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トキオの部屋 『 ハナの場合 』
しおりを挟むナジミがトキオにグッと詰め寄る。
「それじゃ、トキオ!
アンタの好きな人って誰?」
「ちょっとナジミ!」
わたしが思わず慌てる。
「ハナだ。
俺が好きなのはハナだ」
な!何よコイツ!
なんのためらいも無く!
どうすんのよ!
わたし、顔、赤くなってんじゃない!
ナジミはトキオから距離を取り、少し考える。
「ねぇ、トキオ」
「なんだ?」
「あの~、アタシの事はどう思ってるの?」
「好きだ」
「え?」
わたしが驚く。
やべ!声が出た!
ナジミも驚いた顔をしている。
何!?
どういう事?
お前!わたしが好きなんじゃねぇーのかよ!
どうなってんだよ!
「トキオ、それってどういう事?」
ナジミがトキオに聞く。
「俺はナジミが好きって事だ」
「ちょっと待って!トキオ!
アンタが好きなのはハナ先輩でしょ!?」
「そうだ。
俺はハナが好きだ」
「だから!、それって、」
「ちょっと待って!ナジミ!」
わたしがナジミを遮る。
「え?」
ナジミがわたしを見る。
「あなた、わたしの事が好きなんでしょ?」
わたしがトキオに問いかける。
「そうだ。好きだ」
「ナジミも好き?」
「そうだ。好きだ」
「それじゃ、ユイはどうなの?
好きなの?」
「ああ、俺はユイが好きだ」
「やっぱり・・・」
「え!?
どういう事です?先輩!?」
「このトキオは本心を言ってるのよ」
「本心?って事は・・・先輩」
「そうよ、3人とも好きなのよ。
そうでしょ?トキオ」
「ああ、そうだ。
3人とも好きだ」
「ちょっとトキオ!
3人とも好きって!あんたね!
それ一体どういう事なのよ!」
ナジミが詰め寄ってトキオの胸ぐらをつかむ。
「俺はハナに一目惚れした。
ハナは俺の憧れの人だ。
ナジミは俺の幼馴染で、一番大切な人だ。
そしてユイは俺を受け入れてくれる恋人だ」
やっぱり・・・
トキオは選べないのだ。
「迷ってるのよ・・・」
わたしがつぶやく。
「え?
何です?先輩?」
「トキオの本心は迷ってるのよ。
今のトキオは、誰か1人を選べないでいるのよ」
「・・・・・」
ナジミが無言でトキオの胸ぐらから手を離す。
「そうなんでしょ?
トキオ」
わたしが聞く。
「分からない。
選ぶのは俺じゃない」
「それ、どういう事?」
ナジミが聞く。
「本当のトキオだ。
アイツが選ぶことだ」
「本当のトキオ・・・?」
ナジミがつぶやく。
「ああ。
夜の俺と、昼のヤツは、トキオの心だ。
心が2つに分かれてるんだ」
「じゃあ、本当のトキオはどこにいるの?」
ナジミが聞く。
「分からない・・・
俺・・・ちょっと疲れてきた。
休ませてくれるか?」
そう言ってトキオがゆっくりとベッドに横になる。
そっか・・・
やっぱり、あの夕方に一瞬だけ現れたのが本当のトキオだったのね・・・
「ナジミ」
「何です?先輩」
「ちょっと、わたしの部屋に来て」
「は、はい」
ナジミとわたしがトキオの部屋を後にする。
「トキオ!しっかり休めよ!」
ナジミがベッドのトキオに声をかけてドアを閉める。
バタン。
--- ハナの部屋 ---
「てきとうに座って」
わたしが言うとナジミがベッドに腰掛ける。
「で、何でしょう?先輩」
「本当のトキオの事よ」
「本当のトキオ?」
「そう。
わたし、見たのよ」
「何をです?」
「本当のトキオよ」
「え?」
「ほら、昼から夜のトキオに変身するって言ったでしょ?」
「はい。
言ってましたね」
「あの変身する前に、ほんの少しの時間、本当のトキオに会ったのよ」
「え?マジですか?
そ、それで?」
「わたしに言ったの」
「何って言ったんです?」
「助けてくれって」
「トキオが、そう言ったんですか?」
「うん」
「そうか・・・
トキオが・・・」
ナジミがブツブツ言いながら何かを考え、パッと明るい顔になる。
「よし!先輩!」
「何?」
「助けましょう!」
「え?」
「アタシたちでトキオを助けましょう!」
「助けるって・・・
どうやって?」
「アタシに考えがあります!
えっへっへ!」
ナジミが笑う。
あんた・・・何するつもりよ?
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