不思議な力が使える事があった。それがトレインには茶番劇の様にも見えていた。
「誰がクソつまらない茶番をしてるって? ああん?」
 ロギはトレインのこめかみを両拳で挟み、グリグリと回した。
「いだい、いだだだだ、そこまで言ってないじゃないですかぁー、つまらないのは確かですけれどって、頭が割れちゃいますー」
「ふん」
 ひとしきりグリグリ攻撃をして飽きたロギはトレインの頭を離した。
「もー、その格好だといつも以上に馬鹿力なんですから、加減して下さいよ」
「加減ならしているだろ。俺様が本気を出していたらお前の頭なんぞとっくのとうに粉砕されて脳味噌がだな」
「うう、想像したら気持ち悪くなったのでもういいです!」
 トレインは青い顔でそう言い、口元を手で押えた。
「あの茶番はプリチーなバクの格好だから良いんだろー。って言うかあれは夢喰い族の本能だからバクの時だけ体が勝手に動くんだよ。まあ、やろうと思えばこの格好でも出来ないことはないぞ」
 ロギはそう言ってトレインの胸ぐらを片手で掴み、自分の視線の高さに顔が来るように持ち上げた。
「今なら・・・・・・そうだな、お前の未来・・・・・・知りたくはないか?」
 ロギは含みのあるような笑みを浮かべ、目は真っ直ぐにトレインの黒い瞳を捉えていた。トレインは自分とは対照的なロギの白く美しい瞳に見入っていた。
 そして、その瞳の呪縛から逃れる様に、トレインは目を閉じ左右に首を振った。
「いえ、結構です。未来なんて先に知ってしまったらつまらないじゃないですか」
「そうかよ、つまんねえなぁ。そう言うと思ってたけどなー。ほれ」
 ロギはトレインを床に降ろし、トレインの目の前二枚の紙切れを突きつけた。
「うわ、・・・・・・夢具?」
「早く戻るんじゃなかったのか?」
「あああ、そうでした!」
「まあ、そう慌てんなよ。俺様が送ってやる」
 ロギはトレインの額に手を伸ばし、人差し指と親指で輪を作った。
「え、いや、自分で行けますし、遠慮したいなーって・・・・・・」
 トレインは嫌な予感がし、数歩後ずさった。
「ああん? 素直じゃねーな、部下のくせに遠慮とか可愛くねーぞ。そんでもって、もう手遅れだから」
 そう言ってロギは一気にトレインとの間合いを詰め思い切りデコピンをした。
 一瞬、トレインの悲鳴がしたが、その姿はすでに部屋になく、ロギは満足そうに部屋の奥の課長席に座った。
「さて、準備するかな」
 ロギはデスクの引き出しから鍵を取り出しそう言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...