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覚醒
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ルドとエルリィスはオルディンの寝室を目指していた。
エルリィスは目は見えなくとも夢の中で飽きる程歩き回っていたお陰で城の中を何歩進み、どの角を曲がれば良いかは頭の中で正確に把握していた。
「この角を右に曲がって三つ目の部屋がオルディンの部屋です」
ルドはエルリィスの言う部屋を開けると溜め息を漏らした。
「どうやらもう移動した後のようですね」
部屋の中は知らない老人の亡骸があるだけだった。乱れた部屋の様子から明らかに争った跡だと分かった。アルフとオルディンがこの部屋に居たのは間違いなかった。
エルリィスは再び全神経を集中させ耳を澄ませた。
「音がします・・・・・・。あれは広間の方だと思います」
「行ってみましょう!」
ルドはエルリィスが案内する道を辿った。廊下のあちこちに何かで抉れた様な跡があり、激しい闘争を物語っていた。
ルドはアルフの事だから大丈夫だろうと信じてはいたが、身を案じずにはいられなかった。
エルリィスはルドに手を引かれて走っていた。しかし、広間が近くなったところで突然頭が痛みだした。
その痛みは普通の頭痛とは違っていて、細い針にでも刺される様な痛みだった。
「うっ、な、に・・・・・・」
エルリィスは自分の身に何が起こったのか分からず足を止めた。
「エルリィスさん?」
ルドが何事かと振り返り、エルリィスの様子を見た。頭を押さえ苦しむエルリィスに、普通の薬や治療では治せるたぐいの事ではなさそうだと感じた。
「あ、頭が・・・・・・」
そこでエルリィスは突然自分の時だけ停止し、世界が反転したかのような錯覚を覚えた。
今まで闇しか無かった眼前に光が差し、まるで寝ている時の予知夢を見ているのと同じ感覚だった。
「何・・・・・・?」
予知夢を見るにしても寝た覚えはなく、気でも失ったのかと思った時、目の前の光景にハッとした。
そこには部屋一面に兵の骸と、禍々しい闇を纏ったオルディンと、それに対峙する黒衣の男が居た。
エルリィスはすぐにその男がアルフなのだろうと察した。
「これで全て終わりだ!」
オルディンが体中から黒い影の様な物を出し、部屋全体にまで広げるとアルフ目掛けて一斉に攻撃した。
それはとても逃れられる様な攻撃ではなかった。左右前後、そして上からもそれは降りかかり、アルフは剣技を放ち抵抗するも虚しくを闇に飲み込まれた。
そして、その闇が晴れた時にはアルフは床に倒れていた。血が体中から吹き出し、ピクリとも動かなくなった。それはアルフの敗北を示していた。
「ダメ! そんなのダメよ、こんなの・・・・・・」
エルリィスはこれから起こる未来に身震いした。
そして、その光景は弾けるようにして消えると景色は再び黒に染った。
ただ、いつもと違うのは目の前に鏡があった事だ。その鏡には不思議な雰囲気の自分が写っていた。
「何・・・・・・?」
エルリィスはその違和感からよくよく見ると鏡の枠も硝子の光沢もなく、目の前の存在は鏡像ではない事に気が付いた。
その少女は自分と同じ顔をしている筈なのに、どこか物憂げで、儚げで、神聖さが感じられた。
「あなたは誰なの?」
エルリィスはその存在に驚きながらもそれを表に出す事なくそう言った。
「我は其方・・・・・・其方であって其方とは異なるもの・・・・・・」
「あなたは私・・・・・・私であって私ではない・・・・・・?」
その少女の言うことを噛み砕く様にエルリィスは呟いた。エルリィスは少女が何者であるかを考えた。そして、ある可能性に気が付いた。
「もしかして、あなたは私の天啓・・・・・・なの?」
「然り」
「さっきのを見せたのもあなたなの?」
「然り、あれはこれから起こりうる未来・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
「その未来、抗えると思うてか?」
少女の瞳は凍てついていて、尚且つどこか艶めかしさがあった。
変えたい、変えられるものならこんな未来は無かった事にしたい。エルリィスはそう思った。だが、その未来を変えようにも自身にはなんの力もない。エルリィスはただただ俯くだけだった。
「其方の考えておる事は分かっておる。道が無い訳ではない」
「本当に? 教えて下さい! どうしたらいいの?」
「この力は本来、予知夢を見るだけのものではない。幾千年の時を経て、時代が変わるごとに我は呼び名を変えられてきた。我の意志とは無関係に・・・・・・。先見の乙女、未来視の魔女、夢占の姫、そして夢見の巫女。そのどれもが我の本質とは異なる呼び名だ」
エルリィスは周りにずっと『夢見の巫女』と呼ばれてきた。他の呼び名があるとは知りもしなかった。
