悪夢買います! 〜夢見の巫女〜

帝亜有花

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解錠

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  空が白みがかった頃、ルドは焦りに焦っていた。
「ああーー、もーーー、これでもないし、これも違うっ、あああああ、一体どれなんだ!」
 ルドは手元の無数にある鍵と格闘をしていた。
 経緯を辿るとしたら、それはまだ、アルフが塔から出て、城に向かう時に遡る。


「おい、起きろ」
 アルフは、木にもたれかかり寝こけているルドを見つけると横っ腹を容赦なく蹴った。
「へぎゃっ?  あれ・・・・・・、若様・・・・・・私は一体・・・・・・」
 ルドは変な声を出し、今まで何をしていたのか分からず混乱していた。
「若様と呼ぶな。細かい話は後だ。これを持って塔のてっぺんに居るエルリィスを牢から出し、連れ出してくれ。城の敷地からは出るなよ」
 そう言って差し出したのは小さな鍵がパッと見で五十個以上はある様な鍵束だった。
「そんないきなり! アルフ様が直接連れてくれば良かったのでは?」
「この鍵を持ってる奴を探しながら塔を降りたが入口近くに居てな。また戻るのは時間がかかるからお前に任せたい。その間俺は奴と決着を付けに行ってくる」
「でも、これどれが牢屋の鍵が分からないんですが・・・・・・」
 ルドはやたらと重い鍵束を見て困惑した。
「ごちゃごちゃとうるせぇな。はぁ・・・・・・仕方ない、お前にとっておきの鍵を預ける」
「はあ・・・・・・、って何ですかこれ?」
 アルフはとても大切な物を託すかの様にルドの手のひらに自分の手を重ねた。
 手のひらに乗せられた物を見るなりルドはますます困惑した。
 それは程よい握りやすさで、程よい長さで、程よい細さで、程よい重さのある何の変哲もない針金だった。
「何って、これさえあれば世界の八割の鍵なんか楽勝で開くだろ? そろそろ兵達の眠りが覚めてもおかしくない頃合だ。くれぐれも見つかるなよ。じゃ、あとは任せたぞ」
 そう言ってアルフは城の方へと走り去っていった。
「ちょっ、待って下さい! こんなのどうやって使えと!!」 
 ルドは手を伸ばし、大声で呼び止めたがアルフは聞く耳も持たず、すぐに背中は小さくなっていった。
「もう・・・・・・、これを自分で使って連れてくれば良かったのに」
 アルフがとんでもない命令をしてくるのはいつもの事だった。
 しかし、どんなに理不尽な命令だろうと言う通りにしてしまう。
 それが十啓のさだめなのか、あるいは主従を超えた好意からなのか、ルドにも分からずにいたが、たとえどちらだろうとルドにはどちらでも良い事だった。
「はあ・・・・・・仕方がないですね」
 ルドは溜息をつきながら鍵束を握りしめて塔に向かった。


 塔の中で見かける兵は皆気持ち良さそうに眠りに就いていた。
 急がねばならないという事と兵を起こさない様にしなければならないという二つの事象を両立させる為に、ルドは早歩きかつ慎重に歩を進めた。
「おわわっ!」
 そう気を付けていたつもりだったが、ルドは眠る兵の足に躓き盛大に前のめりで倒れた。
「誰だっ!」
「ひぃぃっ」
 ルドは奇声を上げ恐る恐る後ろを振り返った。
 兵はゴロリと体の向きを変えた。
「誰だよ・・・・・・俺の肉食ったの・・・・・・」
「ね、寝言ですか・・・・・・」
 ホッと胸を撫で下ろすと今度は奥の方から声が聞こえた。
「誰・・・・・・?」
 その声は牢屋の方から聞こえた事から目的の人物だろうかと思った。
 牢に近づくとアルフが言っていた通りの外見の少女が囚われており、彼女がエルリィスだと確信した。
「えーと、初めまして。私は決して怪しい者ではなくてですね」
「怪しい人は皆自分で怪しくないと言うものだそうよ?」
 そう言ってエルリィスはクスリと笑った。
「ええ?」
「いえ、ごめんなさい。ある人がそう言っていたからつい」
 ルドは純粋そうな少女にそんな事を聞かせる人物は一人しかいないと思った。
「まあ、いきなりの事なので怪しむのも無理はありません。私は若様の・・・・・・いえ、親愛なるアルフ様の忠実なる・・・・・・従者? いや、唯一無二の忠誠を誓いし・・・・・・下僕・・・・・・?」
 ルドはこんな時になんと名乗って良いのか考えていなかったのでどう言ったら決まりが良くなるのか模索していた。
 ただ、その声はだだ漏れだった為非常に決まりは悪かった。
「とにかく! 私はルド・ラシュタ。アルフ様にあなたを連れ出すように言われて来ました」
「ルドさん・・・・・・あなたがルドさんなんですね」
「へ? 私の事を知ってるのですか?」
「アルフが良くあなたの事を話していたから・・・・・・」
 エルリィスはアルフから旅の話をする時、良く出てくる名前にルドの名前があった事を覚えていた。
「若様ぁ・・・・・・」
 ルドはアルフが自分の事を話してくれていた事に感極まり、まるで自分の周りに花でも咲いたかの様に喜んだ。
「おっと、こんな事している場合ではありませんでした! 早く鍵を開けねば」
 開けなければいけない鍵は全部で五つあった。
 牢屋の鍵、エルリィスの四肢についた手枷、足枷の鍵だ。
 ルドは一つ一つ鍵を試してみたが、数が多く、どれが当たりなのかが分からなかった。
「これでもないし、これも違うし・・・・・・」
 思ったよりも時間の掛かる作業に眠る兵達がいつ起きるかも気になっていた。
 兵が寝返りをする度に、寝息が変わる度にルドは気が気ではなかった。
「あっ!」
 そんな緊張感の中、ルドは手が滑り鍵束を落としてしまい、どこまで試したかが分からなくなった。
「あああああ、またやり直しなんて」
「ルドさん落ち着いて」
 慌てふためくルドの声を聞いてエルリィスは心配そうに言った。
 そうこうしている内に、外は段々と白みがかり、夜明けが近かった。
「ああーー、もーーー、これでもないし、これも違うっ、あああああ、一体どれなんだ!」
 ルドの精神状態が限界になり、半狂乱で頭を抱えると足元に何かが落ちた。
「あの、何か落としましたか?」
 エルリィスにそう言われてルドは足元を見やると、そこにあったのはアルフから預けられた万能鍵もとい何の変哲もない針金だった。
「ああ、針金ですか。これで開けろとか、ははっ、無理に決まってるじゃないですか」
 自嘲気味にルドが笑うとエルリィスは音がした辺りをまさぐり針金を手に取った。
試しに自分の手枷の鍵穴を探り、針金を差し込み、全神経を指先に集中させた。
針金を調整し、試行錯誤し根気よく弄っていると、手応えがあった。そして、そのままぐるりと針金を回すとカチリと音がし、手枷はするりと手首より落ちた。
「あのう・・・・・・、針金で出来ちゃいました」
 エルリィスが遠慮がちにそう言うと、ルドは「えっ!」と驚嘆の声を漏らし、そのまま数秒間目を丸くしたまま呆然と立ち尽くしていた。
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