8 / 16
8.撃退
しおりを挟む
──そういえば。
先日、学園で不審な者に言われたことをふいに思い出す。
『──殿下の婚約者には秘密がある。婚約者と殿下は結ばれない運命だ』
誰もいない廊下で、通りすがりに預言のように言われた。
フードを被り、マントを纏った人物であった。
振り返れば、その人物はすでにいなかった。
忽然と消えていたのである。
いかにも怪しかったし、縁起でもない言葉だった。
一体あれは何者だったのだろう。
クリスティンと結ばれない、など……。
余りにクリスティンがつれないので、白昼夢でもみたのだろう。
アドレーは先日と同じ結論を出し、忌まわしい出来事を記憶の彼方にやる。
クリスティンの眠りを邪魔しないよう、静かに傍で見守った。
彼女の寝顔は、今は安らかだ。
景色の良い場所で、愛する相手と二人きり。
近くで彼女を見つめることができ、これはこれで満足だ。
(髪くらいなら)
手を伸ばして、クリスティンの髪を掬い取る。毛先まで指を通して弄んでいると、彼女はふうっと瞳を開けた。
「!? アドレー様……」
彼女はアドレーを見て、色を失くす。
悲鳴でもあげそうだった。
(髪に触れていただけだが)
いや、その前に、額に口づけたりは、した。
恐怖の表情に、アドレーは傷ついた。
クリスティン以外の異性は、アドレーと目が合えば、頬を薄桃色に染めあげる。
が、クリスティンに限っては、違う。青くなる。
「うなされていたよ」
自分が彼女の額に口づけて、愛を囁いたのが原因とは思いたくない。
「……申し訳ありませんでした。わたくし、夢を見て……」
「どんな夢?」
「……将来のですわ……」
「将来について心配することはない。君のことは私が守るから」
するとクリスティンは、紫の双眸を鋭く光らせた。
「アドレー様……」
彼女は真剣な眼差しでアドレーに告げる。
「少しの間、動かないでくださいませ」
「え?」
クリスティンはアドレーに身を寄せた。
どうしたことだろう!
アドレーは歓喜を覚える。
「クリスティン」
彼女の背に手を回そうとすれば、クリスティンはすっと身を起こして、アドレーの横を通り過ぎ、突如駆け出した。
彼女の向かう先に、四人の男がいて、彼らは剣を手にしていた。
「!? クリスティン!?」
アドレーが立ち上がれば、クリスティンは振り返らずに言った。
「アドレー様、すぐに終わらせます、そのままで」
彼女はダガーを取り出し、放つ。
それが男の服に刺さり、男は木に縫い付けられた。
クリスティンは男から剣を奪い、舞うように芸術的に敏捷に立ち回り、あっという間に男達を倒してしまった。
「アドレー様、もう動かれても大丈夫です」
棒立ちになっていたアドレーは、彼女の傍まで行った。
見た感じ、男達は追い剥ぎのようだ。
「クリスティン、君、怪我は!? 大丈夫か!?」
クリスティンは、立ち回ったあととは思えないほど、落ち着いた呼吸で、優雅に言う。
「大丈夫ですわ。怪我もしておりません。失礼いたしました。剣を持ってこちらに近づいてくる彼らがみえましたので」
身体を動かしたことで、頬は薔薇色となり、瞳はきらきらし、生き生きとしていた。
アドレーは呆然としつつ、そんなクリスティンに見惚れてしまった。
彼女と一緒に、男達が持っていた縄で、気絶した彼らの手足を縛りあげる。
「わたくしを狙った刺客かと一瞬思ったわ……でも運命の夜会はまだ先だし……時期的に違う……。けれど気は抜けない……」
「え?」
独り言つクリスティンに、アドレーは瞬く。
「いえ。おほほ。この者達を捕まえてもらいましょう、アドレー様」
それで王宮に戻り、衛兵に男達を捕らえさせた。
偶然森に居合わせ、身なりのよいアドレー達に目を付け、襲おうとしたようだ。
「あの姉ちゃん、信じられねぇほど強ぇ……。何者だ。殺されるかと思った」
取り調べで、男らはそう語った。
名を馳せた悪党だったようだが、クリスティンは物の見事に撃退した。
先日、学園で不審な者に言われたことをふいに思い出す。
『──殿下の婚約者には秘密がある。婚約者と殿下は結ばれない運命だ』
誰もいない廊下で、通りすがりに預言のように言われた。
フードを被り、マントを纏った人物であった。
振り返れば、その人物はすでにいなかった。
忽然と消えていたのである。
いかにも怪しかったし、縁起でもない言葉だった。
一体あれは何者だったのだろう。
クリスティンと結ばれない、など……。
余りにクリスティンがつれないので、白昼夢でもみたのだろう。
アドレーは先日と同じ結論を出し、忌まわしい出来事を記憶の彼方にやる。
クリスティンの眠りを邪魔しないよう、静かに傍で見守った。
彼女の寝顔は、今は安らかだ。
景色の良い場所で、愛する相手と二人きり。
