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09 王都への途中1
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キナノ村を出て1日がたった。
王都グランメルまではあと2日だ。
案外馬車での旅も悪くはなかった。
ゴトゴトと揺れ、乗り心地は良くないが、これも一つの醍醐味だろう。
「兄ちゃん、魔法学院を受けるんだってな。どこを受けるつもりなんだ?」
馬車の手綱を握るゴートさんが話しかけてきた。
「ラドフォーリア魔法学院と、あとクライナート魔法学院を受験するつもりです」
「おお、こりゃあどちらも名門じゃないか!」
そう。
ラドフォーリアは国で一番、クライナートは国で2番目の魔法学院だ。
「兄ちゃん、あんまり強そうには見えないけどなぁ、はっはっ!!まぁ、応援してるぜ!」
その発言に嫌味は感じ取れなかった。
おそらく、思っていることをそのまま口に出したのだろう。
確かに、俺の見た目は自分から見ても強そうには見えない。
筋骨隆々ってわけでもないし、どちらかといえば細いほうだ。
王都に行ったらあんまり舐められないようにしないとな。
「そういえば、ゴートさん、王都ってどんなところなんですか?」
「んーそうだなぁ。俺等のいるグランド王国じゃあ一番の都会だけどよう。俺みたいな田舎もんには、ちと合わねぇな。遊びに行ったり、商売しに行ったりする分にはいいんだけどよう、住むのは勘弁だぜ」
『はっはっ!』と笑って言った。
グランド王国最大の都市、王都グランメル。
一体どんなところなんだろう。
「あとかわいい子はたくさんいるぜ!!兄ちゃんはイケメンだから相当モテるかもなあ!」
嬉しいことを言ってくれるじゃあないか。
そんな事を言われると少し期待してしまう。
バラ色の学園生活というものを!
まぁ、そもそも合格しないと意味がないのだがな。
「でも、貴族連中には気をつけろよ。あいつら、すぐにいちゃもんつけてくるからよう。もちろん、全員がそんな奴らじゃねぇがな。中には良い貴族もいるさ」
そうか。
村では身分なんて言うものはなかった。
全員が等しく平民だったが、王都では違うのか。
言葉遣いとか気をつけた方が良いのだろうか。
「ったく。あいつらときたら、ちょっと生まれが良いからっていっちょ前に威張りあがって」
何か嫌な思い出があるのかゴートさんは怒るようにそう言ってから、『あ、今の発言、ナイショな』
と付け足した。
俺も心構えをしておこう。
なるべく貴族とは関わらない方が良さそうだな。
何か問題を起こしたら面倒くさそうだ。
「特に名家の奴には注意したほうが良いぜ。会ったことはないが貴族の中でも最上位の連中だ。どうせろくな奴じゃないと思うぜ」
名家か。
いくつあるのかは忘れたが、存在自体は俺でも知っている。
代々続いている伝統ある家だ。
家に代々伝わる固有魔法があると本で読んだことがある。
何それめっちゃかっこいいじゃん。
俺も欲しいなあ、と思うが望むべくもないことだ。
国王との関係も密接で、政治にも大きな影響を与えると聞いたことがある。
一体どんな奴らなんだ。
一目見ておきたいな。
さぞかし平民の俺とは違うんだろうな。
礼儀作法とか、言葉遣いとか諸々。
さてと。
会話が一段落したところで、俺はカバンから一冊の本を取り出し、試験に向けて勉強を開始した。
――――――
夜になって俺はいつの間にか眠っていた。
足を三角におり、馬車の壁によし掛かって寝ている所をゴートさんに起こされた。
「おい、兄ちゃん、兄ちゃん……起きてくれよ」
「……ん」
眠たい目を擦りながら、俺は目を開けると何だか焦っているようなゴートさんが正面にしゃがんでいた。
馬車は止まっていた。
月光がゴートさんの姿を薄く照らしていた。
「まずい事が起きちまった」
その一言で完全に目を覚ます。
「まずいこと?」
まさかタイヤが壊れたとか?
馬が怪我したとか?
「ああ、あそこの橋が見えるか?」
そう言ってゴートさんは前方の300メートル離れた橋を指さした。
「暗くて良く見えねぇと思うが、あそこに黒い影が3つあるだろ?おそらくあれはオークだ」
指された方向を凝視すると確かにオークがいた。
橋を塞ぐようにしてオークたちがたむろっていた。
正確には4体。
中くらいのオークが2体、そして大きいオークが一体。
大きいオークの後ろにもう一体、中くらいのオークがいる。
ここからでは重なって三体に見えるが、確かに四体だ。
あいつらはまだ俺達には気付いてなさそうだ。
「困ったなあ。これじゃあの橋を通れねぇ」
「別の橋はないのですか?」
「あるにはあるんだが、ここからだと結構離れててな。試験日までに王都に着けないかもしれねぇんだよ」
『どうしたもんか』とゴートさんは頭を抱えた。
「今から冒険者を雇うにしても、近くの街からだと間に合わねぇだろうし、ここはあいつらがどっか行くまで待つしかねえか……」
待つ?
