51 / 68
(40)息をのむ光景
しおりを挟むそれは、あまりにも異様な光景だった。
兵士たち──いや、元は兵士たちだったと言うべきか。彼らの至る所から、何かが生えている。
これは……。
「キノコ、か……?」
暗い遺跡内には不釣り合いなほどポップで蛍光色なキノコが、彼らの目や鼻や口や指の間や、鎧の隙間から多数覗いている。
苗床、と言うやつだろうか。
俺は、知らずゴクリと唾を飲み込んだ。
気がつくともう、悲鳴は聞こえなくなっていた。
「まずいな。思ったより早く開きそうだ」
リアがぽつりと呟いた。
「えっ?!」
「来るぞ! 息を止めろ!!」
聞き返す間もなく、リアが叫んだ。その瞬間、兵士の身体ににょきにょきと生えていたキノコの傘が、ぷうっと風船のように膨らんだかと思うと、ふにょふにょと動き出した。
まるで多数の風船が右に左に踊り出したようだったが──。
「えっ……あっ……なんだ?!」
「馬鹿者! 息を止めろと言うておろうに!」
俺が戸惑っているうちに、限界まで膨らんだ傘がパァンッと弾けた。
リアの光をキラキラと反射しながら、粉のようなものがほぼ一斉に飛散する。
「んむっ!!!」
その瞬間、チビリアが俺に覆い被さってきて、彼女の背中の羽根含めたその全身で口と鼻を塞がれた。物理的に。
──ふにっ!
や、柔らかいところが口に当たっているんだが?!
「目も閉じろ! アレは体内に入り込んで寄生する!」
俺は動揺しながらも、言われた通りに目も閉じた。
一体どれほどの時間そうしていただろうか?
10分? 20分? いや、ギネス記録保持者じゃあるまいし、そんなに長い間息を止めてはいられないはずだ。
そろそろ胸が苦しくなってきた。
「もう目を開けてもよいぞ。ただし、身動きはするな。息は一気に吸うな、少しづつゆっくりと吸え」
その声と同時に、顔に張り付いたリアが離れた気配がした。
「うわっ! 何だこれ……っ?!」
目を開けると、さっきまでとは全く違う光景が広がっていた。
まるで、一面の銀世界、だ。
白くキラキラと光る粉がそこかしこに積もっている。もちろん、寄生され動かなくなった兵士たちの上にも。
こんな状況じゃなきゃ俺も、素直に感嘆の声をあげたかもしれない。
それほど、幻想的な眺めだった。
しかし、辺り一面にふり積もったそれは、きっとキノコの胞子なのだろう。
リアの様子からしてあれを吸い込んだが最後、さっきのカラフルポップなキノコが、あちらこちらから生えてくるのは間違いないだろう。
そして、辺り一面に降り積もっているということは、もちろん──。
「俺にも積もっているってことか」
「ま、そういうことじゃな。動くなよ?動けば積もった胞子が鼻や目、口に入り込む」
俺はゾッとした。キノコに寄生されるなんて絶対嫌だ。
「お前の力で何とかならないのか?」
「何とかってどうするのじゃ?」
「いや、ほら、魔法とかで焼き払ったりとか……」
「……わらわは燃やされて負けたのだが?」
あ。確かに言われてみれば。
「悪いが火は扱えぬ。そして、この状況を脱するいい案も今のところはない。お前が少しでも動けば積もった胞子が舞い散るだろうな」
リアが羽を広げてピッタリくっついてくれていたおかげで、俺の顔には胞子がついていないようだった。
「息を止めながら、この部屋を駆け抜けるとかもダメかな?」
「動いてるお前の顔を覆うのは、難しそうだぞ。少しでもズレればどこからか侵入するかもしれん」
「そういえば、お前は胞子の中で動いても平気なのか?」
「……うむ。まぁ、わらわは分体の集合体だからな。この目も口も鼻もただの飾りのようなものじゃ。本来の役目を果たしているわけではない。だから大丈夫なのじゃ」
「あ、ああ、なるほど……?」
わかったようなわからないような。
つまり、今は人の形に見えているけれども、その全部が細かい蚊の分体の集まりで、目や鼻や口に見える部分も結局は分体の塊。
見たり、匂いを嗅いだり、呼吸したりする機能はないということか。
じゃあ、俺の口にずっと当たってた柔らかい胸らしきものもただの飾りってことか……。
「…………」
いや、ガッカリなんてしてないぞ?
10
あなたにおすすめの小説
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
優の異世界ごはん日記
風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。
ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。
未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。
彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。
モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる