【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第一章・無自覚編〜出遭い

まとめ役による理不尽な顔合わせ(11/23一部変更)

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 学問都市オークニー。この国で帝都に次ぐ大きさの街であり、様々な魔法研究施設が集まる。

 その中の一つ。深い森の奥にある古城。そこがクリスの職場でもあり、この国の治療魔法における総本山の治療院研究所。

 その一室。

 クリスは自分の研究室で壁に張り付けた紙を相手に唸っていた。足元には本が山積みされ、雪崩をおこしている本もある。

 魔法陣と図式が書かれた紙の前でクリスは悩んでいた。研究中の魔法を考えないといけないのに、今朝出会った青年がチラつく。

(あのまま無視して研究所内に入ったが、あの男が新人なら……)

 クリスは振り払うように頭を振った。そこにクノックの音が響く。無視していると、勝手にドアノブが動いた。

「入るぞ」

 声と同時にドアが開き、小太りの中年男性がひょっこりと顔を出す。白髪混じりの濃い茶髪。垂れた茶色の目は相手の警戒心を削ぐ。
 名はテオドルスだが、略称でテオと呼ばれている。

「どうした、テオ?」

 紙から目を離さずに答えるクリスにテオが慣れた様子で肩をすくめた。

「ちょっと教育係をしてほしくてな」
「断る」

 カリストから聞いていた通りの展開にクリスは頭を抱えかけたが、こらえた。

 一方、自分よりひと回りも年下のクリスから辛辣な拒絶されたテオは、気にする様子なく、軽く言った。

「君はここに来て何年になるかなぁ? 確か十年は経っていると思うけど? 十年もここにいて教育係をしていない人は君以外にいないぞ」
「今までは全て新人の方から『年下に教わることなどない』と拒否してきたんだ。私に非はない」

 治療院研究所に入れるだけの知識と魔法技術がある人間は、みなプライドが高い。そのうえ偏屈な性格の者も多い。
 先輩とはいえ、クリスのような年下に教えを乞うなどあり得ない、と拒否され続けてきた。

 クリスの答えが想定範囲内だったのか、テオが説得を続ける。

「確かに今までは年齢を理由に教育係を免除してきた。だが、こうして君と同年代の者が入るようになったんだ。ここいらで教育係を経験しておくべきではないかな? それに彼は君から教わる気、満々だぞ」
「それは奇特な変人だな」

 ここでようやくクリスは自分から治療魔法を習おうとしている人物に目を向けた。

(やはり、な)

 そこには今朝、治療院研究所の門で出会った青年がいる。クリスは改めて青年の全身を見た。

 赤髪を襟足だけ長く伸ばした独特な髪型。人懐っこく笑う琥珀の瞳。筋が通った鼻に薄い唇。精悍な顔立ちで、かなりの美青年。
 しかも体はしっかりと鍛えられ、筋肉質。ここまできたら欠点を探すほうが難しい。

 テオが人当たりの良い笑顔で紹介する。

「彼はルドヴィクス。学力テストは問題なし、どころか、かなりの優秀な成績で通過。しかも魔力保有量はこの国のトップクラス。君の治療魔法の研究にも役立つんじゃないか?」
「トップクラス、か……」

 テオが青年にクリスを紹介した。

はクリスティアヌス。みんなからはクリスと呼ばれている。治療院研究所に最年少で入り、治療師の最高位の証である白のステラを、これまた最年少で授与された天才だ。そうそう。治療院研究所は身分に関係なく学ぶから、地位を表す家名は名乗らないように」

 テオの忠告に頷いた青年がまっすぐ頭を下げる。

「ルドヴィクスと申します! ルドと呼んで「うるさい」

 クリスはルドの自己紹介を切ると、値踏みするような視線を向けた。

 一心不乱にこちらを見る琥珀の瞳。しかも、これだけ不躾な態度をとったにも関わらず尊敬の眼差しで見つめてくる。
 治療魔法を教えてもらえると疑っていない目。それは、まるで……

「待てをしている犬だな」
「いぬ?」
「自覚なし、か。まぁ、いい」

 下手にプライドが高いより、これぐらい従順なほうが教えやすいだろう。というか、これだけ素直そうな人間が治療院研究所に入るほうが珍しい。

 いろいろ諦めたクリスはもう一度ルドの全身を観察した。

 ルドの身長は平均身長より高く、クリスの頭はルドの肩にも届かない。そのため自然とルドがクリスを見下す。

 クリスは胸の前で腕を組むとルドを見上げた。

「無駄に背が高いな。私への当てつけか?」
「え? は、あ、すみません!」

 ルドが慣れた様子で素早く床に片膝をつき、顔をあげる。それは騎士が主に忠誠を誓う姿勢で。

 ルドの動きにテオの目が丸くなる。そこにクリスは躊躇ためらうことなく蹴りを入れた。

「誰がそこまでしろと言った? さっさと立て!」

 理不尽な扱いをされたにも関わらず、ルドが慌てて立ち上がり弁明をする。

「すみません! 生まれつき体が大きかったため、背も高くなりまして、こればっかりはどうすることも……あ! もし、自分の背が目障りなら膝をついて歩きます!」

 名案とばかりにルドが目を輝かせて提案した。クリスはどこまでもバカ正直なルドに軽くため息を吐く。

「そこまでしなくていい」

 そこに控えめなノックの音がした。

「あの、治療の依頼がきてます」

 ドアの向こうから聞こえた声に、クリスはルドとテオを置いてドアを開ける。すると、少年が申し訳なさそうな表情で立っていた。

「誰からの依頼だ、ニコ?」
「オンディビエラ子爵より緊急で治療をしてほしいと」

 首をかしげるルドにテオが囁く。

「事務員のニコだ。こうした雑用をしてくれる」
「随分、若い事務員ですね」
「適性があれば年齢は関係ない。クリスが良い例だろ」

 クリスは背後の会話を無視してニコに訊ねた。

「私はそのオクトパス子爵を治療したことがあったか?」
「オンディビエラ子爵です。クリス様が治療したという記録はありません」
「なら面識はないな。どのような状態だ?」
「それが、クリス様を指名してとにかく早く来い、の一点張りでして……」
「どういう状態か分からなければ治療に必要なものの準備もできない。断れないのか?」

 そこにテオが声を挟む。

「ちょうどいいじゃないか。ルドを連れて行ってきたらいい」
「は?」

 クリスは盛大に嫌な顔をした。



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