プリンセス・サーバンツ

みずほたる

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姫様、神々を従え世界を敵に回す

姫様、帝国を滅ぼすことに決めました

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突然、この国の人が崇拝するはずの将軍様の肖像画が爆発したのも束の間、

聖域の拒絶サンクチュアリ・バリア!」

聖香が咄嗟に防御結界を張ったおかげで無傷で済んだ。

「姫様。ご無事ですか」

そう言いながらもオカリナが大鎌グリムリーバーを構えて戦闘態勢をとっていたのだが、

「戦争映画じゃあるまいしなんの真似じゃ!」

私の純白のドレスが、裾から侵食されるようにドロリとした漆黒に染まりゆく。

それは単なる色の変化ではない。

周囲の光を根こそぎ吸い込み、影が意思を持って蠢き出すような禍々しさだ。

同時に放たれた絶望の波動が、大気を物理的な質量へと変えた。

「っ……!」

結界を張っていた聖香の膝が、目に見えて震え始める。

オカリナもまた、大鎌を杖代わりにしなければ立っていられないほど、重力が増したかのような圧迫に晒されていた。

空気は凍りついたように冷え、肺に吸い込むたびに魂が削られるような錯覚に陥る。

虫の音も、火の弾ける音も、すべての「生」の音が消失した。

「うまく隠れているつもりじゃろうが、闇に押しつぶされたくなければ素直に出てこい」

声は小さい。しかし、それは鼓膜ではなく直接脳髄に響く、逃げ場のない宣告。

厨房の地下、その隠し扉が

「ギギギ……」と、見えない巨大な手にこじ開けられるようにして開いた。

そこから這い出してきたのは、人間の父親、母親、そして幼い子供の家族。

彼らの瞳には、恐怖を通り越した「虚無」が宿っている。私の放つ闇の波動に当てられ、精神の境界線が崩壊しかけているのだ。

「お主らか、ふざけた真似をした愚か者は」

私が一歩踏み出すたび、床のタイルの隙間から黒い霧が噴き出し、家族の足元を蛇のように這い回る。

「……あ、……ぁ……」

父親は、声にならない悲鳴を絞り出すのが精一杯だった。

私は埃まみれになった椅子を手で払い、座ると、

「とりあえず、テーブルを拭くものと、本日のおすすめを三人分いただくとしようかのう」

「え?」

「まさかあのくらいの爆破で店が営業できなくなったと言うまいな」

「……そ、本日のおすすめは、もう、ありません……」

母親が泣き崩れる。

「帝国兵が、食料をすべて持っていきました。あの肖像画を爆破したのは、せめてもの……。殺してください、もう食べるものも、希望もないのです」

「ふむ。ないものは仕方がない。ナチュラル王国に立ち寄って食事をとるとしよう」

私は立ち上がると、聖香とオカリナが言った。

「困っている家族を無視するおつもりですか? 彼らに手を差し伸べるのが姫様の本来の姿かと思いますが」

「そうです。人間を救うという、どうでもいい名目で帝国を滅ぼし領地拡大のチャンスと捉えるべきと進言します」

「うるさいのう。そこまで言うなら二人はこの店を営業できるよう掃除でもしておれ」

私は漆黒の翼を広げると、聖香が尋ねた。

「姫様、どこに行かれるのですか?」

「食料を調達してくる」

とだけ言って店を出て空を飛んで辺りを見渡した。

「さて、首都は......あっちか」

なんとなく嘆きの声、いや、悲鳴が聞こえる気がする。

その方角を黄金の目で凝視すると、縛られている人間が異なる人種に無様に殺されている光景が見えた気がした。

「全く、こんな能力があるから快適なスローライフを送れないのじゃ。誰かもらってくれないかのう」

そんなことをつぶやいて、私はその方角へ向かった。

(さて、物騒な兵器が所狭しと並んでいるが)

相手が気づいていないのか、今回は私めがけてミサイルはまだ飛んでこない。しかし、帝王とやらがいるであろう城みたいのがどこにあるのかわからない。

とりあえず地に降り立ち、情報を得ることにした。

(あれがオークという種族か。力作業にはうってつけじゃな)

