課長と行く異世界の旅〜異世界転移に巻き込まれた課長がチートを発揮している件について。

真辺わ人

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挿話(3)ギルドにて

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「おお……っ!!!」

 ざわり、と部屋の中が揺れる。

「ユウカ様は聖女です! 素晴らしい!」
「勇者! カケル様は勇者の称号をお持ちです!」


 ざわり、が大きなどよめきに変わるまでにそう時間はかからなかった。

 当然だ。

 当然だから驚きはしないが、カケルは得意そうに鼻を鳴らした。
 ユウカはポカンとしているが、「聖女」がどういうものかわからないだけだろう。
 しかし、わからないなりにも持て囃されて満更でもない様子だった。





 事前に通達を受けていた通り、今日は城下にある冒険者ギルドへと足を運んでいた。
 お目付け役というか、見届け人として王女が同伴したからか、到着してすぐに貴賓室へ通された。
 そこで今、ステータス判定を受けている。と言ってもそんなに大袈裟なものではなく、鑑定魔法のかかった薄い板のようなスクリーンと呼ばれている物に触れるだけである。

 正直言うと不安はあった。
 スクリーンにかけられた鑑定魔法の方がカケルのスキルより勝っていれば、きっと素のステータスが表示されてしまうだろう。
 だから、ユウカの様子を見てからスクリーンに触れることにした。
 幸いユウカのステータスは表示されたようだったため、カケルもすぐにスクリーンに触れた。
 スクリーンは改変されたステータスを表示した後、青白い光を放ちながら手の平に収まるサイズまで縮んだ。

(どうなってるんだ?)

 カケルがスクリーンが変化したステータスカードをこねくり回していると、王女のアリステラが近づいてきた。

「カケル様は、本当に勇者でいらっしゃったんですね!」

 少し含みのある言い方だ。

「おや。疑ってらっしゃいました?」
「とんでもない。でも、あの、勇者様の紋様が見られなかったので……」
「紋様って、もしかしてこれのこと?」

 彼女の言葉に被せて、カケルは袖をまくり上げた。

「そ、それは……!」

 カケルの腕には龍のような紋様が巻きついていた。

「……龍紋……っ!!」

 彼女がハッと息を飲み、カケルは腕をしまった。

(昨日のうちに勇者の書簡を見せてもらっておいてよかったよ、ホント。幻影魔法なんかこっちに来てから初めて使ったから、上手く龍紋に見えるようになるまでちょっと時間かかったしね。うん、頑張った甲斐あったな)

 カケルの口角が上がる。

「……失礼しました」

「いいよいいよ~オレみたいな貧弱そうな人間が勇者だなんて、にわかには信じ難いもんね?」

「……っ! いえ、そんなことは……」

 勇者は身体のどこかに龍紋が現れるのだということも、その書簡で知った。

 さっき手渡されたステータスカードを確認する。

 名前 シバサキカケル
 種族 人間
 レベル 1
 スキル 光魔法、聖剣ヴェルダ
 称号 勇者

 カケルによって改竄されたステータスが、彼のステータスとしてカードに記載されている。
 もし、本来のステータスが記載されてしまったら、とっさに幻影魔法で目くらましをして、その間にカードの記載を偽装するか、と算段していた。

 が、その手間は省けたようだ。

 もちろん、勇者のスキルもその書簡で昨日把握済みだ。
 前回の勇者の召喚がたった百年ほど前だったのが幸いして、結構詳細な情報を得ることができた。
 といっても、無断での閲覧だが。
 突然見せてくれ、なんて言ったら怪しまれるに違いないから。
 勇者の書簡は、城で働く女中たちを懐柔してカケルが目星をつけておいた禁書庫に保管されていた。
 幻影魔法でアリステラの姿を模倣したら、警備の兵も疑うことなく案外簡単に入ることができた。
 勇者の書簡も目立つ場所に保管されていて、何事もなかったように偽装して勇者の書簡を持ち出すのは、造作もないことだった。

(オレのスキル、意外とチートもんだよな。ちょろ過ぎだろ)

 カケルは心中でほくそ笑んだ。

「あ、そうだアリステラちゃん。昨日オレといた連中のことなんだけど」
「……?」

 声を潜めて囁く。打てる手は打っておくに越したことはない。

「ハゲ眼鏡とのっぽのデカ男。覚えてるかい?」

「は……あ……カケル様の命令でわたくしたちを助けていただいた方々のことでしょうか? それでしたら今、深淵の森へ騎士団を向かわせておりますので、見つかり次第保護を……」

「いや。保護は必要ないよ……というか、逆に捕まえた方がいいかもしれないんだよね」

「えっ……それはまた一体何故……?」

 アリステラは不審そうに眉をひそめた。
 仲間ではなかったのか?
 彼女の表情は、そんな疑問を浮かべている。

「いつ聞かれるかわからなかったから、彼らがいる時は言えなかったんだけど。ハゲ眼鏡は実は危険なスキルを持ってるし、もう片方は彼の熱心な信奉者だ。このまま野放しにしておくと国を乗っ取られる危険性さえあるかもしれない」

「そんな……っ?! それは、どういうことですか?!」

「闇魔法、魔剣ユーグドラルってスキルに聞き覚えはある?」

「……っ?! まさか、彼らは魔族に関係する者たちなのですか?!」

 アリステラの過剰な反応に満足したカケルは、大仰に頷いてみせた。

「そう、その可能性はあると思ってるんだ。あの時アリステラちゃんを助けたのもそのスキルを使ったんだよ。特にハゲ眼鏡は、向こうの世界にいた時から何を考えてるのかわからない人だったからね。元から魂が闇寄りなのかもしれないし、勇者オレの召喚に巻き込まれた時に、魔族に目をつけられて闇落ちしてしまったのかもしれない。あの時はオレの光魔法で、彼らの闇の気配が暴走しないように抑制していたんだけど。オレが離れた今、彼らはもう完全に闇に取り込まれてしまっているかもしれない」

