【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

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第二章・片思い自覚編〜帝都へ

現帝からの仕事の依頼

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 ルドが赤髪をかきながらクリスに説明した。

「早朝にセルから師匠を帝都に連れて行くように、と指令書が届いたんです」
「私を帝都に? なぜだ? そもそも、私を狙ってきた連中は何者だ?」

 ルドがクリスに両手を向ける。

「待って下さい。順番に説明しますから。師匠を帝都に連れて行く理由は、呪いの治療をしてもらうためです」
「呪いの治療? 私はそういうのは専門外だぞ」
「そうですが……どんな治療師や魔法でも治せず師匠の治療が必要だと。現帝が関わっているようで」

 現帝は先帝から若くして帝位を継ぎ、今のところ先帝が戦で侵略し、拡張した広大な領土を上手く治めている。裏では、存命である先帝の功績と威厳があるからこそ、と囁かれてはいるが。

 それでも、現帝になにかあれば、チャンスとばかりに地方で反乱、独立戦争が起きる可能性もある。

「現帝が呪われたか。で、私が狙われたのは何故だ?」
「師匠が治療をすることを快く思っていない者による差し金かと」
「本当か?」
「……たぶん」
「たぶんとは、どういうことだ?」

 無言のままルドが視線を逸らす。こうなったら脅そうが何をしようがルドは口を割らない。治療師としてクリスのことを師匠と呼ぶが、こういうところは騎士道精神が強い。

 クリスは諦めてため息を吐いた。

「わかった。で、なんでお前は魔法騎士団の服を着ている?」
「この服を着ていれば検問所でも止まらずに走り抜けられますから。あ、ちゃんと通行許可証も持っていますよ」
「それだけ急を要するということか。で、これからの予定は?」
「さすが師匠、話が早くて助かります。まずはこの先にあるオアズ町へ行き、昼食をとります。そのあとはリミニ領へ行き、そこで一泊します」

 頭に地図を浮かべたクリスは首を傾げる。

「ここから帝都に行くには、途中で小高い山脈があるから直線の道はない。小高い山脈を避けるため、北側と南側に迂回路がある。今なら気候的にも南側の道を通って帝都へ行く人が多いだろう」
「はい。その通りです」

 クリスは走ってきた道を指さした。

「この道なら、このまま南方のオアズ町へ続いている。だが、リミニ領は北側にあるだろ? 方角的に反対だ。そもそも、オアズ町からリミニ領へ行く道があるのか?」
「はい。言われる通りオアズ町から帝都へ行くとしたら、オレンボー領を抜けて南ルートを通るのが普通です。ですが、そこをあえて北ルートで行きたいと思います。オアズ町からリミニ領への抜け道がありますので、そこを通ります」
「それで私を狙っているヤツらを撒くということか。その目立つ服も私を狙っているヤツらに、オアズ町からオレンボー領に行ったという目撃情報を作るためか」

 クリスの指摘にルドが苦笑いをする。

「その通りです」
「どういう道順であれ、最終的には帝都に着けばいいんだろ? カリストの援護は期待できないし、お前に任せるしかないないな」
「カリストなら影を通ってすぐに来れるのではないのですか?」
「あいつだって、そこまで万能ではない。影を使っての移動は距離に制限がある」

 クリスは一枚の紙を取り出した。

「影を使っての移動は街の端から端ぐらいが精一杯だ。検問所を抜ける時にギリギリでこの紙を影から出してきた」

 ルドが渡された紙を読む。

「屋敷は全員無事、ですか。この紙があったから大人しくしていたのですね。師匠の性格から無理やり屋敷に戻ると思っていたので、助かりました」
「最悪の場合、私を気絶させて連れて行こうと考えていたか?」
「あはは」

 ルドが乾いた笑顔で頭をかく。クリスはルドから紙を奪い取った。

「図星か」
「だって師匠ですから」
「それが師匠にする扱いか」

 半笑いのルドが再び白い布で顔を隠して立ち上がる。

「あまり時間がないので行きましょう。慣れない馬での移動なので、疲れたら言って下さい。なるべく休憩を取りますから」

 ルドが手を差し出したが、クリスは無視して立ち上がった。

「これぐらい問題ない。行くぞ」

 クリスはさっさと馬に近づいたが上手く乗れない。あたふたしていると、ルドが颯爽と馬に跨がりクリスを引っ張り上げた。

「行きますよ」
「……あぁ」

 恥ずかしさから逃げるようにクリスは俯いた。茶色の髪がサラリと垂れて顔を隠す。
 ルドが魔法騎士団の服の肩から胸のボタンに掛かっている金色の飾り紐を外した。

「失礼します」

 ルドが素早くクリスの茶髪を一つにまとめ、金色の紐で縛る。

「……余計なことを」
「なんですか?」
「なんでもない! さっさと出発しろ」
「はい」

 ルドが再び馬を走らせた。


 昼を少し過ぎた頃、クリスを乗せた馬は何事もなくオアズ町に到着した。防壁に囲まれた円形の町。学問都市オークニーの半分の大きさもないが、街を繋ぐ要所であり商人や旅人が多い。

 検問所はルドの服装だけで通過。馬から降りるどころか止まることなく町に入れた。

「どこに行くんだ?」

 さすがに町中を全力で走るためにはいかないため、馬の速度を落として進む。
 魔法騎士団というだけで人々の視線が集まるのに、そこに治療師の服を着たクリスがいるため余計に注目を浴びた。
 滅多にない組み合わせに、話題に飢えた人々がヒソヒソと会話をする。こうして根も葉もない噂が出来るのだろう。

 居心地の悪さにクリスは不機嫌になっていく。顔を布で隠したルドがなだめるように声をかけた。

「もう少ししたら、この町の憲兵の兵舎に着きますので、それまで我慢して下さい」
「兵舎? 何をしに行くんだ?」
「そこで昼食をとって、馬を交換します」

 これだけ注目を集めている状態で町の料理店に入ればどうなるか……クリスはルドの提案にあっさり同意した。

「昼食はそこでいい。だが、なぜ馬を交換するんだ?」
「今もしっかり走ってくれていますが、昼からも走ることを考えると、疲労からどうしても速度は落ちます。それなら、元気な新しい馬のほうが早く走れます」
「そうか」

 クリスが納得していると塀に囲まれた頑丈な建物の前でルドが馬を止めた。






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