課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

文字の大きさ
20 / 68

(17)出番の少ない課長

しおりを挟む



「ありがとうございます! ありがとうございます! 食事も、ものすごーく美味しかったです! 特に肉! あの肉が美味しかったです! 神殿では堅パンと具なしのスープと葉っぱしか食べたことなくて……」

 決定権を委ねられたというか、丸投げされた俺が渋々頷くと、彼女の目に涙が浮かぶ。
 俺たちのキャンプ飯に、しっかり胃袋をつかまれた様子だね。

 えっ……ちょっと待って。カタパンって何、カタパンって……?!
 肩パンのことかい? 聖職者なのに意外と暴力的なの? って違うよね……知ってる。

 聖職者と言うからには、肉類はダメなのかと思いきやそうでもないらしい。
 しかし、名目上寄付で成り立っている神殿が贅沢はできないという理由で満足な食事はさせて貰えなかったそうで。
 彼女はやわらかいパンの缶詰と、課長特製の干し肉が特に気に入ったらしい……と言っても、干し肉は全て彼女が平らげてしまってもうないけどな。

「そ、そんな……あの濃厚な甘みのある肉と塩コショウのバランスが絶妙な干し肉が、もう食べられないのですか?!」

 と、さっきより泣きそうになっていた。何故だよ。

「まぁ、でも、事前通告なしでいきなり解雇して追放するのはちょっとひどいですよね。それ相応の罪を犯していれば仕方ないかもしれないですが……労働基準法には違反してると思います」

「そうですよね?! ひどいですよね?! そりゃあ、ひもじすぎて大神官様の部屋の冷蔵庫から、いい匂いのするチーズとか大きなソーセージとかとろけるような歯触りのフルーツとかをこっそりお恵み頂いたことはありますが……」

「……(それか)」
「……(それだな)」
「……(それですね)」

「まぁ、きっと成長期なんだろう、きっと。よければこれも食べるかね?」

 何故か、孫を餌付けするおじいちゃんみたいな目をした課長が差し出したそれは──。
 あっ! ちょっと待って、課長! それは──!

「わぁっ! ありがとうございます!! 頂きます!!!」

 俺が夜食に食べようと思ってとっておいた、フリーズドライのプリンちゃん!!!
 さっき、お湯入れて戻しておいたんだよ!!

「あっ!! 待っ……!!!」

 ──パクッ! ごくごくごく……。

 遅かった……遅かった!!!

 愛しのプリンちゃんは、一口でメイシアの口の中へ消えていった。
 ちなみにその時メイシアは、待ったをかけた俺の方をチラッと見ながら、急いで口に持ってったからね!? 絶対に 故意だよね?!

 ああ、俺の……俺の愛しのプリンちゃん!!!
 ぐぬぬ。許すまじ、メイシア・ルクソミー!!!

「なっ……何ですかこれはっ?!! とぅるっと滑らかなのどごし! そして、クリーミィでコクがありそれでいてしつこくないほどよい甘さ……なんて、なんて素敵な飲み物!!! こんなものが世の中に存在するなんてっ!」

 カムバぁぁぁぁぁぁぁっクぅぅぅぅ──! 俺のプリンちゃぁぁぁぁぁぁぁ──んっっっ!!!!

「ああ、俺のプリン……」

 メイシアは喉を鳴らしながら、プリンの美味さに涙を浮かべているが、俺が浮かべているのは失意の涙だよ?!

 ──ぽん。

 肩が叩かれて振り返ると、九重が憐れむように言った。

「先輩、ご愁傷さまです。さっさと先に食べておけばよかったのに」

 そうね!
 でも、俺、長子だから! 好きな物は一番後に食べる派なの!
 とってある甘味を楽しみに一日頑張れる派なの!
 夜食に、ひと匙ひと匙味わって食べようと思ってたのに!

 そうそう。長男長女などの長子は好きな物を最後に食べ、次男次女以降の子供は最初に食べる傾向があるらしいんだよね。
 長子は次子が生まれるまで競争相手がいないためであり、次子は生まれた時点で既に長子という競争相手がいるかららしいが。そんな話を、大学で誰かがしてたな。

 ただ、元は課長のリュックから出てきたフリーズドライだから、本人が誰にあげたりしても責めたりはできないのが辛い……。



 後、今日一番の驚きは大食漢聖女でもなく、プリンちゃんの悲劇的末路でもなく、水で膨らむティッシュだった。

 何でも、新発明の商品というか、まだ発売前の商品らしい。
 米粒ほどの大きさの塊が、一滴の水を含ませるとたちまち膨らんで普通のティッシュになる、という画期的な代物だ。
 これは九重が持っていたもので、近々試験的に販売される予定だったらしい。空間収納のスキルを見た後だからインパクト的には弱いかもしれないけど、それでも十分な驚きだったよ。
 俺と課長は何粒かわけてもらって、チャック付きのミニ袋に入れたものをポケットに仕舞った。
 まったく、恐ろしい世の中だ。質量保存の法則って何だっけ? って聞きたくなるような商品だよな。



 ま、詳しい製造方法は企業秘密ってことで教えてくれなかったけど。









──────────
*米粒ティッシュ……お尻は何で拭くの問題を解決する救世主。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...