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第2話 やっぱり王子を泣かせたい!
(10)嫉妬でSIT!!!
しおりを挟む──何故こんなことになっているのかしら?
話があるから放課後生徒会室へ寄ってくれ、とジェラルドに呼び出されたはずなんだけれど、渋々寄ったら──ジェラルドじゃなくてリオルドがいた。
ああ、もちろん二人きりじゃないわよ?
何故か今は空気のようになっているけれど、この部屋には私たちの他に生徒会のメンバーがもう一人いる。
ジェラルドが来るまでお茶でも飲んで待ってようとしたら、リオルドに自分の分もいれてくれと頼まれた。
「お砂糖は?」
「五個入れてくれる?」
うわぁ……かなりの甘党ね。五個も入れたら激甘よ? ドロドロ紅茶になりそう……。
ジェラルド用の紅茶にはよく砂糖と塩を間違えて入れちゃってたけれど、今は間違える必然性がない。普通に角砂糖を五個落として混ぜた。
「ねぇ……ドーラちゃんがあいつと婚約破棄しようとしているって聞いたんだけど」
えっ。
その話、まだジェラルドとお父様にしかしてないんだけど。
たった二回しか会ってないリオルドが何故知ってるの?
私が驚きで目を見張ると、リオルドはおかしそうに笑った。
「あー……あの噂、やっぱり本当だったんだね」
その瞬間、鎌をかけられたのだと悟った。
──こんな手に引っかかって、感情を顔に出してしまうなんて……私もまだまだ修行が足りないわね。
もしこれが私が敬愛する王妃様なら、相手に動揺を悟らせることは決してないのでしょうね。
王妃様は、国王陛下の『四月のイタズラ』で「ジェラルドが……あの子が事故に合って大怪我をしたらしい!」と聞かされた時も、眉ひとつ動かさなかったらしい。
まさに鋼の女よね。かっこいいわ。
それも人の親としてどうかと口さがなく言う人間もチラホラいるけれど、国の政を担う為政者の一人としては正しい姿だと思うのよね。
ま、それが嘘だとわかると、国王陛下は口には出せない世にも恐ろしい報復を受けたそうだけど……ガクブル。ちなみに国王陛下は一週間ほど寝込んだそうだ。
私が病み上がりにお会いした時は、以前ふくよかだった面立ちが若干シュッとなられてたわ。
いいかしら?
この話の一番教訓は、何があっても王妃様だけは敵に回しちゃいけないってことよ。
国王陛下も国王陛下よね。王妃様がそういう性格だってわかっているでしょうに。それでも立ち向かっていくその勇気……じゃなくてただの無謀っぷり。どこかの誰かさんそっくりだわ、ホント。
「こんなにも素晴らしい婚約者を手放そうとするなんて、あいつ馬鹿だな」
リオルドがゲロ甘紅茶をすすりながら言った。
「……」
馬鹿なのには同意するけど、他人に言われると何だか腹が立つわね。
最近じゃそこまで馬鹿じゃないのよ? 馬鹿だけど。
相変わらずブスとしか呼ばないし。
でも、モヤモヤするのはなぜなの?
モヤモヤと連動するかのように、眉がピクピクしちゃう。
そしてそんな私に向かって、隣国の王子様は更に特大の爆弾を落としてきた。
「ねぇ、ドーラちゃん。ジェラルドなんかやめて僕にしとかない?」
「へぁ?」
想定外すぎて変な声が漏れちゃった。今度こそ修行不足を痛感したわ。
告白もどき──のように見えて、実は罠かなにかかしら?