近くで彼女を見つめることができ、これはこれで満足だ。
(髪くらいなら)
手を伸ばして、クリスティンの髪を掬い取る。毛先まで指を通して弄んでいると、彼女はふうっと瞳を開けた。
「!? アドレー様……」
彼女はアドレーを見て、色を失くす。
悲鳴でもあげそうだった。
(髪に触れていただけだが)
いや、その前に、額に口づけたりは、した。
恐怖の表情に、アドレーは傷ついた。
クリスティン以外の異性は、アドレーと目が合えば、頬を薄桃色に染めあげる。
が、クリスティンに限っては、違う。青くなる。
「うなされていたよ」
自分が彼女の額に口づけて、愛を囁いたのが原因とは思いたくない。
「……申し訳ありませんでした。わたくし、夢を見て……」
「どんな夢?」
「……将来のですわ……」
「将来について心配することはない。君のことは私が守るから」
するとクリスティンは、紫の双眸を鋭く光らせた。
「アドレー様……」
彼女は真剣な眼差しでアドレーに告げる。
「少しの間、動かないでくださいませ」
「え?」
クリスティンはアドレーに身を寄せた。
どうしたことだろう!
アドレーは歓喜を覚える。
「クリスティン」
彼女の背に手を回そうとすれば、クリスティンはすっと身を起こして、アドレーの横を通り過ぎ、突如駆け出した。
彼女の向かう先に、四人の男がいて、彼らは剣を手にしていた。
「!? クリスティン!?」
アドレーが立ち上がれば、クリスティンは振り返らずに言った。
「アドレー様、すぐに終わらせます、そのままで」
彼女はダガーを取り出し、放つ。
それが男の服に刺さり、男は木に縫い付けられた。
クリスティンは男から剣を奪い、舞うように芸術的に敏捷に立ち回り、あっという間に男達を倒してしまった。
「アドレー様、もう動かれても大丈夫です」
棒立ちになっていたアドレーは、彼女の傍まで行った。
見た感じ、男達は追い剥ぎのようだ。
「クリスティン、君、怪我は!? 大丈夫か!?」
クリスティンは、立ち回ったあととは思えないほど、落ち着いた呼吸で、優雅に言う。
「大丈夫ですわ。怪我もしておりません。失礼いたしました。剣を持ってこちらに近づいてくる彼らがみえましたので」
身体を動かしたことで、頬は薔薇色となり、瞳はきらきらし、生き生きとしていた。
アドレーは呆然としつつ、そんなクリスティンに見惚れてしまった。
彼女と一緒に、男達が持っていた縄で、気絶した彼らの手足を縛りあげる。
「わたくしを狙った刺客かと一瞬思ったわ……でも運命の夜会はまだ先だし……時期的に違う……。けれど気は抜けない……」
「え?」
独り言つクリスティンに、アドレーは瞬く。
「いえ。おほほ。この者達を捕まえてもらいましょう、アドレー様」
それで王宮に戻り、衛兵に男達を捕らえさせた。
偶然森に居合わせ、身なりのよいアドレー達に目を付け、襲おうとしたようだ。
「あの姉ちゃん、信じられねぇほど強ぇ……。何者だ。殺されるかと思った」
取り調べで、男らはそう語った。
名を馳せた悪党だったようだが、クリスティンは物の見事に撃退した。
78
あなたにおすすめの小説
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
婚約破棄は踊り続ける
お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。
「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」
婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます
ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」
王子による公開断罪。
悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。
だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。
花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり——
「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」
そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。
婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、
テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる