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(12)モフモフの名付けをする課長
しおりを挟む「近江くん、一体何をしておったんだね?」
フェンリルと一緒に戻った俺は、呆れたような顔の課長に迎えられております。
「いやぁ……何か懐かれちゃいまして……?」
ポリポリと頭を掻きながら、こてん、と首を傾げてみた。
わかってる。うん。
わかってるよ!
可愛い女の子がやってこそのポーズだってことは!
他にいいポーズが思いつかなかったんだ。許してくれ。
「君が川からなかなか帰ってこないから心配したんだぞ」
ごもっともです……。
そりゃ心配になるよね。
俺はとりあえず、課長にこうなった経緯を簡単に説明をした。
ゴブリンに襲われたことから、ここがモンスターの出る森だろうということ。
襲われそうになって逃げた先で、このフェンリルに捕まったこと。
「ふむ……この犬は随分君に懐いているようだな」
やばっ! こいつは犬って言われると怒るんだ! 課長が危ない!! 課長の後頭部を守らなきゃ!!!
「課長、こいつは犬なんかじゃ……」
俺がそう口にしようとすると、フェンリルは突然寝っ転がった。
「はぁっ……?!」
腹を上にしてゴロンと寝転がっている。
「えぇっ……?!」
──くぅん。
「おお、よーしよし! 家のウメコに似ているな」
課長はでれっと眉尻を下げながら、フェンリルの腹を撫で回している。まるで孫娘を見つめるおじーちゃんのようだ……。
対するフェンリルの方はと言えば。
──くふぅん。
課長にお腹を撫で撫でされて幸せそうな顔をしている。
おい。
俺の時と態度が違わないか、こいつ──?
まさか、課長がテイマーのスキル持ちだとか、そういうオチじゃないだろうな?
「俺より課長に懐いてますねぇ……」
何だよ。俺の方はもう見向きもしないじゃないか!
「……」
別に悔しくないし?
さ、寂しくなんかないし?
「そうかね? ははっ! 可愛いじゃないか!」
課長が撫で撫でに戻ると、フェンリルはますます気持ちよさそうに目を細めた。
「おや。こいつは雌のようだな……」
そう言われて俺も確認してみれば、雄ならついているはずのものがない。雌雄同体じゃなきゃ雌ってことか。
「名前を決めんといかんな……」
「あっ、ちょっ……!」
俺だってフェンリルの名前とか決めてみたい!
「お前はウメコにしよう! 雌だしちょうどいい!」
──わふっ!
がーん。
いや、ウメコがダメだと言ってるわけではない。決して。
でも、ほら!
もうちょっとこう、かっこいい名前があるじゃないか!
よりによってウメコとか……おばちゃんとかおばあちゃんの名前じゃない、それ?!
せめてコウメちゃんとかにしない?!
俺の親戚のおばあさんが梅子さんだったよ!
しかし、俺の意に反してフェンリルはその名前を気に入ったようで、課長の顔をベロベロ舐めまわしている。
課長の少ない毛髪がべっちょりして地肌に貼りついてる……。
ま、本人(犬?)が気に入ったならいいか。
俺は、こう……もっと特別でカッコいい名前を付けたかったんだけどな。
え? 例えば?
そうだなぁ……例えば、シルフィードとか。銀河とか。フェンリルと言えば狼型魔獣だからだからウルフズベイン(※トリカブト)とか。ヴォイド(※虚無)とかラグナロクとか……。
「……」
あー……うん。やっぱウメコでいっか。
危うく黒歴史が口からこぼれそうになったわ。危ない危ない。ふぅ……。
ウメコだな、ウメコ!
うん。ちゃんと女の子の名前だし。
梅干しは美味いし!
「ウメコは梅干しが大好物でな……」
って、おーい、おっさん!フェンリルに何やってんの?!
「課長! 犬には梅干し与えちゃダメですってば!」
が、時すでに遅し。フェンリルは課長の手元から梅干しを奪い取って、もぐもぐしてる。酸っぱくて口がキュッてなってるのがちょっと可愛い。
「私が漬けた減塩梅干しだからそんなに心配は要らないぞ。梅を干す時にちょっとした工夫をするだけで、梅自体の旨み成分が増えて塩分を控えても充分美味くなるのだよ! これでも梅干しソムリエの資格も持っているからな!」
そう言われてホッと胸を撫で下ろした。
そう。シアン系の中毒を起こす生の梅とは違い、梅干し自体には毒性があるわけじゃないんだけど、塩分が大量に含まれていることがあるので、身体の小さな犬の場合は特に注意が必要だ。
つか、梅干しソムリエって何?!
そして、ウメコはその梅干しを気に入ったようで、課長にもっともっと! と催促するように鼻先を擦り付けている。
「はははっ! 気に入ってくれたかね。減塩とはいえ何事も食べ過ぎはよくないからな。後一つだけだぞ?」
まぁ、よく考えてみたらウメコは身体も(俺より)でかいから、梅干しを樽ごとでも食べない限りは血中の塩分濃度が急激に上がることはないだろう。
それにしても、課長が漬けた梅干し……美味そうだ。
俺も、次のご飯の時に一粒お願いしてみようかな。
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