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(16)拾い物をしたようです、課長
しおりを挟む「お願いします! わたしも一緒に連れて行ってください!」
「ここは近江くんに任せるよ」
「あ、僕も先輩の決定に従いますよ!」
──わふ!
ええぇ……いきなり決定権を委ねられても困るんだけど?!
俺は戸惑いながらも、どうしてこんなことになったのか思い出していた。
◇◇◇
とりあえず村か町へ向かうことにした俺たちだったが、問題は課長のスーパー眼鏡でしか見えないほど遠くにあるってことだ。
いくら移動手段が馬(と、フェンリル)とはいえ、二、三日の野宿は必須だった。
何でそんなに遠くまで見えるの?
実は双眼鏡じゃないの、その眼鏡?!
まぁ、九重がテントを持ってたこともあって、野宿は楽勝レベルだった。
野宿から野営にグレードアップして、普通にキャンプ同好会みたいなほのぼのした感じになっちゃってるけど。
九重と課長の手持ちの保存食合わせたら多分、一ヶ月くらいは余裕でキャンプ暮らしできそう。うん。そんなこと考えたくはないけど。
もうそろそろ人間のオイラたちにも、肉眼で村か町が見える頃だろう野宿二日目。
それは落ちていたのだ。
草っ原のど真ん中に。
ひとしきり走って野営地を決めた頃、辺りを見回りという名の散策に行っていた九重が、何かを抱えて戻ってきた。
「げっ?! お前、何持って帰ってきてんだ?! それ死体じゃないのか?! まさか、食べる気じゃ」
「な……ないない! ないですよ! 何言ってんですか?! それに、死体じゃなくて生きてますよ、この人!」
「へっ……? 生きてる……生体……新鮮な……」
「だーかーらぁ、違うって言ってるでしょ?! 人間は食べません! 全く、先輩は僕のことを何だと思ってんですか?!」
ブツブツ言いながら、九重はそれを地面にドサッと置いた。
意外と生きてる人間にも容赦ねぇな?
──わふわふ!
ウメコが警戒するように鳴きながら近づいて、その死体のようなものに鼻を近づけたが……。
──きゅうん!
情けない声を上げながら飛びずさって、どこかへ逃げて行った……とっても臭いらしい。
「どれどれ? 怪我などはないようだし、モンスターに襲われた訳でもなさそうだ。脈拍も正常なのだが……その割には衰弱しているように見える……」
早速課長が冷静に検診? というか観察している。
医者でも看護士でもないのに……とか、そんな野暮なことはもはや言うまい。
この人が実は医者の免許持ってるとか言っても、驚かない自信があるぞ!
ま、さすがに医者の免許持ってたら、あんなブラック会社で働かないだろうけども。
──ぐぅぅ……ぎゅるぎゅるぎゅるぅ~。
その時、派手な音が鳴った。
俺たち三人は顔を見合せた。
ああ、この音はよく知ってる──。
◇◇◇
──ガツガツガツ……。
「よく食うなぁ……」
「はひっ! むぐむぐむぐっ!」
「ちゃんと噛まんと喉につっかえるのではないか……?」
「うわぁ……」
食べる食べる。
お腹が空いてるのだろうという結論のもと、余っていたおにぎりや炙った干し肉を目の前に持っていった瞬間、その行き倒れはガバッと跳ね上がるようにして起きた。
そして、目を覚ますなり目の前の食料に食いついた。
「ほひひぃ! ほひひいへふっ! むぐむぐむぐっ!」
「せめて食べ終わってからしゃべって欲しい……」
それ、子供がよく親に注意されるやつな!
お坊ちゃん育ちの九重は、食べ方が気になるらしく、その様子を見ながら始終顔をしかめていた。
「ほら、水も飲んで! 食べながらしゃべると舌を噛むから。まだ食べる?」
「はひっ! ごく、ごく、ごく……」
俺は、さっき夜食用に握っておいたおにぎりを、もう一つ差し出した。
うん、この感じはアレだ。なんかちょっと懐かしい。
腹へり子猫に餌あげてる感じ? ……いや、それはしたことねぇな。
んじゃ、妹の世話焼いてる感じ? ……いんや。あいつもこれほど手がかかることはなかったと思うけど。
俺たち三人は、ただただ呆然と食料が次々とその口に消えていく様を見守るしかなかった。
「危ないところを救って頂き、どうもありがとうございましたぁっ!!」
見事なスライディング土下座……実際に見るのは初めてだな。
「あ、いや。ちょっと頭を上げて!」
「はいっ!」
「俺は近江幸。君、名前は……?」
「あ。すみません、わたしったら! わたしの名前はメイシア・ルクソミーと申します」
「私は五島薫だ」
「僕は九重理玖です」
どこの汚い少年浮浪者かと思ってたら、何と少女だった!
髪は伸び放題でボサボサだし、服もドロドロだし。わかんなくてもしょうがないよね?