「じゃあ、本当の呼び名はなんと言うの?」
「それはいずれ其方自身が分かる事だ。本質を知りさえすればだがな」
「本質・・・・・・」
「さて、其方に問おう、運命に抗う力を欲するか?」
今まで予知夢を見る事だけが自分の力だと思っていた。他に何が出来るかなんて分からない。でも、最悪の未来をこの手で変えられるなら答えは一つしかなかった。
「はい!」
己の覚悟を込めて真っ直ぐに少女を見据えてそう言うと、ずっと無表情だった顔が少しだけ笑った様に見えた。
「良いだろう。同胞のよしみだ。此度は其方に力を貸そう。力の感覚をその身で覚えるが良い。そして、ゆめゆめ忘れるな・・・・・・力を使う事、それには代償が伴う事を・・・・・・」
そう言って少女はエルリィスの額を人差し指で軽く触れた。その途端、エルリィスは赤い瞳に光が灯った様に赤みが増し、身の内から感じた事のない力を感じた。
そして、目の前から少女は消えた。
「エルリィスさん! 大丈夫ですか?」
ルドの声が聞こえ、時が動き出した事が分かった。
ルドが心配そうにしていたのは分かっていたが、エルリィスは返事をしなかった。それ位事態は逼迫していた。
「私、行かなくちゃ・・・・・・」
そう言ってエルリィスはルドを置いて走り出した。
「エルリィスさん!?」
ルドはエルリィスを追いかけたが、追いつかない程エルリィスの足は速かった。
「どうか、どうか間に合って!」
エルリィスは広間までの道をひた走った。これだけ走ったのは久し振りだったが、今は一刻を争う、あの人を助けたい、そう思うとまともに息もせずに走っている事も苦ではなかった。
広間に辿り着くと聞き慣れた声がした。
「これで全て終わりだ!」
それはまさにあの少女が見せた未来と同じ言葉だった。
エルリィスは急いでアルフを庇うように広間の中央に躍り出た。
「何っ!?」
驚きの声を上げたのはアルフだった。エルリィスが何故ここに居るのか、何をする気なのか意図も分からずにいたが、エルリィスを助けようにもオルディンとの戦いが長引いた事で力を消耗し身動きがうまくとれなかった。
「ほう、二人まとめて葬り去ってやろう」
オルディンから放たれる全方向からの攻撃はエルリィス達に一斉に向かった。これで、全てが終わる、オルディンはそう確信していた。
しかし、エルリィスが両手を広げるとその影の様な物は物凄い速さでエルリィスの手に吸い寄せられ集まり、無へと昇華していった。
「な、なんだと!?」
「私は・・・・・・この未来を拒絶する!」
エルリィスは全ての闇を消し去るとオルディンの前に堂々と立ち塞がりそう言い放った。
エルリィスは目は見えなくとも夢の中で飽きる程歩き回っていたお陰で城の中を何歩進み、どの角を曲がれば良いかは頭の中で正確に把握していた。
「この角を右に曲がって三つ目の部屋がオルディンの部屋です」
ルドはエルリィスの言う部屋を開けると溜め息を漏らした。
「どうやらもう移動した後のようですね」
部屋の中は知らない老人の亡骸があるだけだった。乱れた部屋の様子から明らかに争った跡だと分かった。アルフとオルディンがこの部屋に居たのは間違いなかった。
エルリィスは再び全神経を集中させ耳を澄ませた。
「音がします・・・・・・。あれは広間の方だと思います」
「行ってみましょう!」
ルドはエルリィスが案内する道を辿った。廊下のあちこちに何かで抉れた様な跡があり、激しい闘争を物語っていた。
ルドはアルフの事だから大丈夫だろうと信じてはいたが、身を案じずにはいられなかった。
エルリィスはルドに手を引かれて走っていた。しかし、広間が近くなったところで突然頭が痛みだした。
その痛みは普通の頭痛とは違っていて、細い針にでも刺される様な痛みだった。
「うっ、な、に・・・・・・」
エルリィスは自分の身に何が起こったのか分からず足を止めた。
「エルリィスさん?」
ルドが何事かと振り返り、エルリィスの様子を見た。頭を押さえ苦しむエルリィスに、普通の薬や治療では治せるたぐいの事ではなさそうだと感じた。
「あ、頭が・・・・・・」
そこでエルリィスは突然自分の時だけ停止し、世界が反転したかのような錯覚を覚えた。
今まで闇しか無かった眼前に光が差し、まるで寝ている時の予知夢を見ているのと同じ感覚だった。
「何・・・・・・?」
予知夢を見るにしても寝た覚えはなく、気でも失ったのかと思った時、目の前の光景にハッとした。
そこには部屋一面に兵の骸と、禍々しい闇を纏ったオルディンと、それに対峙する黒衣の男が居た。
エルリィスはすぐにその男がアルフなのだろうと察した。
「これで全て終わりだ!」
オルディンが体中から黒い影の様な物を出し、部屋全体にまで広げるとアルフ目掛けて一斉に攻撃した。
それはとても逃れられる様な攻撃ではなかった。左右前後、そして上からもそれは降りかかり、アルフは剣技を放ち抵抗するも虚しくを闇に飲み込まれた。