建物の影から様子を探ると、オークが奴隷のような格好をした人間たちを馬車馬のように働かせていた。

(さて、絶望の波動を放てば一網打尽にひれ伏させそうじゃが、弱っている人間は間違いなく巻き込まれて耐えられず死んでしまいそうじゃ)

オカリナを連れてきたら孤軍奮闘でなんとかなりそうだが、彼女は今頃あの料理屋を汗水垂らして修復していることだろう。

(目からビーム出したことあるけど、あれって威圧的要素よね。多分)

さて、どうしたもんかと様子を見ていると、

「うわあぁぁ!」

斧を持ち、人間を脅していたオークが突然空から降ってきた大岩に押しつぶされた。

(何故、大岩!)

「さあ、今のうちに逃げるっすよ! この転送装置にのるっす!」

颯爽と現れた青年が地面を光らせると、人間たちは我先にと乗り、消える。

全員送り出したところで青年も乗ろうとしたので、

「待て。貴様は何者じゃ」

青年の前に立ち、話しかけた。

「人のことを聞く前に、まず自己紹介してほしいっすね。ま、見た感じただの女の子じゃないみたいっすけど」

やれやれといった感じで答える青年。

「それは失礼した。妾はスターフィールド国主ミナエじゃ」

「スターフィールド国って古の悪魔姫デビルプリンセスが治めてるくせに、住民の幸福度が世界第十三位ってきいたっす」

「なんか微妙な順位だし、誰が調べたのじゃ」

「俺と同じ転生人でランキング大好きっ子が毎月更新しているから聞いてるっす」

「また変わった奴がいたもんじゃが、妾があれだけ睡眠時間を割いているのに十三位とは。ちなみにどのような理由でそのような順位なのじゃ?」

「詳しくはわからないっすから本人に聞くのが一番っす。よかったら紹介するっす」

「そうじゃな、妾もランキング大好きじゃ。宮殿に来るよう伝えよ」

「わかったっす。じゃ」

「待て。貴様は何者じゃ」

「忘れてたっす。俺はメシマル。一言でいうと罠師っすね」

罠師。言われて洞窟で地面を踏んだら岩が後方から転がってきたり、トゲトゲが左右から突然現れたりしてくるやつを想像した。

「俺、死ぬ前は売れないお笑い芸人だったんすけど、ドッキリに憧れてたっす」

「あ、そっち」

「で、ついに電気椅子に引っかかるオファーをもらってリハーサルで意気揚々と座ったら、椅子が重みに耐えられず壊れて、椅子の身代わりとして天使から死亡判決を受けたっす」

「椅子の身代わりで死亡って初めて聞いたぞ」

「ま、俺デブだったし、椅子に非はないから仕方ないっす。で、天使が三つ願いを言えって言うから、客の笑顔が見たい。身軽に動ける体型になりたい。逆にドッキリを仕掛けたいって願ったら、あちこちに罠を仕掛けられるようになったっす」

「魔法トラップみたいな感じかのう?」

「おっと、ネタバレは禁止っす。でもこの地は帝国に食り尽くされ、みんな死んだ顔をしてるっす。転送装置の罠を作っては何人かを逃がすのに精一杯っすね」

メシマルは、身軽になった体でひょいと肩をすくめた。その目は笑っているが、どこか自嘲気味だ。

「……ふむ。客の笑顔を願った者が、絶望しか生み出さぬこの国にいるとは、皮肉な話じゃな」

「ほんとっすよ。楽しい転生生活のはずがとんでも生活っす。……あ、ヤベ。追っ手が来るっすね」

彼が指差す先、瓦礫の向こうから金属音が響いてくる。帝国兵、それも先ほどのオークよりはるかに禍々しい魔力を纏った重装歩兵の集団だ。

「あんたも一緒に来るっすか? まだ間に合うっすよ」

そう言われて私は空を見上げて答えた。

「いや、妾はこの帝国とやらを滅ぼすことに決めたから、行かぬ」
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