「こう見えて意外と一途だし。王位継承権は第三位だから王妃にはしてあげられないけど一応王子だし。苦労はさせない。君を悲しませることも絶対にしないと誓うよ」
いえ、告白だったわ。
あんまりにも真面目な顔をして言うから、うっかり本気にしてしまいそうになる。恐るべきイケメンの目力よ。危ない危ない。
悪役令嬢がヒーローから口説かれることなんかあるはずがない。
「お戯れはやめてくださいまし」
「本気なんだけどな」
切なげに揺れたのは、ジェラルドより少し濃い青の瞳。私は彼から目を逸らした。
本気なのかしら……いいえ。本気であるはずがないし、本気にしたらダメよ。
だって、彼を好きになったところで。
私はまた乙女ゲームの影に怯えなければならないんでしょう? やっぱりそんなのゴメンだわ。
そうこうしていると、廊下からドカドカドカッ! という激しい足音が響いてきた。
「ああ、残念。時間切れみたいだ。あは! あいつめちゃくちゃ怒ってんな。またね、ドーラちゃん」
「ごきげんよう、リオルド殿下」
リオルドはすっと私の手をとると、軽く口付けた。
「……っ!」
「また会えるようにおまじない。さっき言ったこと、僕は本気だからね、考えておいて! じゃあ!」
──ガタッ!
リオルドはさっと身を翻して──何故か窓から外へ出ていった……何故、窓?
──バッターンッ!
その後すぐに、生徒会室のドアが、壊れるほどの勢いで開いた。
「おい、ブス!」
あら。クソバカ王子の登場だわ。
額に汗なんか垂らしちゃって。無駄に色気が出てきたわね、ジェラルドってば。
いつも通りのブス呼ばわりで、さっきまでの甘かった雰囲気が霧散して日常に引き戻される。
彼のその言葉を聞いて、ちょっとだけホッとしたのは誰にも内緒だ。
「リオルドと何をしゃべってたんだ?!」
窓から出ていったリオルド。
すれ違ってはいないはずなのに、彼が今までここにいたことを何故知っているのかしら?
不思議に思って首を傾げると、ジェラルドは私の肩をつかんでグッと引き寄せた。
綺麗な顔が近づいて……べ、別にドキドキなんかしてないんだから!
変な汗が出てきたけど、こ、これは無駄に顔がいいから緊張してるだけよ?
「ただの世間話ですわよ」
「お前は俺の婚約者だろっ?! 何で他の男とくっちゃべってるんだ?!」
「あーら? もしかしてヤキモチかしら?」
「なっ! ヤキモチなんか妬いてない! これは命令だ。金輪際あいつと口をきくな!」
──やれやれ。話にならないわ。
自分はヒロインちゃんと仲良くしてるくせに、ただの婚約者でしかない私を束縛してくるなんて、本当にいい性格してるわね。
私はため息をつきながら席を立った。
「ま、まだ話は終わってないぞ!座れ!」
「……」
私が冷ややかな視線で一瞥すると、ジェラルドは肩をビクッと揺らした。
「おい、ブス! リオルドに愛称で呼ばれたくらいでいい気になってるんじゃないだろうな? 俺との付き合いの方が長いはずなのに! ……あいつなんかより俺の方が先に愛称で……クソッ!」
「別にいい気になんかなってませんわ。愛称だって、リオルド殿下が勝手に呼んでいるだけですもの」
「そ、それならば俺も……いや、やっぱりいい。まさか、お前もやっぱりリオルドのことが好きなのか?」
その瞬間、少しだけジェラルドの青い瞳が揺らめいて──。
「……っ!」
──あ。泣く?
予想外の反応に思わず息を呑んだけれど、ジェラルドはぷいっと私から目を逸らしてしまった。
「お、お前の婚約者は俺だ! いくらリオルドが好きでも、お前たちは絶っっっ対に結ばれないぞ。残念だったなっ! ふんっ!!!」
彼はわずかに震える声で吐き捨てるようにそう言うと、そのまま立ち去っていった。
ポツンと残されたのは私一人……なんだけれども。
ジェラルドはさっき、何て言ったのかしら?
『お前もやっぱりリオルドのことが好きなのか?』
まさか。
まさか。
まーさーか。
いえ、そんなはずは……でもそうとしか。
まさか、ジェラルドがリオルドのことを好きだったなんて──!!!
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