光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣

文字の大きさ
3 / 16

3.変貌した彼女

しおりを挟む
 打ちどころが悪かったのか、クリスティンの言動は確かに、いつもと違った。
 
 まだ微熱があるようなので、長居はせず、アドレーとラムゼイは公爵家をあとにした。
 
 
◇◇◇◇◇
 
 
 ――クリスティンはその後、変貌した。
 
 
 今までのような、わがままで不健康な令嬢ではなくなった。
 華美な格好を必要なとき以外しなくなり、様々なことに、一生懸命に取り組む努力家と変わった。
 その姿は眩しいくらいに輝いていて、目を奪われた。
 まるで違う人間になったようだ。
 
 義務感ではなく、自らの意思で彼女のもとを訪れるようになっていた。
 しかしクリスティンは変わりはじめたころから、アドレーに対し、よそよそしい。

(どうしてなんだ)
 
 自分は彼女に何かしてしまったのだろうか。
 避けられるようなことをした覚えはなかった。
 以前は慕ってくれていたように思う。
 媚びないところは好印象なのだが、もっと自分に甘えてほしい。
 
 
◇◇◇◇◇
 
 
 十五歳の春、アドレーは魔力を持つ者の義務として、王立魔術学園に入学した。
 
 王太子であるアドレーは一年生で生徒会長となり、右腕のラムゼイは副会長となった。
 生徒会室のある校舎一階には、ラムゼイ専用の研究室がある。
 公爵家の力を使って学園側に用意させたのだ。
 
 アドレーは研究室の窓辺で、物憂く愚痴った。

「私はそれほど魅力がないのだろうか……」
「なんだ、急に」

 幾つかの液体を混ぜ合わせていたラムゼイは、こちらにひんやりとした目を向けた。
 悩めるアドレーは、眉間を親指と人差し指で押さえる。

「クリスティンが……そっけない……。全く心を開いてはくれないんだ……」

 ラムゼイはフン、と鼻を鳴らした。

「それはあの娘がおかしい」

 彼は部屋の端に置かれた長椅子に、ドカッと座る。

「おまえは外見も性格も良く、他の女にフラフラする浮気性でもない。完璧な、本物の王子様だ。あの婚約者がとんでもなくおかしい」
「クリスティンはおかしくない」

 アドレーが反論すると、ラムゼイは銀の髪を煩わしげにかきあげた。

「いや、変だ。あんな女、他に知らんな。おまえに靡かない女など」

 アドレーは目を眇めた。

「ラムゼイ。おまえ、クリスティンのことを気に入っているじゃないか」

 親友は、以前クリスティンを疎んじていたが、彼女が変わりはじめた頃から、強い関心をもっているのだ。
 彼は眉を上げ、横を向く。

「彼女の魔力も含め、興味深い対象だ」

 週末になると、ラムゼイは屋敷で、クリスティンに魔術の指南をしていた。
 彼の家は魔術の研究をし、医薬品の販売もしている。
 身体の弱いクリスティンは、ラムゼイに教えを請い、薬を作り出していた。
 
 屋敷に戻る週末を、ラムゼイがひそかに楽しみにしているのをアドレーは知っている。
 
 アドレーは重い息を吐く。

「早くクリスティンに入学してもらいたい。彼女にも生徒会に入ってもらうんだ。そうすれば会う機会が増える」
 
 彼女はアドレーと過ごすより、今はたぶんラムゼイと過ごす時間のほうが長い。
 クリスティンは真剣に魔術を学んでいるので、それを止めるようなことはしていない。

(だが、複雑だ)
 
 魔術剣士のリー、彼女の義兄スウィジンに対しても。
 クリスティンはリーからは剣術、スウィジンからは歌を学んでいる。
 リーへの橋渡しをしたのは、アドレーだった。
 仲介するのではなかったと、正直後悔している。
 
 アドレーも腕は立つ。
 クリスティンを守るくらいはできるのだが、彼女は自らの身は、自らで守りたいらしい。
 リーからは事細かに、指南の際の報告を受けていた。
 彼女を意識しているのがありありとわかる内容だ。
 
 クリスティンはアドレーには、何も請おうとはしない。

(誰より、クリスティンと過ごす権利があるのは、婚約者である私ではないか)


 それで半ば無理やり、アドレーは得意のダンスを教えることにした。
 彼女はダンスが下手というわけではない。
 ただ、アドレーが彼女と共に過ごす時間がほしかっただけである。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に

ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。 幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。 だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。 特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。 余計に私が頑張らなければならない。 王妃となり国を支える。 そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。 学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。 なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。 何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。 なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。 はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか? まぁいいわ。 国外追放喜んでお受けいたします。 けれどどうかお忘れにならないでくださいな? 全ての責はあなたにあると言うことを。 後悔しても知りませんわよ。 そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。 ふふっ、これからが楽しみだわ。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【完結】悪役令嬢な私が、あなたのためにできること

夕立悠理
恋愛
──これから、よろしくね。ソフィア嬢。 そう言う貴方の瞳には、間違いなく絶望が、映っていた。  女神の使いに選ばれた男女は夫婦となる。  誰よりも恋し合う二人に、また、その二人がいる国に女神は加護を与えるのだ。  ソフィアには、好きな人がいる。公爵子息のリッカルドだ。  けれど、リッカルドには、好きな人がいた。侯爵令嬢のメリアだ。二人はどこからどうみてもお似合いで、その二人が女神の使いに選ばれると皆信じていた。  けれど、女神は告げた。  女神の使いを、リッカルドとソフィアにする、と。  ソフィアはその瞬間、一組の恋人を引き裂くお邪魔虫になってしまう。  リッカルドとソフィアは女神の加護をもらうべく、夫婦になり──けれど、その生活に耐えられなくなったリッカルドはメリアと心中する。  そのことにショックを受けたソフィアは悪魔と契約する。そして、その翌日。ソフィアがリッカルドに恋をした、学園の入学式に戻っていた。

処理中です...