そして、その闇が晴れた時にはアルフは床に倒れていた。血が体中から吹き出し、ピクリとも動かなくなった。それはアルフの敗北を示していた。
「ダメ! そんなのダメよ、こんなの・・・・・・」
エルリィスはこれから起こる未来に身震いした。
そして、その光景は弾けるようにして消えると景色は再び黒に染った。
ただ、いつもと違うのは目の前に鏡があった事だ。その鏡には不思議な雰囲気の自分が写っていた。
「何・・・・・・?」
エルリィスはその違和感からよくよく見ると鏡の枠も硝子の光沢もなく、目の前の存在は鏡像ではない事に気が付いた。
その少女は自分と同じ顔をしている筈なのに、どこか物憂げで、儚げで、神聖さが感じられた。
「あなたは誰なの?」
エルリィスはその存在に驚きながらもそれを表に出す事なくそう言った。
「我は其方・・・・・・其方であって其方とは異なるもの・・・・・・」
「あなたは私・・・・・・私であって私ではない・・・・・・?」
その少女の言うことを噛み砕く様にエルリィスは呟いた。エルリィスは少女が何者であるかを考えた。そして、ある可能性に気が付いた。
「もしかして、あなたは私の天啓・・・・・・なの?」
「然り」
「さっきのを見せたのもあなたなの?」
「然り、あれはこれから起こりうる未来・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
「その未来、抗えると思うてか?」
少女の瞳は凍てついていて、尚且つどこか艶めかしさがあった。
変えたい、変えられるものならこんな未来は無かった事にしたい。エルリィスはそう思った。だが、その未来を変えようにも自身にはなんの力もない。エルリィスはただただ俯くだけだった。
「其方の考えておる事は分かっておる。道が無い訳ではない」
「本当に? 教えて下さい! どうしたらいいの?」
「この力は本来、予知夢を見るだけのものではない。幾千年の時を経て、時代が変わるごとに我は呼び名を変えられてきた。我の意志とは無関係に・・・・・・。先見の乙女、未来視の魔女、夢占の姫、そして夢見の巫女。そのどれもが我の本質とは異なる呼び名だ」
エルリィスは周りにずっと『夢見の巫女』と呼ばれてきた。他の呼び名があるとは知りもしなかった。
「じゃあ、本当の呼び名はなんと言うの?」
「それはいずれ其方自身が分かる事だ。本質を知りさえすればだがな」
「本質・・・・・・」
「さて、其方に問おう、運命に抗う力を欲するか?」
今まで予知夢を見る事だけが自分の力だと思っていた。他に何が出来るかなんて分からない。でも、最悪の未来をこの手で変えられるなら答えは一つしかなかった。
「はい!」
己の覚悟を込めて真っ直ぐに少女を見据えてそう言うと、ずっと無表情だった顔が少しだけ笑った様に見えた。
「良いだろう。同胞のよしみだ。此度は其方に力を貸そう。力の感覚をその身で覚えるが良い。そして、ゆめゆめ忘れるな・・・・・・力を使う事、それには代償が伴う事を・・・・・・」
そう言って少女はエルリィスの額を人差し指で軽く触れた。その途端、エルリィスは赤い瞳に光が灯った様に赤みが増し、身の内から感じた事のない力を感じた。
そして、目の前から少女は消えた。
「エルリィスさん! 大丈夫ですか?」
ルドの声が聞こえ、時が動き出した事が分かった。
ルドが心配そうにしていたのは分かっていたが、エルリィスは返事をしなかった。それ位事態は逼迫していた。
「私、行かなくちゃ・・・・・・」
そう言ってエルリィスはルドを置いて走り出した。
「エルリィスさん!?」
ルドはエルリィスを追いかけたが、追いつかない程エルリィスの足は速かった。
「どうか、どうか間に合って!」
エルリィスは広間までの道をひた走った。これだけ走ったのは久し振りだったが、今は一刻を争う、あの人を助けたい、そう思うとまともに息もせずに走っている事も苦ではなかった。
広間に辿り着くと聞き慣れた声がした。
「これで全て終わりだ!」
それはまさにあの少女が見せた未来と同じ言葉だった。
エルリィスは急いでアルフを庇うように広間の中央に躍り出た。
「何っ!?」
驚きの声を上げたのはアルフだった。エルリィスが何故ここに居るのか、何をする気なのか意図も分からずにいたが、エルリィスを助けようにもオルディンとの戦いが長引いた事で力を消耗し身動きがうまくとれなかった。
「ほう、二人まとめて葬り去ってやろう」
オルディンから放たれる全方向からの攻撃はエルリィス達に一斉に向かった。これで、全てが終わる、オルディンはそう確信していた。
しかし、エルリィスが両手を広げるとその影の様な物は物凄い速さでエルリィスの手に吸い寄せられ集まり、無へと昇華していった。
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