おまえじゃない!

野鳥

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平凡な男

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パタパタと走りよってくるその人物はどう見ても平凡な顔をしていて、この屋敷では違和感が凄い。
パッと見だがエルバより少し身長は高い。中肉中背でどこにでも居そうな赤茶色の髪をしている。

「………ねえ」
「え?うわあっ!?」

あんまりにも気が付かないその男に、痺れを切らしたエルバから声をかけた。
かなり近くに居たはずなのにいきなり現れたかのような反応を見るに、かなり鈍いのか目が悪いのか…。

「びっ、びっくりしたぁ…」

少し垂れ気味の薄茶色の瞳をかっぴらいて驚いている男に、エルバは眉間に皺を寄せて「君、誰?」
と冷たく放った。

「え、え、と…」
「不審者?ここの使用人は僕を含めて6人しかいないはずだけど」

上から下からジロジロと眺めてもやっぱり平凡。
その強い視線に、その男はたじろぐ。

「ふ、不審者じゃないです…そこの花壇の野菜に肥料を撒こうと思って…」

確かに持っているのは肥料袋だった。
でもこの男を他の使用人から紹介されていない。
もしかして下っ端も下っ端で僕にすら紹介するほどのものじゃないとか?
……有り得そう。だってここに居るには異分子すぎる容姿だ。どこからどう見ても凡人。

「ふぅん…」

とりあえず不審者では無いという事はわかった。
冷めた目で見られている事に気がついているのか、居心地の悪そうな困った表情で肥料袋を抱えている男に、エルバの興味も失った。
それでも1人でぶらついているよりかはマシか、と、その男に質問をする。

「なに?この野菜はあんたが作ったの?」
「え…う、うん。育てるの…好きだから…」
「へー。…………もしかしてここに居るの長いの?」

野菜は実をつけているものもあれば、まだ苗の状態、種を植えたばかりであろう場所もあった。

「い、一応…長いと思う…」
「……いつから居るの?」

この男、もしや使用人全員と長い付き合いなのか?

「え…」

エルバの気のない様子から一変、少し苛立った口調にビクビクしながらも答えようとした時、

「フェイク」

一言、力強くも腰を蕩けさせる声音がその場を支配した。

「レオクリフさん!!??」

忘れもしないその声の主は執事のレオクリフ。
歩いているのに寸分の乱れも無いその姿は神々しい。

久しぶりに逢えた!!ああ…凄い、あの時よりもっと麗しい…!!

「…………れ、れおくりふ…?」

その男はエルバが逢いたくて仕方がなかったレオクリフをあろう事か呼び捨てにした。

「あ゛?」

思わずドスの効いた低い声が出たが、その声は2人の会話にかき消された。エルバにとっては幸いだったが。

「れ、れおくりふ…」
「フェイク、その仕事はライに任せたはず。なぜフェイクがやっているんだ?」
「え、あ、え?」

どうやらお叱りを受けているみたいだ。
フェイク…この男の名前だろう。見た目通り、仕事も満足に出来ないってことか。

「すいませんレオクリフさん、そのフェイク…さん?ですか?僕、紹介されてなかったので、不審者かと思ってしまいました」

少しでもレオクリフと会話がしたい。視界に入りたい。
エルバはフェイクの事を、僕に紹介されないくらいにどうでもいい人なんでしょう?と言外に含んだ言い方をした。
フェイクとレオクリフの会話に割って入ると、ようやくレオクリフがエルバの方へと意識を向ける。

「ああ、すみません。君にはまだ紹介していなかったですね」

そう言ってレオクリフはフェイクの背中を軽く押してエルバの方へと向け、

「私の下僕です」

と、初めて見る蕩けるような微笑みで言った。


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