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(43)課長を探すことにしよう
しおりを挟む──モッキュモッキュモッキュ。
メイシアが口に入れているのは、俺たちが謝礼金でカローの町で買い込んだ食料だ。
課長や九重の空間収納は、時間経過なく保存できるので、割と食材そのものよりも、すぐに食べられるものをメインに入れてある。
ほぼほぼメイシア専用というわけなんだけれども。
九重は変わったものを発見していた。
「これ、干物屋さんに売ってたんですけど、面白いんですよ!」
美少女九重がつまんでいたのは小さな透明の粒だった。
まだ彼のそのビジュアルにはなれないけれども、動揺を隠して俺は聞き返した。
「面白いって何が?」
「魚の卵らしいんですけど、乾燥している状態でこの1ミリ程の卵が、水を含むと膨らむんです。軽く十倍以上に」
「十倍……」
「栄養価も高いし、食感や味も米に似てるんですよね。だから、メイシアちゃんが今食べてるおにぎりにも混ぜてあるんです」
浸す水の量で大きさを調節できるらしい。
メイシアが口に入れる時は米粒大だが、腹の中で膨らむってことか。
「そういうことです。ああ、向こうの世界に持って帰れば、貧困地域の食糧難とかも解決できそうなんだけどなぁ」
そんなことを思い悩むだなんて、九重って本当に真面目だよな。
「うぷっ! 満腹です~!」
メイシアは、ぽっこりとしたお腹を撫でながら、小さくゲップをした。
「ところで、九重は本当に呪いにはかかってないのか?」
俺が、ペットボトルの水を渡すと、メイシアはそれを受け取りながらコクコクと頷いた。
「はい。呪いの気配は感じ取れませんでした。呪いとは別の原因も考慮に入れるべきかと思います」
「呪い以外の可能性もある……のか?」
リアの方を見やると、奴は大欠伸をしていた。
「わらわは知らんぞ」
「断言しただろうが? ウリ何とかの呪いって」
「ええい、呪い以外ではこんな奇妙な現象起こらんだろうが?!」
「いや、でも……例えば、さっき俺たちが遭遇したキノコの胞子みたいに、知らずに体内に女性化菌みたいなのが入ったりしたら……」
「ええ……僕がそれに感染したってことですか?」
不安そうに眉を下げる九重。
「ま、まぁ、その可能性もあるってことだよ」
「じゃあ、先輩に移しちゃおうかな~」
「はぁっ?!」
「風邪って移したら治るとか言うじゃないですか! これも移したら治るかも! 先輩、ちょっとキスでもしませんか? ね?」
そんな、ちょっとコンビニ寄らない? みたいなノリで感染させに来るな!
「はぁっ?! やるわけねぇだろ?!」
逃げる俺、追いかける九重。
いや、美少女とのキスは捨てがたいが。中身が九重だと思うとちょっと受け付けないものがあるんだよな。
「せんぱ~い!」
「こっち来んな、バカ!」
──わふっ! わふっ!
「うわぁっ! ウメコ、遊びで追いかけっこしてる訳じゃないんだよ!」
──わふっ! わふっ!
「せ~んぱいっ!」
「お前、そのポーズ……か、可愛くなんてないからな?!」
「お二人とも、何してるんですかねぇ?」
「知らん。わらわは眠いからちょっと寝る。肩を貸せ」
「どうぞ~」
「明かりは消すからな」
「あ、ちょっと待っ……」
──シュン。
突然辺りが暗闇に包まれた。
自分の指先でさえ視認できない、完全な闇だ。
「げっ。真っ暗じゃねぇか!」
「すみません、リアさんが寝ちゃいました!」
「先輩、どこですか? 見えない!」
「げぇっ! 油断させておいてこっち来るな! 九重お前、懐中電灯とか持ってるんだろ? 出せよ」
「あっ! そうか! そうでした! リアさんのおかげで不要になったから、さっきしまったんでした!」
──カチッ!
──わふっ!
懐中電灯の明かりが、遺跡内を照らし出す。
リアはメイシアの肩の上で丸くなって寝ていた……蚊も寝るんだな。24H営業かと思ってたよ。
「ウリダスの遺跡は、建国神話の中では王都の方まで続いてるって話もあるんですよ」
「王都かぁ……だけど、方向がわからないとどうしようもないな。それに、ここから出るにしてもなんにしても、とりあえず課長を探さないとかな」
俺の言葉には九重も同意する。
「そうですよねぇ……五島課長なら平気で一人で歩き回ってるでしょうけどね」
「あっ! そういえば、お前たちどうやって俺を見つけたんだよ?」
そうだ。思い切りスルーしてたけど、こんな迷路みたいな遺跡の中で再会するだなんて、何万分の一とかの確率なんだよ。
「まぁ、そこはウメコちゃんが頑張ってくれましたから! ねー、ウメコちゃん!」
──わっふぅぅ!
照らし出されたウメコは、まるでドヤるように胸を張って、ピンと鼻先を伸ばした。
「先輩の上着預かってましたからね」
「警察犬か?!」
「まぁ、犬もフェンリルも元を正せばオオカミ系なので、ほぼほぼ同じですね!」
「じゃあ、課長のこともウメコが探せるんじゃないか?」
「おおっ! 意外といいこと言うじゃないですか、先輩!」
意外とは余計だな。
「先輩、課長の持ち物って何か持ってます?」
「あー……えーっと……」
俺は、慌ててポケットを探る。空間収納なんて便利なものは持ってないからな。
「部長にもらったのって、飴くらいしか持ってないかも……」
「僕はわけてもらった梅干し……」
──わふぅっ!!
(わたしに任せろ!)
何故か、ウメコがそう言った気がした。
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