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トキオの部屋 『 ナジミの場合 』
しおりを挟む「で?
お前が、夜のトキオって事か?」
アタシがベッドに座るトキオの顔を両手で挟み、頬っぺたを圧縮させると、
「しょーぅだ(そうだ)」
と、トキオの口が縦に動く。
アタシは帰ってきたトキオを玄関で見たとき、いつもとは違う違和感を覚えた。
何か落ち着いた大人の雰囲気を漂わせて、全てを見透かしているかのような目。
いつものトキオは、どこか目の奥にオドオドした部分が垣間見えていた。
わずかにキョドっているのがトキオなのだ。
この自信に満ち溢れたトキオは、アタシの知っているトキオではないのだ。
「ハナ先輩・・・」
「何?」
トキオの机のイスに座るハナ先輩が、少しだけイスの角度を変えアタシの方を向く。
「こいつ、夜が明けて明るくなると、記憶の無いトキオに戻るんですよね?」
「そう。
ていうか、そうなんでしょ?トキオ」
お!ハナ先輩、トキオのこと名前で呼んでる。
ま、一緒に住んでるんだから、こっちの方が自然か・・・
「ああ、そうだ」
アタシが頬っぺたから手を離すとトキオが、両方の頬をもみながら言う。
「で、昼のトキオは、夜の記憶がないのよね?」
「そうだ、ヤツは暗くなると寝てる状態だ」
「で、夜になると今のアンタが出てくる」
「そうだ」
ふーん。
バトンタッチする感じってこと?
「それで、今のアンタは昼の記憶も、過去の記憶もある」
「ああ」
「二重人格・・・?」
「ああ、解離性同一性障害だ」
それはどうでもいいわ。
「けど、アンタは以前のトキオとは違うわ」
「そうだ。
俺はトキオの本心だ」
「本心?」
「そうだ」
「それを信じろって?」
「ああ。
それが本当のことだ」
アタシは少し考える。
「ハナ先輩」
「なに?」
「先輩は信じますか?」
「そうね。
聞いただけだと信じられないかもしれないわね。
でも、わたし、変わる瞬間を見たのよ」
「変わる瞬間?」
「うん。
なんか、苦しみながら変身するっていうか・・・」
「変身?
トキオ!アンタ変身すんの?」
「それは分からない。
入れ替わる間の記憶だけが無いんだ。
気づくと夜になって入れ替わってるって事だ」
「へぇー、そう。
それじゃ、昼の間、アンタどこに居るのよ?」
「昼の間は、客観的に見ている感じだ」
なんか、都合のいい話だわね。
「ねぇ、アンタ。
さっき、本心って言ったわよね?」
「そうだ」
「それじゃ、トキオ!
アンタの好きな人って誰?」
「ちょっとナジミ!」
ハナ先輩が慌てる。
「ハナだ。
俺が好きなのはハナだ」
そうか。
やっぱりハナ先輩のこと好きなのか。って、呼び捨てかよ!
すげーな!どうなってんだよ!
しかもそれを本人のいる前で、よくまあ、いけしゃあしゃあと言えたもんね。
ハナ先輩、照れてるし。
ん?照れてる?
・・・まぁいい。
てかコイツ、これだけ堂々と言えるってことは本当に本心って事?
それじゃ、聞くか?
この際、聞いてみるか?
「ねぇ、トキオ」
「なんだ?」
「あの~、アタシの事はどう思ってるの?」
「好きだ」
「え?」
ハナ先輩が小さく驚く。
え?
アタシも同時に驚く。
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