「ほんっとーにすみません! 貴重な食料を分けて頂いてしまって!」
いや、本当にな。
君、多分成人男性三人の三日分くらいの食料食べたよね?
お腹いっぱい食べたであろう彼女がキラキラとした目を向けてくるから、文句は言いたくても言えない。
「話せば長くなるんですが、長く住んでいた町を追い出されてしまって……違う町に行こうと思って歩いてたんですけど……食べ物もないし、お腹が空きすぎて動けなくなっちゃって! 危うく死体になるところでした~えへへ」
「町から追い出されたって……?」
どうせ、暇してたんだ。話くらい聞こうじゃないか。
ウメコはまだ戻ってこない。
◇◇◇
彼女曰く、町を追い出されたのは二日くらい前のことらしい。
俺たちが森から出た時とほぼ同じくらいか。
「わたし、こう見えても神殿で働いていた聖職者でして。あの日も神殿でのお仕事が終わったあとで、宿舎に戻ろうとしたら入れて貰えなくて……」
メイシアが語ったのは次の事だった。
メイシアたち聖職者は、毎日朝から晩まで神殿で祈りを捧げるのだそうだ。
食事は日に一度夕食のみ。
(異世界の神殿、ブラック過ぎる……絶対就職したくないやつ)
お勤めを終えてようやく夕食にありつけると思って、自分の宿舎に戻ろうとしたところ、宿舎の前には兵士がいて門前払いをされた。
そして、上司に当たる大神官が前に出てきてこう言った。
『この偽聖女め! お前の仕事はもうここにはない。本来ならば聖女を騙った罪は国家反逆罪と同等だ。死刑に相当する。しかし、新しい聖女様の恩情で王都追放で済ませてやるとの事だ。感謝しろよ? 田舎へ帰るなりなんなりしろ! もう二度とここへは帰ってくるなよこの大食らい偽聖女め! お前のせいで神殿の食費が逼迫されてたんだ! とっと消え失せろっ!!』
「なるほど、大食らい聖女……」
「なるほど」
「まぁ、納得のネーミングですけど、もう少し捻りが欲しいですよね。暴食の聖女とか、聖女ベルゼブブとか」
ブルータス、お前もか。
九重がボソボソ呟いてるけど、お兄さんは思わぬところで中二病仲間が見つかってちょっとびっくりだよ。
「えっ?! 今のわたしの話で、皆さんの心に響いたのそこだけですか?! 取るものも取らず追い出されたわたしに対する同情とかは?!」
「うーん、とりあえず神殿がブラックだってことがわかっただけだな」
朝ご飯も食べさせず、昼休みさえなく一日中祈らせるなんて、絶対まともな職場じゃないことだけは確かだ。
しかし、だ。
先ほど彼女の胃に収まったのは三人分✕三日分の食料。
これが一日一食とはいえ毎日のことなら、さぞかし神殿の財務担当は頭を悩ましたことだろう。
彼女を一日雇うだけで、単純計算で九人分のコストがかかるということだ。
もしかすると、その件以前から解雇を検討していた可能性はある。
そして、彼女を罵ったのは財務担当なのかもしれない。そう考えると少しばかり相手に同情してしまう。
「そ、そんな……でも、とにかく無一文じゃご飯も食べられないですし、働き口を探そうと思ってギルドへ行ったんです。そしたら、王都のギルドでは追放者に仕事を与えることはできないと言われて追い出されてしまいました……」
「ギルド……?」
「あっ、冒険者ギルドのことです!」
冒険者ギルドは、冒険者の資格を持つものに色々な職を紹介したりもしているらしい。通常ならば、そこで日雇いの雑用のような仕事を紹介してもらうのも可能だそうだ。
ああ、あっちの世界でも見たなぁ、日雇いのアルバイト。大学生の頃にかけ持ちしてやった覚えがある。交通量調査とか、夜間の警備とか、イベント設営とか……。柴崎が絡んでこない大学生活は、ホント自由で楽しかったなぁ……友達作ったりバイトしたり。奴のせいで満喫できなかった青春時代を取り戻したみたいだったなぁ……。
ああ、いかん。何か感傷的になっちゃった。
メイシアがギルドから追い出されたのも、まぁ、当然の成り行きだと思われる。
王都から追放された者に仕事を紹介なんかすれば、自分たちの首を絞めることになりかねないからな。
でも、そんな話をするメイシアに、落ち込んだところは見られない。
「だから、違う町のギルドでなら雇ってもらえるかなって思ったんです!」
お嬢ちゃん、キミ結構メンタル強めだよね?
「それで、早い話が違う町への移動中に空腹で動けなくなったと……?」
「はい! お恥ずかしい話ですが……それで……それで、お願いがあるんです!」
む。
嫌な予感が……。
「わたしを一緒に、どこかの町まで連れて行ってください! お願いします!」
やっぱり。
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