冗談じゃない。
こちとら早く王都に着きたいんだ。
他に方法がないなら仕方ないか。
俺は腹をくくった。
「俺が倒してきますよ」
「え??」
とゴートさんは困惑したような顔を浮かべた。
「アレぐらいなら十分倒せますよ」
本当は返り血で服を汚すのが嫌だからあまり戦いたくはないのだが。
俺はカバンからナイフを数本取り出した。
「いやいやいや、仮に倒せるにしても、受験生に怪我させる訳にはいかねぇし、万が一ってことが……」
「大丈夫です。任せてください」
「お、おい!」
そう言って俺は慌てるゴートさんを横目に馬車から飛び降りた。
王都グランメルまではあと2日だ。
案外馬車での旅も悪くはなかった。
ゴトゴトと揺れ、乗り心地は良くないが、これも一つの醍醐味だろう。
「兄ちゃん、魔法学院を受けるんだってな。どこを受けるつもりなんだ?」
馬車の手綱を握るゴートさんが話しかけてきた。
「ラドフォーリア魔法学院と、あとクライナート魔法学院を受験するつもりです」
「おお、こりゃあどちらも名門じゃないか!」
そう。
ラドフォーリアは国で一番、クライナートは国で2番目の魔法学院だ。
「兄ちゃん、あんまり強そうには見えないけどなぁ、はっはっ!!まぁ、応援してるぜ!」
その発言に嫌味は感じ取れなかった。
おそらく、思っていることをそのまま口に出したのだろう。
確かに、俺の見た目は自分から見ても強そうには見えない。
筋骨隆々ってわけでもないし、どちらかといえば細いほうだ。
王都に行ったらあんまり舐められないようにしないとな。
「そういえば、ゴートさん、王都ってどんなところなんですか?」
「んーそうだなぁ。俺等のいるグランド王国じゃあ一番の都会だけどよう。俺みたいな田舎もんには、ちと合わねぇな。遊びに行ったり、商売しに行ったりする分にはいいんだけどよう、住むのは勘弁だぜ」
『はっはっ!』と笑って言った。
グランド王国最大の都市、王都グランメル。
一体どんなところなんだろう。
「あとかわいい子はたくさんいるぜ!!兄ちゃんはイケメンだから相当モテるかもなあ!」
嬉しいことを言ってくれるじゃあないか。
そんな事を言われると少し期待してしまう。
バラ色の学園生活というものを!
まぁ、そもそも合格しないと意味がないのだがな。
「でも、貴族連中には気をつけろよ。あいつら、すぐにいちゃもんつけてくるからよう。もちろん、全員がそんな奴らじゃねぇがな。中には良い貴族もいるさ」
そうか。
村では身分なんて言うものはなかった。
全員が等しく平民だったが、王都では違うのか。
言葉遣いとか気をつけた方が良いのだろうか。
「ったく。あいつらときたら、ちょっと生まれが良いからっていっちょ前に威張りあがって」
何か嫌な思い出があるのかゴートさんは怒るようにそう言ってから、『あ、今の発言、ナイショな』
と付け足した。
俺も心構えをしておこう。
なるべく貴族とは関わらない方が良さそうだな。
何か問題を起こしたら面倒くさそうだ。
「特に名家の奴には注意したほうが良いぜ。会ったことはないが貴族の中でも最上位の連中だ。どうせろくな奴じゃないと思うぜ」
名家か。
いくつあるのかは忘れたが、存在自体は俺でも知っている。
代々続いている伝統ある家だ。
家に代々伝わる固有魔法があると本で読んだことがある。
何それめっちゃかっこいいじゃん。
俺も欲しいなあ、と思うが望むべくもないことだ。
国王との関係も密接で、政治にも大きな影響を与えると聞いたことがある。
一体どんな奴らなんだ。
一目見ておきたいな。
さぞかし平民の俺とは違うんだろうな。
礼儀作法とか、言葉遣いとか諸々。
さてと。
会話が一段落したところで、俺はカバンから一冊の本を取り出し、試験に向けて勉強を開始した。
――――――
夜になって俺はいつの間にか眠っていた。
足を三角におり、馬車の壁によし掛かって寝ている所をゴートさんに起こされた。
「おい、兄ちゃん、兄ちゃん……起きてくれよ」
「……ん」
眠たい目を擦りながら、俺は目を開けると何だか焦っているようなゴートさんが正面にしゃがんでいた。
馬車は止まっていた。
月光がゴートさんの姿を薄く照らしていた。
「まずい事が起きちまった」
その一言で完全に目を覚ます。
「まずいこと?」
まさかタイヤが壊れたとか?
馬が怪我したとか?
「ああ、あそこの橋が見えるか?」
そう言ってゴートさんは前方の300メートル離れた橋を指さした。
「暗くて良く見えねぇと思うが、あそこに黒い影が3つあるだろ?おそらくあれはオークだ」
指された方向を凝視すると確かにオークがいた。
橋を塞ぐようにしてオークたちがたむろっていた。
正確には4体。
中くらいのオークが2体、そして大きいオークが一体。
大きいオークの後ろにもう一体、中くらいのオークがいる。
ここからでは重なって三体に見えるが、確かに四体だ。
あいつらはまだ俺達には気付いてなさそうだ。
「困ったなあ。これじゃあの橋を通れねぇ」
「別の橋はないのですか?」
「あるにはあるんだが、ここからだと結構離れててな。試験日までに王都に着けないかもしれねぇんだよ」
『どうしたもんか』とゴートさんは頭を抱えた。
「今から冒険者を雇うにしても、近くの街からだと間に合わねぇだろうし、ここはあいつらがどっか行くまで待つしかねえか……」
待つ?
冗談じゃない。
こちとら早く王都に着きたいんだ。
他に方法がないなら仕方ないか。
俺は腹をくくった。
「俺が倒してきますよ」
「え??」
とゴートさんは困惑したような顔を浮かべた。
「アレぐらいなら十分倒せますよ」
本当は返り血で服を汚すのが嫌だからあまり戦いたくはないのだが。
俺はカバンからナイフを数本取り出した。
「いやいやいや、仮に倒せるにしても、受験生に怪我させる訳にはいかねぇし、万が一ってことが……」
「大丈夫です。任せてください」
「お、おい!」
そう言って俺は慌てるゴートさんを横目に馬車から飛び降りた。
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