「そんな……」

「いつ闇落ちしても仕方がないほど、彼らは闇に汚染されていたんだ。本当はオレがあの場で処分してしまうのが一番だったんだけど、何の罪もない君たちを巻き込む訳にはいかないだろ? とりあえず安全なところまで連れて行ってあげたかったから、物理的に引き離すことにしたんだよね。アイツら、もう今頃は完全に闇落ちしてしまって、魔族とか闇の眷属とかと契約している頃かもしれない」

 もちろん全てカケルの作り話である。

 昨日忍び込んだ禁書庫や城の女中たちから、魔族の情報も仕入れ済みだ。

 魔族は、数百年に一度ほどの周期で人間の世界を脅かしている。
 彼らは気まぐれのように人間の町を襲い、時として国ごと滅ぼすことさえあったらしい。
 人間側はいつも彼らを警戒してピリピリしている。いつ何時自分の居住区を襲われ、生活が脅かされるかしれないからだ。
 そのため、数十年に一度神託によって『勇者』なる者を異世界から召喚し、魔族の襲撃に備えているらしい。
 実際ここ何年か、今までより危険度の高い魔獣による被害が相次いでおり、魔族の襲撃が近いことを示唆しているのでは? という憶測が飛び交っているようだ。

 勇者を異世界からの召喚に頼るのは、召喚した勇者がいずれも『光魔法』と『聖剣』という稀有なスキルをデフォルトで所持しているため。そして、魔族の使う闇属性の魔法に対する耐性が高いことによるらしい。

 ちなみに魔族を撃退した後、勇者はその国の王女と結婚することが多いらしい。

(……今代の勇者の相手はこの王女ってことだな。見た目も好みだし、ちょっと気が強そうな感じも悪くないな。オレとしてはもうちょいハーレム的な展開が希望だけど……まぁ、そこは側妃の制度とかもあるだろうし)

 異世界転生のWEB小説にハマってからというもの、伊達に何十本も読み漁ってはいない。
 王女と結婚すればきっと将来は国王だろう。そして、国王は側妃が認められるものなのだ。絶対。

「なんてこと……!」

 そのままカケルは、王女の目を見ながら衝撃的な発言を繰り返した。
 するとしばらく不安そうに揺れ動いていた彼女の瞳が、突然とろんとしてきた。

(上手く

 昔から何故か人を言いくるめるのが得意だった。
 子どもの頃に、「人の目を見て話しなさい」と言われたからその通りにしていたら、この不思議な能力に気がついたのだ。
 目を合わせながら上手く相手の感情を揺さぶると、いつの間にかカケルの言うことを信じるようになっている。
 カケルの口から出た嘘がまことに成り代わるのだ。
 ちなみに暗示をかけて相手の行動を操ったりするわけではないので、催眠術ではない。
 カケルの言う嘘が実のように思えるだけで、それに対する相手の行動や考えを直接操ったりはできないのだから。
 カケルはあくまでも誘導するだけ。

 恐らく、これが『詐術』のスキル効果なのだろう。

 初めて見た時は、あまりパッとしないスキルだと思っていたが、その効果に気づいてからは意識して発動するようにしていた。
 魔法のように派手なスキルではないが、口先が得意なカケルとは相性がいいスキルだと言える。
 ただ、感情の起伏が極端に乏しい人間や、視線が一切合わない人間には使いづらい欠点はあるが。

「騎士団が連れて帰ってきてくれれば問題ないんだけどさ、すれ違っちゃう場合もあるかもしれないよね? だから、彼らがこの城……いや、城下町へ足を踏み入れる前に対策しておいた方がいいと思うんだ」

「わかりました。彼らも異世界人ならば、遅かれ早かれ身分証を手に入れるためにギルドで冒険者登録することになるでしょう。その際城へ通報するようにギルド長へ伝えておきましょう」

 アリステラは固い表情で頷いた。

「ちなみにだけど、彼らが本当に魔族と通じてた場合はどうなるの?」

「程度にもよりますが、魔力を封じた上で国外追放、もしくは処刑でしょうか。あ、でも……異世界ではお仲間だったんですよね……? もしも、勇者様の助命嘆願があれば処刑は免れるかもしれませんが……」

「いやいやいや~ないよ。ないない。だって魔族って言ったら、国どころかこの人間の世界を脅かす存在なわけでしょ? それなのに勇者が肩入れなんてできるわけがないよね?」

「……まぁ、確かにそうではありますが……では、捕縛命令を出してしまっても大丈夫ですか?」

「あー……うん。大丈夫。ただ……ハゲ眼鏡の方はさ、ぶっちゃけどうでもいいんだけどさ。デカい方は、まだオレのスキルでまともな人間に矯正できるかもしれないから、生かしておいて欲しいかも」

「はぁ……わかりました。では、ギルド長に両名の捕縛命令を出してきますので、少々お待ちくださいませ」

「うん。アリステラちゃん、よろしくね~!」

 アリステラはそのまま、護衛を引き連れてギルドの奥へと姿を消した。

 その様子を見ていたカケルは、楽しくて堪らないと言うように喉を鳴らした。


(さぁ……どうするユキ?)









──────────
*次回は近江くん視点に戻ります。


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