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(13)仲間と出会った課長
しおりを挟む結局、その日は煙の元へ辿り着くことはできずに、森の中で一泊することになってしまった。
その煙は今日もまた上がっていた。
課長が高い木に登って確認してた。木登り検定とやらもあるらしい。もはや何でもありだな。
多分最初に見たのと同じ方角だろうとのことだ。
ということは、同一人物の可能性が高い。
あれから、ゴブリンや他のモンスターらしきものに出会うことはなかった。
課長曰く、ウメコを連れているからではないかとの事。
確かに、フェンリルと言えば随分高位の魔獣だったはずだしな。ラノベの設定上で聖獣にされている場合もあるし。
時々ウメコが、威嚇するように何もない方へ向かって唸ることがあるので、番犬よろしくあれで追い払っているのかもしれない。
ウメコすげぇな。
それにしても、昨日も今日も右も左もわからない森の中。
まるで某有名樹海にでも入り込んでしまったようだ。
こんなに広い森の中で誰かを探そうなんて、一体なぜそんなことを考えたのだろう。
それよりも、森を出て町や村なりを探し出した方が建設的なのではないか──そう思い出した頃だった。
「この先だな」
「ですね……俺、先に行きますね!」
もしかしたら、危険な原住民かもしれないし。
小柄な課長より、ガタイのいい俺の方がはったりは効くだろうから。
俺は、先陣を切った。
「……こ、このえ……?」
たき火がゆらゆらと揺れている。
その先には元の世界で見慣れたテントがあって。
テントの側の木にハンモックが吊ってあって。
ハンモックに揺られていた人物は、俺の声にゆっくり振り返る。
振り返ったその顔は、見覚えがあり過ぎて。
思わずガン見してしまった。
「あれ? 近江先輩? と、五島課長じゃないですか!! うわぁ、お二人とお会いできて嬉しいです! ものすごく心細かったんですよ!」
感極まって抱きついてでもきそうな勢いで、彼はハンモックから降りてきた。
そんな彼の前を白い影が横切った。
──わふっ!
思ったより自己主張激しい奴だな。
「わぁっ! 大きなワンちゃんですねぇ」
「あ、ちょ、九重。そいつは犬じゃなくてだな……」
──わふぅ!
もう、犬でいいらしい。
フェンリルの自尊心とかはないのだろうか?
ウメコは俺の時と同じように、九重の手に自らの額を擦りつけていた。
もはや、愛想の大安売りだ。
こいつ、実は節操なく人懐っこいだけなんじゃないだろうか?
勝手に裏切られたような気分になって、ちょっと恨みがましい視線をウメコに送った。
「名前はあるんですか?」
「ウメコと名付けたぞ」
──わふっ!
「ウメコちゃんって言うんですねぇ。古風な名前で大変可愛らしいです!」
九重は、ニコニコしながらウメコの頭を撫でて言った。
これは決してお世辞なんかじゃない。
こいつは本気でそう思ってるに違いない。
俺の知る九重理玖はそういうやつだから。
彼は何と、俺や課長が働く九重物産の社長の息子だ。
そして、高身長、高学歴、高収入と、ハイスペックなイケメン男子でもある。
彼は社会勉強の一環として二課に配属されていた。
本来ならば気軽に声をかけたりできないような存在なんだろうけれど、九重はそれを鼻にかけるようなやつじゃなかった。
俺みたいなのでも、きちんと「先輩」として慕ってくれてるんだよね。ありがたい。
そしてモテる。それはそれはおモテになる。
今年のバレンタインなんて凄かった。
出社したら、机に高級そうなチョコが山積みになっていて、二人で苦笑してたっけ。
俺としては羨ましい限りなんだけど、本人はちょっと困ってたみたいだ。モテ過ぎるっていうのも考えものなんだな。
社内でも、常に女性社員にひっつき回られるせいか、女性とはあまりしゃべらずにすぐ俺のところに来ていたよな。
まぁ、いわゆる駆け込み寺的存在?
そんで、俺のつまんない話とかも真剣に聞いてくれて……とにかく良い奴なんだよね。
その九重が、なんでこんなところに──?
「避難訓練に参加していたはずなんですけど、気づいたらこの森の中だったんですよねぇ……」
俺たちと同じように異世界へ来てしまったらしい。
「それで、困ったからとりあえずキャンプをしていたんですけど……」
「な、なんでテントなんか持ってるんだ、お前……?」
「えっ……? だって、避難訓練ですよ?」
「避難訓練だろ?」
「やだなぁ、先輩! 訓練だからって手を抜いちゃダメですよ! どんな災害が起きても対処できるように、どんなサバイバルな環境でも生き残れるように、普段から備えておくのが大切ですからね!」
「九重くん、よく言った!」
「備えあれば憂いなし。だからこうして今ここでも暮らしていけるわけで……」
「暮らしてるんかい?!」
色々とツッコミが追いつかないぞ。
訓練だからって、持ち出し袋を持ち出さない俺がおかしいのか?
テントやハンモックを用意しない俺の方がおかしいのか?
二人にそう言われると自信がなくなってく……いや。
いやいやいや。
やっぱり、事前準備の抜かりなさ過ぎるこの二人だけが例外に違いない。
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